第107話 白岡美術館での生野との再会
文字数 728文字
住宅街の角を曲がると、木立に囲まれた美術館の入り口が見えて来る。ひさしの下に立った長身の青年が、伸に向かって頭を下げる。
有希のかつての同級生、生野公太だ。彼と有希の実家で初めて会った日から、ちょうど一年が経とうとしている。
「お待たせしちゃって」
傘を閉じながら伸が言うと、生野は微笑んだ。
「いえ。俺もちょっと前に着いたばかりです」
眼鏡をかけた彼は、去年会ったときと、あまり印象が変わっていない。あのときは、これ以上ないくらい険悪なムードのまま別れたのだったが、今日の生野は穏やかな好青年だ。
伸は、入り口の脇にある傘立てに傘を収めながら言った。
「さて、行こうか」
生野が両手をこすり合わせる。
「いやぁ、なんか緊張するな」
受付に行くと、奥から牧田が出て来た。展示室では、すでにカップルらしい二人が絵を見ている。
「本日はおめでとうございます」
「はぁ。ありがとうございます」
自分のことではないので、そう言われるのはなんとなく居心地が悪いが、有希が来られないぶん、伸が準備に立ち会ったのだから、まぁいいかと自分に言い聞かせる。
財布を出している生野に、牧田が言った。
「そのままお入りください」
「え?」
伸は、生野と牧田を等分に身ながら言った。
「ええと、関係者特典みたいなことですかね」
「ユウ」が伸の身内だということは、牧田の知るところとなっているし、その知り合いだからということか。
だが、生野が言った。
「でも、記念に持って帰りたいので、チケットをください。チケット代も払います」
「わかりました」
牧田が、微笑みながら生野に言った。
「こちらには、何度かおいでいただいていますよね」
生野の顔が、ぱっと明るくなる。
「はい。俺、香堂黎のファンなんです」
有希のかつての同級生、生野公太だ。彼と有希の実家で初めて会った日から、ちょうど一年が経とうとしている。
「お待たせしちゃって」
傘を閉じながら伸が言うと、生野は微笑んだ。
「いえ。俺もちょっと前に着いたばかりです」
眼鏡をかけた彼は、去年会ったときと、あまり印象が変わっていない。あのときは、これ以上ないくらい険悪なムードのまま別れたのだったが、今日の生野は穏やかな好青年だ。
伸は、入り口の脇にある傘立てに傘を収めながら言った。
「さて、行こうか」
生野が両手をこすり合わせる。
「いやぁ、なんか緊張するな」
受付に行くと、奥から牧田が出て来た。展示室では、すでにカップルらしい二人が絵を見ている。
「本日はおめでとうございます」
「はぁ。ありがとうございます」
自分のことではないので、そう言われるのはなんとなく居心地が悪いが、有希が来られないぶん、伸が準備に立ち会ったのだから、まぁいいかと自分に言い聞かせる。
財布を出している生野に、牧田が言った。
「そのままお入りください」
「え?」
伸は、生野と牧田を等分に身ながら言った。
「ええと、関係者特典みたいなことですかね」
「ユウ」が伸の身内だということは、牧田の知るところとなっているし、その知り合いだからということか。
だが、生野が言った。
「でも、記念に持って帰りたいので、チケットをください。チケット代も払います」
「わかりました」
牧田が、微笑みながら生野に言った。
「こちらには、何度かおいでいただいていますよね」
生野の顔が、ぱっと明るくなる。
「はい。俺、香堂黎のファンなんです」