第27話 苺のパンケーキと画像処理ソフトと有希の悲しみ

文字数 846文字

 その後、有希が撮った料理の写真を見せてもらった。以前は週に一、二度、伸の部屋に来たときに撮っていたのだが、今はほとんど毎日、日によっては三食撮るので、早くも膨大な数になっている。
「これこれ」
 画面をスクロールしていた有希が、一つの画像をクリックする。
「ほら、前と同じアングルで撮ったんだよ」
 それは、有希のリクエストで、この家に来てから初めてビーフシチューを作ったときのものだ。シチューの皿の向こうに、照れ笑いを浮かべた伸が写っている。
 
「なんだかだらしない顔してるな」
「そんなことない。かわいくて僕は好きだよ」
「かわいくないよ……」
 有希はときどき、親子ほども年の離れた伸のことをかわいいと言うのだが、正直なところ恥ずかしいだけで、うれしい気持ちにはなれない。それに、実際こうして見ても、少しもかわいいとは思えない。
 
 さらに有希は画面をスクロールする。
「あっ。苺のパンケーキ」
 あまりスイーツを作らない伸が、これも有希のリクエストで作ったものだ。たまたま麗衣が買って来た苺があったのがきっかけだった。
「このソースがいい感じにたれたところが好きなんだ」
「ふぅん」

 有希は説明する。
「何枚か撮って、これが一番よく撮れていたんだけど、横のカップの持ち手のところが少しだけ写り込んじゃってて、そこがどうしても気に入らなくて……」
 だが、この画像にそんなものは写っていない。有希が、こちらを見てにっこり笑う。
「でも、画像処理ソフトで消したんだよ」
「そうなんだ。すごいね」
「ソフトを使ったら簡単に出来ちゃうんだよ」

 画像処理ソフトとやらも、それを使いこなす有希もすごいものだと思って写真に見入っていると、突然、投げ出すようにしてマウスから手を離し、有希が椅子の背もたれに寄りかかった。
「ユウ?」
 たった今まで楽しそうに話していた有希は、寂しげな顔でうつむいている。伸は、そっと有希の肩に手を置く。
「どうした?」
 有希が、頬に触れながら言った。
「この傷も、画像を修正するみたいに消せたらいいのに……」
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