第11話

文字数 2,188文字

「それで、その通行証ってどういうものなの?」
「たしか、茶色の筒に入ってたと思う。中身はこれくらいの大きさの紙だったよ」

 大きさを示すために広げたロンの手によると、だいたい長辺二十センチくらいの紙で、普段は丸めて筒の中に入れられているようだ。

 とりあえず夕べクラエスたちが飲んでいた店に行き、周辺を探してみるが落ちてはいない。お店の人に聞いてもそういったものは見ていないそう。その後に店からホテルまでの道中を探して歩く。

「多分この辺はもうクラエスやダルコが探してると思うよ」

 ロンはそう言ってうなだれた。

「だとすれば、もうその時の女の子たちに聞いてみるしかないな。ロンはその子たちのことは覚えてるか?」
「うん、顔や髪型は覚えてるよ」
「そうか、じゃあ町をうろついて探すか。何かヒントになるようなことは言ってなかったか?」
「うーん……そうだ、港の倉庫を改装してお店にしているところがあって、そこによく行くって言ってたな」

 ロンがそう言うと、姉ちゃんもそのお店に心当たりがあるようだ。

「あー、あそこね。港に着いた船から直接買い付けるから最新の物を取り扱ってるお店よね。女の子に人気だから確かにいるかも」
「じゃあ、そこへ行ってみるか」


 さすが港町と言うべきか、たくさんの船とたくさんの倉庫、そしてたくさんの人である。ただ、お店に改装されている倉庫が一軒しかなかったのは幸いだった。
 なるほど女の子に人気なのはわかるが客が多過ぎだろ。いるかどうかも定かではない人をここから見つけるのは至難の業じゃないか?

 一応ロンから女の子たちの特徴を聞いておいて、俺たちは店の中を手分けして探す。ロンは店のすぐ外で動かないで探す。俺たちの誰かがそれらしき人物を見つけたらロンに確認をしてもらうためだ。

 それにしても女の子しかいない。姉ちゃんとちひろはいいと思うが、俺は完全に浮いている。不審な男が女の子の顔をじろじろ見ている構図は非常にまずい。時折棚の商品を見て誤魔化しつつ探っていくが、この行動がかえって怪しくなってはいないだろうか。大丈夫か?

 姉ちゃんとちひろは度々入口に向かっているところを見ると、それらしき人物を発見しているようだが俺は全く見当たらない。というか女の子の細かい特徴なんて違いがよくわからん。
 そうこうしてるうちにも次々と新規の女の子が入れ替わり立ち代わりでやってくる。大盛況だな、くそ。

 しばらくしてようやく俺も一人それっぽい子を発見した。少し長めのブラウンの髪で、髪質はストレート。そして濃いめのピンクの髪留め。ロンに聞いていた子たちの一人に特徴が近い。

 俺はロンに確認してもらうために入口に向かった。するとちょうど姉ちゃんも同じタイミングで来ていたようだ。俺はロンに店内を覗いてもらう。

「あの子だよ。ほらあそこで今何かのビンを持って見ている子」

 俺が言うと、一緒に覗いた姉ちゃんが呆れたように

「えー、髪留めってあんなでっかいバンスクリップのことじゃないわよ。ロンの話ちゃんと聞いてた? どう考えても小さめのクリップでしょ」

 おお、何を言ってるのか全くわからん。

「しょうがないわね。もうあんたもロンと一緒にここで……!? ちょっと見てロン、あの子……」

 姉ちゃんがそう言って今お店から出て行った三人を指差した。

「あー、そうだ。間違いないあの子たちだよ」
「ロンとクロードはあの子たちを追いかけて。私はちーちゃんを呼んでくるから」

 ブラウンの髪の子は髪留めが水色なのによくわかったな、姉ちゃん。


 俺はロンと二人で女の子たちに近づいていき後ろから声を掛ける。

「こんにちは。ちょっといいかな?」

 女の子たちがこちらを振り返りロンを見るやいなや走り出した。よし、どうやら当たりのようだ。

 俺とロンはすぐに追いかけるが女の子たちは意外と足が速い。マジか。
 五分くらい走り回ってやっと止まってくれた。

「な、何よ、何の用?」

 ぜぇぜぇと息を切らしつつ女の子はこの期に及んでまだしらばっくれている。

「はぁ、走って、逃げたんだから、もうわかってるだろ」

 俺も息を切らせて答える。

「昨日君たちが持っていった通行証を返してくれよ」

 ロンが言うと

「あれはあんたたちが私たちにくれたんじゃない」
「あげるわけないだろ。返してくれよ」
「一緒にホテルに行くならあげるってあんたの仲間が言ったんだよ」

 最低だな。

「君たちが持っててもしょうがないだろ? 返してくれないかな」

 俺がそう言うと追いついてきた姉ちゃんが後ろから

「どうせ高値で買い取ってくれる奴がいるんでしょ?」

 と言うと女の子たちは黙ってしまった。

「それってね、軍の正式な通行証なのよ。そんなもの横流しなんてしたら、あんたたちは極刑でもおかしくないわよ。それにどうせホテルにも行ってないでしょ?」

 ここで突然、聞き覚えのある声がした。

 「そうだぜぇ。こいつら俺たちをホテルに置き去りにして帰ったんだから、約束は無効だよな」

 女の子たちの背後の脇道からクラエスとダルコがゆっくりと姿を現した。

「ロンとクロードが走っていくのが見えてな。付いてきて正解だったぜ」
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