第17話

文字数 1,636文字

 ケーブリザードたちは微動だにしない。本当にピクリとも動かない。一見すると精巧にできた置き物のようにも見える。しかし、目だけは忙しくキョロキョロと状況を把握するために動かしている。

「あんたたち、たいまつ持ったまま戦うの?」

 姉ちゃんがそう言うと

「うるせえ、今置こうと思ってたんだよ」

 クラエスたちはたいまつを下に置き、両手で剣を構える。

「クラエス、『雷撃(ライトニング)』を使ってくれよ。とりあえずそれで一体倒せば数では上になるぜ」
「バカ、これは一日一回しか使えないんだぞ。この先もっと酷い状況になったらどうするんだよ」

「ケーブリザードってね、このまま獲物が衰弱するのを待って、弱ったところを襲ってボリボリ頭から齧るのよ。だからあんたたちが動かないと、何十時間でもこのままよ」

 マジか。ずいぶん気の長い狩りの仕方だな。

「だから早くしてくんないかなー。後がつかえてるんですけどー」
「だったら手伝えよ、クソが!」
「ふーん、手伝って上げてもいいわよ。ただし、手前の一体だけね。ちなみに一体に攻撃をすると、他の二体はその瞬間襲って来るけどね。あとの二体は自分たちで倒しなさいよ」

 そう言うと姉ちゃんは剣を構えて走り出す。

「おい、ちょっと待て。まだいいって言ってねえぞ」

 クラエスの声を無視して姉ちゃんはケーブリザードに一閃を浴びせる。さすがのケーブリザードも明確な殺気を帯びた剣が振り下ろされれば動かないわけにはいかない。急いで姉ちゃんのほうに向き直るが、間に合わず右腕を切り飛ばされてしまう。そのまま姉ちゃんは剣を水平に払い、胴体を真っ二つにした。

 ほんの数秒の惨劇に、ようやく事態を飲み込んだ残り二体のケーブリザードは目の前にいるロンとクラエスに襲い掛かってきた。

「うおおぉぉぉ」

 クラエスが爪の攻撃を剣で受け止める。しかし、巨大な頭の先に付いた大きな口はクラエスに余裕で届く。

「ヤベえぇ!」

 すばやく身をかがめて何とか躱す。

 ロンも襲ってきた爪を剣で受け止めたようだが、体の軽いロンは勢い吹っ飛ばされてしまう。転がった先にはクラエスと対峙していたケーブリザードがいた。

 ケーブリザードは二体とも倒れたロンを見ている。その隙にクラエスとダルコがケーブリザードたちの後方に周り、その奥にある横穴に逃げようと走った。

「あいつら、ロンを囮にしやがった」
「クロード、行くわよ」

 姉ちゃんと俺はそれぞれケーブリザードに対峙する。その間にちひろがロンの救出へと向かう。

 が、その時俺の前にいるケーブリザードが、ロンの元にいるちひろを狙って腕を横殴りに振った。咄嗟にロンがちひろを庇うと二人とも横穴のほうへ吹き飛ばされる。ロンもちひろも意識はあるようだがぐったりとして動けなくなってしまった。
 その様子を見ていたクラエスがニヤリと笑う。

「おい、あのチビ攫っちまおうぜ」

 すぐさまダルコが動けないちひろに駆け寄り肩に担ぐ。
 姉ちゃんは一体のケーブリザードを始末して、俺の前にいるもう一体の首も刎ねた。

「あんたたち、ちーちゃんを離しなさい!」
「おいおい、動くなよ。このチビがどうなってもいいのか?」

 クラエスは一瞬怯んだが、すぐに強気の顔になった。

「迂闊に動くなよ。というか、お前らロンを連れて帰れよ」
「そうだぞ。もう俺たちに付いてくるな」

 そう言ってクラエスたちは横穴の奥へと消えていった。

 くそ! ちひろが連れていかれた。

 姉ちゃんは落ちていたちひろのカバンを拾い、中から回復薬を取り出すとロンにそれを飲ませる。

「俺も一緒に行くよ」
「いや、お前は戻って隊でちゃんと治療を受けろ。その回復薬は完全に治るものじゃないから」
「そうよ、その怪我じゃ足手まといになるだけだわ。動けるうちに戻りなさい」

 ロンは何かを言いかけたがそれを飲み込んで頷いた。

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