第6話

文字数 1,803文字

 認証を頂き正式な神貴兵になってから一週間が経ったが、特にこれといった仕事もない。姉ちゃんはパトロールと称して町を徘徊しているだけ。なるほどこれなら確かに魔法学者の勉強にも支障はない。

 当面は魔物集団の襲撃でもなければ出動の機会はないのだろう。今のうちにこちらから出ていって、魔物狩りでもして力を付けておくべきだと姉ちゃんに提案しようと思っていると、ドタバタと騒音を撒き散らしながら、あちらからのほうからやってきた。

「クロードいる?」
「ああ、姉ちゃんちょうど良かった。そろそろ外で実戦経験を積むべきだと思うんだけど……」

 そう言いかけると姉ちゃんは俺を指差しながら

「おおぅ、弟よ、まさにその話を持ってきたのよ」

 めずらしく姉ちゃんと気が合った。嫌な予感がする。



 ー翌日ー

 姉ちゃんの話によると新しい魔窟が発見されたらしい。魔窟というのは天然資源の宝庫であると同時に魔物の棲み処となっている場所だ。

 まずは先発隊がおもむき、洞窟全体の大きさや構造、資源の量、魔物の質と量などを調べて報告する。その後必要とあらば正規に軍を派遣して魔物を退治し、町の人々で資源の運搬を行う。

「んで、ここからが大事なところなんだけど、天然資源は町の財産だからそのまま倉庫に運ばれる」
「うん、そうだな」
「でもね、魔石だけは入手した人の物になるのよ」

 俺は魔石と聞いて喜びで胸が熱くなった。

「とは言ってもそうそう簡単には見つからないんだけどね。必ずあるとも限らないし」
「でも実際に見つかった例はあるし、他国ではその中に封印された魔法を解放して身に付けた人の話もあるだろ」
「まあね。ただ魔法の解放のやり方を知ってる人があんまりいないから、ほとんどの場合は貴重な宝石扱いみたいよ」


 ちひろの家に行き神殿へと向かう。状況は前日に説明してあったので、ちひろも準備万端で待っていたようだ。これから正規隊の先発組と合流して魔窟に出発することとなる。
 俺は姉ちゃんから剣を受け取り、ちひろは槍を選んだ。剣を振り回すにはまだ筋力が足りないので、比較的軽めの槍のほうが扱いやすいのだろう。リーチもある。

「ちひろのカバンには何が入ってるの?」

 たすき掛けにしている小さなカバンを指すと

「へへぇ、実は自分で回復薬を調合してみたのです」
「ちーちゃんすごいじゃない。自分で作れるようになったの?」
「うん。でもまだ売り物ほどの効果はないんだけどね」

 ちひろもアイテムショップの夢に向かってがんばっているようだ。それにしてもオリジナル商品を目指しているとは志が高いな。


 神殿前の広場に到着するとすでに先発隊が集まっている。およそ二十人といったところか。隊を率いているリーダーと思しき人物が姉ちゃんに気付いて声を掛けてきた。

「おお、マリー来たか」
「おはよう、副隊長。遅れたかな?」
「いや、今から説明に入るところだったからちょうど良かったよ」

 姉ちゃんはこちらへ振り返り、

「この方はマクロイドさん。第一兵団の副隊長よ」

 俺とちひろも挨拶をする。

「おはようございます。よろしくお願いします」
「ああ、君が噂の弟君か」
「噂の?」

 俺が聞き返すとマクロイド副隊長の代わりに姉ちゃんが

「あの時にいたオーガスタス隊長は第一兵団の隊長さんなのよ」

 なるほど、そういうことか。

「一応あいつらにも言い含めてはあるけど、ここからは喧嘩しないでくれよ」
「え?」

 驚いて先発隊のほうを見ると、後方でクラエスたちがこちらを睨んで立っていた。

「へー、あいつらって第一兵団に配属されたんだ」

 姉ちゃんがつぶやくと、マクロイド副隊長があきらめ顔で

「うちの隊長は問題児の面倒を見るのが好きだからねぇ」



 今回の先発隊は第一兵団十九名と遊撃隊三名の計二十二名。
 まずは首都であるここローマイヤの町を出て、北へ半日ほどの距離にあるマイヤ教国第二の町ヴィルジラを目指す。そこで準備を整えてから魔窟の調査へ向かうこととなる。

「道中でも魔物に出くわすと思われる。強い魔物はまずいないが、決して一人で突っ込まずに連携をしながら倒すように。特に新人は無理をしないで尚且つ自力で倒してみせろ」

 マクロイド副隊長の説明が終わり、いよいよ出発である。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み