第8話
文字数 1,936文字
見るとゴブリンの腹からボタボタと体液が流れて、そのまま前のめりに倒れる。その後ろには槍を構えたちひろの雄姿があった。いや、目を瞑っているところを見るに必死で突いたという感じか。
「ありがとう、ちひろ」
ちひろは手を震わせながら涙目になっている。鼻水も出てる。
「こ、怖かった」
ちひろが初陣を飾るのも束の間、トルドンさんの声が飛ぶ。
「もう一匹来てるよ。油断するな」
いつの間にやら十五メートルほど先でゴブリンがこちらを見て殺気立っている。
俺とちひろは慌ててゴブリンに対峙して構えを取る。
一匹目と違い、こっちは不意打ちではなく正面からの戦いになってしまった。第一兵団の二人は手を出さず完全に俺たちに任せるようだ。
フシュー フシュー とゴブリンの息遣いが聞こえる。
俺が前に立ち、リーチのあるちひろは俺の後ろから攻撃するために縦に並んで構える。
さて、どうするか。少しずつ間合いを詰めながら考える。ゴブリンの手は、俺の剣よりも少し短いくらいか。しかしこちらの切っ先が当たる時には相手の爪もこちらに届いてしまうだろう。
ここで思い出す。そうだ、『麻痺 』を使ってみよう。実戦でも一度試しておいたほうがいいだろう。
両手で構えていた剣を右手一本にして、左手に魔法力を集中する。手のひらにぼんやりとした黄色い光が集まってきてだんだんと膨らんでいく。
「ほぉ、彼は魔法が使えるのか」
トルドンさんが静かに感嘆する。
ゴブリンは何が始まるのかわからないようすで、俺の手のひらを不思議そうに見ている。よし、ここで一気に魔法を放つ。
『麻痺 』
手のひらをゴブリンに向けて叫ぶと、意表を突かれたゴブリンは避ける間もなく魔法を食らった。
それなりにダメージもあるのだろう、苦悶の表情でピクピクと痙攣を起こしているゴブリンを見て俺は成功を確信する。よしよしよし。
このまま切りつけてやろうと剣を構えて走り出そうとしたその時、後方のかなたから声が聞こえてきた。
「よせ、止めろ!」
なんだろう?
「危ない!伏せて!」
オリガさんの声が響く。
振り返ると後ろから真っ白な光が飛んでくる。ヤバい!
とっさにちひろに覆いかぶさるように地面に倒れる。
倒れた俺たちの上を光の矢が飛んでいき、麻痺しているゴブリンに命中してゴブリンは絶命した。
光が飛んできた方向を見ると、左手を突き出してニヤリと笑うクラエスが立っていた。
北側から入った部隊がこちらに歩いてくる。こちらの四人も彼らに近づく。
「あんた、どういうつもりよ」
オリガさんが怒りを込めてクラエスに詰める。
「別にどういうつもりも無いッスよ。苦戦してたみたいだから援護射撃しただけです」
「私たちが付いているんだから、危険な状況のわけがないってことぐらいわかってたでしょ?」
「いや、遠かったんでこっちからはよくわからなかったッス。それに俺もマイヤ様から授かった『雷撃 』を使ってみたいってのもあったし。win-winじゃないッスか」
「お前!」
「待て待て」
オリガさんがクラエスの胸ぐらを掴むと、トルドンさんが間に割って入って止めた。
クラエスも魔法の素質があったのか。しかも直接攻撃の魔法を授かるとは。
ともあれゴブリン殲滅作戦は終了したので、俺たちは森から街道へ戻り、オリガさんとエヴィッチさんがそれぞれ副隊長に結果報告をしている。
北の部隊が四体を倒したそうだが、こちらの成果はちひろが一体倒しただけ。俺個人としては一応、魔法を使ってみたという成果はあったわけだが。
クラエスの暴挙に関しては水掛け論になると思ったのか、報告はしなかったようだ。しかし、あれは間違いなく俺たちを狙ったものであり、これからも注意が必要だ。
姉ちゃんがやってきて初陣はどうだったかと聞いてきた。
「本で読んだだけじゃわからないもんだね。ゴブリンがあんなに動きが速いとは思わなかったよ。ああそれと、ちひろが一体倒したんだぜ」
ちひろは照れ臭そうにへへへっと笑った。
「すごいねちーちゃん。初陣だと怖くていざとなった時にまともに武器が振れなくなるって話もよく聞くのに」
「実際はちひろ、涙どころか鼻水まで垂らしてたけどな」
そう言って俺が笑うとちひろはほっぺを赤くして膨らました。
姉ちゃんが急に真顔になる。
「それはそうとクロード。あの『雷撃 』は誰が使ったの?」
そう言いつつも姉ちゃんの顔は、すでに答えを知っているようだった。
「ありがとう、ちひろ」
ちひろは手を震わせながら涙目になっている。鼻水も出てる。
「こ、怖かった」
ちひろが初陣を飾るのも束の間、トルドンさんの声が飛ぶ。
「もう一匹来てるよ。油断するな」
いつの間にやら十五メートルほど先でゴブリンがこちらを見て殺気立っている。
俺とちひろは慌ててゴブリンに対峙して構えを取る。
一匹目と違い、こっちは不意打ちではなく正面からの戦いになってしまった。第一兵団の二人は手を出さず完全に俺たちに任せるようだ。
フシュー フシュー とゴブリンの息遣いが聞こえる。
俺が前に立ち、リーチのあるちひろは俺の後ろから攻撃するために縦に並んで構える。
さて、どうするか。少しずつ間合いを詰めながら考える。ゴブリンの手は、俺の剣よりも少し短いくらいか。しかしこちらの切っ先が当たる時には相手の爪もこちらに届いてしまうだろう。
ここで思い出す。そうだ、『
両手で構えていた剣を右手一本にして、左手に魔法力を集中する。手のひらにぼんやりとした黄色い光が集まってきてだんだんと膨らんでいく。
「ほぉ、彼は魔法が使えるのか」
トルドンさんが静かに感嘆する。
ゴブリンは何が始まるのかわからないようすで、俺の手のひらを不思議そうに見ている。よし、ここで一気に魔法を放つ。
『
手のひらをゴブリンに向けて叫ぶと、意表を突かれたゴブリンは避ける間もなく魔法を食らった。
それなりにダメージもあるのだろう、苦悶の表情でピクピクと痙攣を起こしているゴブリンを見て俺は成功を確信する。よしよしよし。
このまま切りつけてやろうと剣を構えて走り出そうとしたその時、後方のかなたから声が聞こえてきた。
「よせ、止めろ!」
なんだろう?
「危ない!伏せて!」
オリガさんの声が響く。
振り返ると後ろから真っ白な光が飛んでくる。ヤバい!
とっさにちひろに覆いかぶさるように地面に倒れる。
倒れた俺たちの上を光の矢が飛んでいき、麻痺しているゴブリンに命中してゴブリンは絶命した。
光が飛んできた方向を見ると、左手を突き出してニヤリと笑うクラエスが立っていた。
北側から入った部隊がこちらに歩いてくる。こちらの四人も彼らに近づく。
「あんた、どういうつもりよ」
オリガさんが怒りを込めてクラエスに詰める。
「別にどういうつもりも無いッスよ。苦戦してたみたいだから援護射撃しただけです」
「私たちが付いているんだから、危険な状況のわけがないってことぐらいわかってたでしょ?」
「いや、遠かったんでこっちからはよくわからなかったッス。それに俺もマイヤ様から授かった『
「お前!」
「待て待て」
オリガさんがクラエスの胸ぐらを掴むと、トルドンさんが間に割って入って止めた。
クラエスも魔法の素質があったのか。しかも直接攻撃の魔法を授かるとは。
ともあれゴブリン殲滅作戦は終了したので、俺たちは森から街道へ戻り、オリガさんとエヴィッチさんがそれぞれ副隊長に結果報告をしている。
北の部隊が四体を倒したそうだが、こちらの成果はちひろが一体倒しただけ。俺個人としては一応、魔法を使ってみたという成果はあったわけだが。
クラエスの暴挙に関しては水掛け論になると思ったのか、報告はしなかったようだ。しかし、あれは間違いなく俺たちを狙ったものであり、これからも注意が必要だ。
姉ちゃんがやってきて初陣はどうだったかと聞いてきた。
「本で読んだだけじゃわからないもんだね。ゴブリンがあんなに動きが速いとは思わなかったよ。ああそれと、ちひろが一体倒したんだぜ」
ちひろは照れ臭そうにへへへっと笑った。
「すごいねちーちゃん。初陣だと怖くていざとなった時にまともに武器が振れなくなるって話もよく聞くのに」
「実際はちひろ、涙どころか鼻水まで垂らしてたけどな」
そう言って俺が笑うとちひろはほっぺを赤くして膨らました。
姉ちゃんが急に真顔になる。
「それはそうとクロード。あの『
そう言いつつも姉ちゃんの顔は、すでに答えを知っているようだった。