第14話

文字数 1,978文字

 魔窟まではローマイヤ~ヴィルジラ間の半分くらいの距離しかない。しかし、あちらはある程度整備された街道なのに対して、こちらはかなりの獣道だ。途中、荷車がスタックするトラブルには見舞われたものの、幸い、魔物や猛獣には合うことなく、かなりの時間を要したがなんとか目的地である魔窟に到着した。

 山の麓にぽっかりと開いた穴は、幅三~四メートル、高さ五メートルほどだろうか。魔窟の入り口としては狭いほうで、これが町で浅い魔窟だと噂されていた理由なのだろう。
 魔窟の二十メートルほど手前にあるスペースに荷車を停め、副隊長は調査隊に一時待機を命じた後、兵二人と姉ちゃんを連れて魔窟を確認しに向かった。

「資源運搬の時は街道整備から始めないとダメだなこれじゃあ」
「まあ、まともな道でたどり着ける魔窟のほうが珍しいからなあ」
「野営のテントはどうする? このスペースだと全部張るのはきつそうだよ」
「二人用に三人入るしかないな。ちょっと狭いけどできないことはない」
「周辺の草とか刈っちゃう?」
「バカ、そんなことで人員割けるわけねえだろ」

 第一兵団の兵たちは副隊長たちが戻ってくるまでの仕事として、荷車から荷を降ろし始めたので俺とちひろも手伝いに行く。

 物資を一通り降ろした頃に副隊長たちが戻ってきた。

「よし、総員集合」

 全員が手を止めて部隊ごとに整列する。

「魔窟の入り口付近を確認したところ、部隊の再編は行わずにいけそうだ。まずは遊撃隊が尖兵として先行する」

 え!? そうなの?

「内部には夜行石があり、所々外部からの光も差し込んでいたので目が慣れれば見えない事もない。が、かなり薄暗く魔物の気配もある。マリー一人なら特に問題はないと思うが、今回は新人二人を連れての任務なので十分注意をすること。そして新人は無理をしないこと。それから一班は……」

 副隊長の指示が続いている。多分、尖兵は姉ちゃんが買って出たのだろう。誰よりも真っ先に魔石へたどり着けるように。しかし、当然だが最も危険度は高い。

「……三班は最後方から周囲の警戒と物資の運搬。以上だ。まずは全員でテントの設営をし、終了次第調査開始。始めろ」

 俺とちひろもテント設営に加わろうとすると姉ちゃんが呼び止めた。

「私たちは尖兵なんだからすぐに行くわよ。クロードはそこにある袋を持ってきて。ちーちゃんはそっちの小さい袋ね」

 大きさのわりには大して重くはない袋を背負って俺たち三人は魔窟へと入っていく。少し遅れて副隊長もやってきた。

「俺は入口付近にいるから何かあったらすぐに知らせろ」

 魔窟の入口は山肌がむき出しになっていてこれといった特徴は無い。一見すると普通の洞窟のように見えるが、内部に少し踏み入れると魔窟特有の重い空気がまとわりついてくる。初めてでもこれが魔窟だとすぐにわかる。

 なるほどぼんやりと見えない事もないが、魔物に襲われたら間違いなくやられるレベルだ。しかし、姉ちゃんはまるで近所の裏山のように平然と入っていく。

「クロード、袋を開けて」

 姉ちゃんに言われて持ってきた袋を開けると手のひらサイズの木の塊のようなものがたくさん入っている。

「そのたいまつに火を点けて設置していくのよ」


 通路の左右に交互に設置する。振り返ると俺たちが取り付けたたいまつでかなり明るく見えるようになっていて、後続の隊が調査を始めているようすもはっきりとわかる。
 すぐ後ろにいる一班にはクラエスとダルコがいて、こいつらがいつ動くかにも気を配っておかないといけない。

「二人とも止まって」

 姉ちゃんが鋭い声で俺たちを制止する。目を凝らすと確かに何かがいるようだ。

「クロード、たいまつを投げてみて」

 俺がたいまつに火を点けて前方に投げるとグギェグギェと金属を擦ったような声がしたと思ったら、三体のオークがその灯りに照らし出された。丸々と太った巨体は姉ちゃんよりも頭三つ分は大きい。手に握られた棍棒には、いつの物かもわからない血痕がこびり付いている。

 ヤバいな。とても一対一で勝てるとは思えない。姉ちゃんに二体を引き付けてもらってる間に俺とちひろで一体を倒すしかない。その後すぐに姉ちゃんのサポートに入れば何とかなるかどうか。

 と、考えているわずか十数秒の間に三体のオークが足元に転がっていた。あれ?

「何?」
「いや……何でもない」

 考えてみれば俺は姉ちゃんが魔物と戦っているところを今まで見たことがなかった。そうか、馘首にならずに特別遊撃隊に左遷されたのは伊達じゃないということか。

 それにしてもこれで本当にサポートなんて必要なのかな?
 そう思いながら俺は袋を背負い直して再び姉ちゃんの後を付いていった。


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