5.
文字数 4,046文字
鐘の音が少し前に聞こえたが、時間的にあれは終礼を知らせるものだったに違いない。
あれからずっとベッドに倒れて塞いでいたのだが、その間頭の中で黒い靄が渦巻き続けた感じだった。
もちろん、キェーンは戻って来ない。あれからあいつはどうしたんだろうか。
いや、あいつのことなんかもう知らないし、来られても今の俺なら確実に追い返す。
俺って本当にちんけな人間だなあと自嘲しつつ、ベッドの上で体勢を入れ替える。
「いてっ!」
背中の辺りに硬い感触がした。
それは、実家から持ってきたマジックアイテム、柄の伸びるホウキだ。
これはキェーンに渡した物だったし、あいつがベッドの上でいじって放っておいたのだろう。
手に取ってそれをまじまじと見ると、やはり沸いてくるのは嫌な感情だ。
「マジックアイテムか……くそっ!」
部屋の壁にそれを投げつけてやろうと振りかぶったその時、部屋のドアを叩く音がした。
キェーンか? それとも、終礼をさぼったから担任が怒りに?
考えている間に、またドアは叩かれる。
俺は無言でゆっくりと、ドアの方へ近づいていくことにし――
「ぎゃっ!」
「おお、すまないな少年。反応もないし鍵もかかってるし、仕方がないから蹴り破ることにしたんだ。ん? 少年?」
「――あ、クローブか……」
覗き穴で確認しようかなと思った瞬間、なんとドアの方から俺に近付いてきたのが見えて、気が付くと俺はドアの下敷きになっていた。
それをやったのはクローブ。またも俺の部屋のドアをぶち破ったのだった。
「なんの用だ? あれ、タンケルがいないな……」
やって来たのはクローブ一人だった。これは予想ができなかった展開だ。
「ダーリンから頼まれて二、三伝えることがあってな。来たのは私だけだよ」
そう言うとクローブはひょいとドアを拾い上げ、適当に壁に立てかけた。
「これ、借りるぞ」
クローブは俺の椅子にどっかりと座り込む。そして、こちらが何か言う前に話を始めた。
「終礼のことなんだが、少年のことはダーリンの機転により作業中に気分が悪くなって部屋で休んでいるということにした。担任も特に気にしている様子はなかったし、ここはダーリンに感謝すべきだろう」
「ああ。ありがとうな……」
さすがタンケルといったところだろうか。
――そして、クローブは語調を変えることなく次の話に移った。
「さてさて、次は少年が昼食時に激怒して走り去った件だが……」
緊張が走る。何かこう、背中に嫌な汗が出る感じがした。
「まずはそうだな……ユリィとかいうお嬢ちゃんだが、あれから急におとなしくなってしまってなあ。私が話を振ったせいだとか言っていて、相当気にしている様子だったぞ」
「そうか。あのユリィが……」
「まあ、ここは後で軽くでもいいから謝っておくのが正しい選択だろうな」
それは悪いことをしてしまった。前から俺はあいつに悪態をつかれていたが、それは俺の方にも問題があったからなのだ。
自分は家業のためにやる気満々でゴーレム科で授業を受けているのに、その目の前の席で俺みたいにまったくやる気のない奴が視界に入っていたら何か言いたくもなるだろう。
今度、担任に言って席を変えてもらうか……
「さあ、次は少年のゴーレムのことだが――」
いよいよ来たか。俺は床に座っていた状態からベッドに移り、クローブと向かい合うようにして座った。
「ん? 何か少年から先に言いたいか?」
「いや、いい……」
「うむ。まず言っておくが、あのお嬢ちゃんは午後の間はずっとダーリンの部屋で過ごした。ダーリンと私と一緒にな」
なるほど。たしかに、それが一番予想できそうだ。
「ダーリンが図書館から借りた本に興味を示したり、ダーリンの部屋のドアの開閉をスムーズに直したり、元気にやっていたから心配しないでくれ」
心配って……え? 元気にしていた?
それを聞いてちょっと驚いた。
「なんだ。落ち込んだりしてなかったのか?」
あれだけ感情を露わにして俺は怒鳴りつけてしまったんだ。あいつも少しは応えているのかなと思っていたんだが……
「フッフッフッ。少年よ、あのお嬢ちゃんを甘く見るなよ?」
クローブはキッとこっちを睨んだ。
その迫力に俺は一瞬凍りつくが、クローブはニヤッと笑みを浮かべてから続けた。
「部屋でやることがなくなった時、心の優しいダーリンは昼食時のことで落ち込んでないかお嬢ちゃんに聞いてみたんだ。そしたら、なんて言ったと思う?」
「――すまん。わからない……」
クローブはもう一度笑顔を見せてから俺に言った。
「『あのウジウジ野郎が、ちゃんと思ってることをぶち撒けたなんて見直した』だとさ。
私もダーリンも、まさかそんな返答が来るとは思わなかったよ」
「あいつ……」
俺は言葉が出なかった。
キェーンの奴、どこまで前向きなことを言えるんだ。
こんなに情けない俺が怒りのままに言葉をぶつけたのに、それを見直しただなんて……
「おっと、でもその後はちょっとうつむき気味になったかな。
――これには私も同感だったがな……」
クローブの言葉が止まった刹那、俺の視界に何かが飛び込んできた。
速過ぎて何か確認できなかったが、止まって初めてわかった。
それは、クローブの拳だった。顔に当たる、ギリギリのところで止められていた。
クローブは一瞬で、椅子から立ち上がりざまに踏み込み、拳を放ったのだ。
「少年、君はお嬢ちゃんに対し、心が無い――と、言ったな?」
クローブの語調は変わらないが、拳は突き付けられたままだ。
恐怖のあまり言葉を出せなかった俺は、首を縦に二回振った。
「うむ。これにはお嬢ちゃんも少し参っていたぞ。
付け加えさせてもらうが、同じゴーレムとして私も少し傷付いたな」
それだけ言うとクローブは拳を収め、椅子に戻る。
そして、俺が落ち着くのを待ってからまた話を再開した。
「ゴーレムにも心はある、と私はゴーレムながら思うし、お嬢ちゃんもそれは同じに思っている。それなのに、少年にゴーレムに心があるわけないと言われて、さすがのお嬢ちゃんもショックを受けたみたいだったぞ」
「こ、心か……」
生成者の血と魔力が混ざって生まれたゴーレムは、そのほとんどが生成者と言葉なりなんなりで意志の疎通が図れる。その性格もそれぞれだ。
だが、それを人間と同じように心を持っているのかと言われたら、高名なゴーレムの研究家達の間でも意見は分かれるらしい。
土と薬品と生成者の血と魔力が、決められた術式により様々な形になりゴーレムという存在になり、それは言葉を話したり感情を表現したりする。
しかし、ゴーレムはただ作られた存在に過ぎず、その言葉や感情も精巧なだけでまた作られたものだという説が否定派の代表的な考えにある。
この話が授業で出た時、俺はそうなんだろうなあと思いつつ、難し過ぎてわからないと流していた。
だが、今思うと。キェーンとのやり取りを思い出すと……
むかつくんだけど、俺の気持ちを刺激する……
「ん? 少年、どうした?」
「――心、あるよな」
クローブの声に、俺は自然とそう答えた。
俺なりのちっぽけな頭で考えた、精一杯の結論をそのまま口に出したのだった。
「あいつの言葉に、態度に、俺は心を揺さぶられたよ。――主に怒りの方へだけど……
俺はこれでも人間だ。その人間の心を、心が無い奴が揺さぶられるはずかない」
「言うねえ……」
実際、そうだったのだから仕方がない。
あいつは気に食わないことはすぐにどうにかしようとする。
それも、感情剥き出しでだ。
生まれてまだ数日。あいつなりに、自分を生んだ人間のことを見ていて、その心の中で色々と考えていたんだろう。
「まあ、私達ゴーレム自身も自分達の存在を完璧にわかってはいないさ」
「そんなの人間だって同じさ」
「フッフッフッ。そうなのか」
俺は自嘲気味に笑う。クローブも笑った。
「それでも、心ってのが私の中にはあるとは信じたいな。自分の思うこと、感じることが本物であると信じていたいさ」
クローブはまた立ち上がり、その豊満な胸を押さえてそう言った。
「ああ。クローブのタンケルを思う気持ちは本物だろうよ」
「おっ! そこをわかってもらうと一番嬉しい!」
クローブは俺を軽々と抱きかかえ、ぐるぐると空中で回し始める!
「うわああああ!」
「少年、君はダーリンの次に立派な男だ! 今ここで認定しよう!」
「わ、わかったから降ろしてくれええええ!」
「おっとすまない」
クローブは俺をベッドの横に立たせると、ドアの方へ向かった。
「さて、じゃあ行くとするか」
「え?」
「何をとぼけている。ダーリンの部屋にいる、お嬢ちゃんを迎えにいくのだよ。もちろん、少年も一緒にだ」
「え……それは……」
かなり恥ずかしいな……いったい、俺はどんな顔をしてあいつに会えばいいんだ?
「恥ずかしがることはない。少年はすでに、私に向かって心がどうだと散々恥ずかしいことを言ったんだ。自身を持て!」
「恥ずかしいって思ってたのかよ!
うわあ、そう言われると今になって急に恥ずかしくなってきやがった!」
「冗談だ。ともかく、早く行くぞ。
お嬢ちゃんを部屋に連れ帰ったら言うことやすることがいっぱいあるだろ?」
「することって……」
まあ、部屋に戻る前にちょっとは言うつもりだけど――
「あっ!」
部屋を出る時、何かに気付いた。
「どうしたんだ」
「あいつが戻ってきたら、まずやってもらうことがあるんだった!」
「ほう。何かな?」
俺はクローブの目を見てこう言った。
「お前に壊されたドアを直してもらうんだ」
彼女は愉快そうに笑った。少なくとも、その笑顔は人間のそれと寸分違わないと、俺は思った。
あれからずっとベッドに倒れて塞いでいたのだが、その間頭の中で黒い靄が渦巻き続けた感じだった。
もちろん、キェーンは戻って来ない。あれからあいつはどうしたんだろうか。
いや、あいつのことなんかもう知らないし、来られても今の俺なら確実に追い返す。
俺って本当にちんけな人間だなあと自嘲しつつ、ベッドの上で体勢を入れ替える。
「いてっ!」
背中の辺りに硬い感触がした。
それは、実家から持ってきたマジックアイテム、柄の伸びるホウキだ。
これはキェーンに渡した物だったし、あいつがベッドの上でいじって放っておいたのだろう。
手に取ってそれをまじまじと見ると、やはり沸いてくるのは嫌な感情だ。
「マジックアイテムか……くそっ!」
部屋の壁にそれを投げつけてやろうと振りかぶったその時、部屋のドアを叩く音がした。
キェーンか? それとも、終礼をさぼったから担任が怒りに?
考えている間に、またドアは叩かれる。
俺は無言でゆっくりと、ドアの方へ近づいていくことにし――
「ぎゃっ!」
「おお、すまないな少年。反応もないし鍵もかかってるし、仕方がないから蹴り破ることにしたんだ。ん? 少年?」
「――あ、クローブか……」
覗き穴で確認しようかなと思った瞬間、なんとドアの方から俺に近付いてきたのが見えて、気が付くと俺はドアの下敷きになっていた。
それをやったのはクローブ。またも俺の部屋のドアをぶち破ったのだった。
「なんの用だ? あれ、タンケルがいないな……」
やって来たのはクローブ一人だった。これは予想ができなかった展開だ。
「ダーリンから頼まれて二、三伝えることがあってな。来たのは私だけだよ」
そう言うとクローブはひょいとドアを拾い上げ、適当に壁に立てかけた。
「これ、借りるぞ」
クローブは俺の椅子にどっかりと座り込む。そして、こちらが何か言う前に話を始めた。
「終礼のことなんだが、少年のことはダーリンの機転により作業中に気分が悪くなって部屋で休んでいるということにした。担任も特に気にしている様子はなかったし、ここはダーリンに感謝すべきだろう」
「ああ。ありがとうな……」
さすがタンケルといったところだろうか。
――そして、クローブは語調を変えることなく次の話に移った。
「さてさて、次は少年が昼食時に激怒して走り去った件だが……」
緊張が走る。何かこう、背中に嫌な汗が出る感じがした。
「まずはそうだな……ユリィとかいうお嬢ちゃんだが、あれから急におとなしくなってしまってなあ。私が話を振ったせいだとか言っていて、相当気にしている様子だったぞ」
「そうか。あのユリィが……」
「まあ、ここは後で軽くでもいいから謝っておくのが正しい選択だろうな」
それは悪いことをしてしまった。前から俺はあいつに悪態をつかれていたが、それは俺の方にも問題があったからなのだ。
自分は家業のためにやる気満々でゴーレム科で授業を受けているのに、その目の前の席で俺みたいにまったくやる気のない奴が視界に入っていたら何か言いたくもなるだろう。
今度、担任に言って席を変えてもらうか……
「さあ、次は少年のゴーレムのことだが――」
いよいよ来たか。俺は床に座っていた状態からベッドに移り、クローブと向かい合うようにして座った。
「ん? 何か少年から先に言いたいか?」
「いや、いい……」
「うむ。まず言っておくが、あのお嬢ちゃんは午後の間はずっとダーリンの部屋で過ごした。ダーリンと私と一緒にな」
なるほど。たしかに、それが一番予想できそうだ。
「ダーリンが図書館から借りた本に興味を示したり、ダーリンの部屋のドアの開閉をスムーズに直したり、元気にやっていたから心配しないでくれ」
心配って……え? 元気にしていた?
それを聞いてちょっと驚いた。
「なんだ。落ち込んだりしてなかったのか?」
あれだけ感情を露わにして俺は怒鳴りつけてしまったんだ。あいつも少しは応えているのかなと思っていたんだが……
「フッフッフッ。少年よ、あのお嬢ちゃんを甘く見るなよ?」
クローブはキッとこっちを睨んだ。
その迫力に俺は一瞬凍りつくが、クローブはニヤッと笑みを浮かべてから続けた。
「部屋でやることがなくなった時、心の優しいダーリンは昼食時のことで落ち込んでないかお嬢ちゃんに聞いてみたんだ。そしたら、なんて言ったと思う?」
「――すまん。わからない……」
クローブはもう一度笑顔を見せてから俺に言った。
「『あのウジウジ野郎が、ちゃんと思ってることをぶち撒けたなんて見直した』だとさ。
私もダーリンも、まさかそんな返答が来るとは思わなかったよ」
「あいつ……」
俺は言葉が出なかった。
キェーンの奴、どこまで前向きなことを言えるんだ。
こんなに情けない俺が怒りのままに言葉をぶつけたのに、それを見直しただなんて……
「おっと、でもその後はちょっとうつむき気味になったかな。
――これには私も同感だったがな……」
クローブの言葉が止まった刹那、俺の視界に何かが飛び込んできた。
速過ぎて何か確認できなかったが、止まって初めてわかった。
それは、クローブの拳だった。顔に当たる、ギリギリのところで止められていた。
クローブは一瞬で、椅子から立ち上がりざまに踏み込み、拳を放ったのだ。
「少年、君はお嬢ちゃんに対し、心が無い――と、言ったな?」
クローブの語調は変わらないが、拳は突き付けられたままだ。
恐怖のあまり言葉を出せなかった俺は、首を縦に二回振った。
「うむ。これにはお嬢ちゃんも少し参っていたぞ。
付け加えさせてもらうが、同じゴーレムとして私も少し傷付いたな」
それだけ言うとクローブは拳を収め、椅子に戻る。
そして、俺が落ち着くのを待ってからまた話を再開した。
「ゴーレムにも心はある、と私はゴーレムながら思うし、お嬢ちゃんもそれは同じに思っている。それなのに、少年にゴーレムに心があるわけないと言われて、さすがのお嬢ちゃんもショックを受けたみたいだったぞ」
「こ、心か……」
生成者の血と魔力が混ざって生まれたゴーレムは、そのほとんどが生成者と言葉なりなんなりで意志の疎通が図れる。その性格もそれぞれだ。
だが、それを人間と同じように心を持っているのかと言われたら、高名なゴーレムの研究家達の間でも意見は分かれるらしい。
土と薬品と生成者の血と魔力が、決められた術式により様々な形になりゴーレムという存在になり、それは言葉を話したり感情を表現したりする。
しかし、ゴーレムはただ作られた存在に過ぎず、その言葉や感情も精巧なだけでまた作られたものだという説が否定派の代表的な考えにある。
この話が授業で出た時、俺はそうなんだろうなあと思いつつ、難し過ぎてわからないと流していた。
だが、今思うと。キェーンとのやり取りを思い出すと……
むかつくんだけど、俺の気持ちを刺激する……
「ん? 少年、どうした?」
「――心、あるよな」
クローブの声に、俺は自然とそう答えた。
俺なりのちっぽけな頭で考えた、精一杯の結論をそのまま口に出したのだった。
「あいつの言葉に、態度に、俺は心を揺さぶられたよ。――主に怒りの方へだけど……
俺はこれでも人間だ。その人間の心を、心が無い奴が揺さぶられるはずかない」
「言うねえ……」
実際、そうだったのだから仕方がない。
あいつは気に食わないことはすぐにどうにかしようとする。
それも、感情剥き出しでだ。
生まれてまだ数日。あいつなりに、自分を生んだ人間のことを見ていて、その心の中で色々と考えていたんだろう。
「まあ、私達ゴーレム自身も自分達の存在を完璧にわかってはいないさ」
「そんなの人間だって同じさ」
「フッフッフッ。そうなのか」
俺は自嘲気味に笑う。クローブも笑った。
「それでも、心ってのが私の中にはあるとは信じたいな。自分の思うこと、感じることが本物であると信じていたいさ」
クローブはまた立ち上がり、その豊満な胸を押さえてそう言った。
「ああ。クローブのタンケルを思う気持ちは本物だろうよ」
「おっ! そこをわかってもらうと一番嬉しい!」
クローブは俺を軽々と抱きかかえ、ぐるぐると空中で回し始める!
「うわああああ!」
「少年、君はダーリンの次に立派な男だ! 今ここで認定しよう!」
「わ、わかったから降ろしてくれええええ!」
「おっとすまない」
クローブは俺をベッドの横に立たせると、ドアの方へ向かった。
「さて、じゃあ行くとするか」
「え?」
「何をとぼけている。ダーリンの部屋にいる、お嬢ちゃんを迎えにいくのだよ。もちろん、少年も一緒にだ」
「え……それは……」
かなり恥ずかしいな……いったい、俺はどんな顔をしてあいつに会えばいいんだ?
「恥ずかしがることはない。少年はすでに、私に向かって心がどうだと散々恥ずかしいことを言ったんだ。自身を持て!」
「恥ずかしいって思ってたのかよ!
うわあ、そう言われると今になって急に恥ずかしくなってきやがった!」
「冗談だ。ともかく、早く行くぞ。
お嬢ちゃんを部屋に連れ帰ったら言うことやすることがいっぱいあるだろ?」
「することって……」
まあ、部屋に戻る前にちょっとは言うつもりだけど――
「あっ!」
部屋を出る時、何かに気付いた。
「どうしたんだ」
「あいつが戻ってきたら、まずやってもらうことがあるんだった!」
「ほう。何かな?」
俺はクローブの目を見てこう言った。
「お前に壊されたドアを直してもらうんだ」
彼女は愉快そうに笑った。少なくとも、その笑顔は人間のそれと寸分違わないと、俺は思った。