第1回 加齢とともに藤木直人

文字数 2,823文字

藤木直人氏の魅力がワカラナイ。

そんなことを迂闊に言うと、「おまえなんぞにわかるわけがない」という熱狂的ファンがわんさかいることくらいは心得ております。
そりゃあだって、普通にイケメンだし、ドラマもめっちゃ出てるし(浅い情報量)。
でもなんというか……これ!というポイントに欠けるのだ。顔にしても演技にしても、どれも平均的というか、薄い! 薄いんです! こう、ガツンと胸に迫る押しの一手がないんです!
……あくまでも個人的采配です。さらに藤木直人氏の比較対象は、煌びやかな世界に集う華やかなスターばかりですからね。
もうそこにいるだけで別格なんですけどね。

というわけで、藤木直人氏は私のちっぽけな記憶容量に名前だけを刻み、そこになんの感情も付随しない存在だった。愛の反対は無関心とは言い得て妙だ。まさにそれ。
好きでも嫌いでもない。
テレビに出てるのを観ても、雑誌に出てるのを見ても、「ああ、藤木直人か」と思うだけの存在だった。

『おしゃれイズム』という番組がある。
旬なゲストを招いて、楽しくおしゃべりする番組である(雑な認識)。
MCはくりぃむしちゅーの上田氏、森泉氏、そしてなぜか件の藤木直人氏。
この顔ぶれを初めて見たとき、なぜここに彼が?と首をかしげたものである。
うーん、だってボケもツッコみもできないでしょう。なんとなーく原稿読んで、コーナー回しをしてはいるけれど、これは別に彼じゃなくても……。
まあ、安パイなのかなあ、とここでも無関心ぶりを発揮。首をかしげたなんて前述したものの、実際はなんにも思わなかったやもしれない。
そこまで彼にアンテナなんて張っていなかったのが現実でした。

が、しかし。
私、先日ミーハーぶりを発揮して、今をときめく横浜流星氏がゲストの回を観たのです。
横浜氏はねえ、別にファンじゃなくても「そりゃあモテるわ」「そりゃあ売れるわ」といった要素満々でしょう。
目の保養には絶対なる。そんな適当テンションでぼんやりと視聴していたのです。

そしたら横浜氏、

「パルクールをやってみたい」

と発言。
パルクールってなんぞや。
移動動作を用いて、人が持つ本来の身体能力を引き出し追求する方法(wiki)。
だそうです。
なんかそこら辺にある壁とか障害物をひょいひょいひょいひょい駆けのぼったり飛びこえたりするスポーツ(?)です。
余談だけれども、いまだにパルクールって言葉はスッと出てこない。
なんだっけ、パウルクレーだっけ、エスパドリーユだっけ(もはや原型とどめてない)と逡巡してからひねりだす。なんか縁遠い言葉すぎて脳が拒絶反応を起こしているっぽい。

で、そのパルクールを横浜氏がやるんです。藤木直人氏も付き添いとして参加するんです。
横浜氏はさすがの運動神経、即席でもそれっぽくこなすし、体がしなやかで軽い。
様になるなあ、またファン増えるだろうなあ。

と、藤木直人氏も挑戦することに。
気乗りしない様子を隠そうともしない藤木直人氏に、私は初めて引っかかりを覚えた。
え、こんな渋々な態度を示していいキャラなのか?
「無理」とか「やだ」みたいなニュアンスの、どちらかといえばネガティブワードをぼやきだす藤木直人氏。
さらにその姿勢に呼応するように、よたよたと頼りない身のこなし。ぎこちないし危なっかしい。
あれ、なんかもうおじいちゃん……!

初級コースをどうにかこうにかクリアした藤木直人氏。
もう十分、といった感じの藤木直人氏。
まだまだやりたりないぜとギラつく横浜氏。

ここで突然俄然、藤木直人氏の好感度が跳ねあがりました!

いい。やる気ない感じがいい。
もう年なんだよみたいな弱々しい感じがいい。
横浜氏に対しても、あとは勝手にやってくれみたいな感じがいい(主観)。

いい。年齢を隠さない、年齢に嘘つかない、年齢で虚勢を張らない。
その年相応の枯れっぷりがいい!

気づいたら横浜氏目当てで観たのに、私は藤木直人氏のおじいちゃんっぷりに萌えている方がいないかを検索していた。
リアタイ検索では、圧倒的横浜氏の人気。
横浜氏の抜群の運動神経にメロメロ、一層惚れた若者でタイムラインは埋めつくされていた。

違う!
横浜氏がパウルクレー……じゃない、パルクールを飄々とやってのけることができたのは、単なる若さだ!
無論、持ち前の運動神経もあるだろう。
いや、しかし若さだ! 八割方若さだ! 
若けりゃあ怖いものなんてないだろうさ。怪我してもすぐ治るだろうさ。明日の心配なんか微塵もしてないだろうさ。

だが藤木直人氏は違う!
彼には守るべきものがある。家族がいる(調べた)。怪我したら一生残る可能性もある。明日を憂う立場ってもんがある。

その哀愁っていうんですか。大人ゆえの冴えなさっていうんですか。
そこにグッときた。これまで全然刺さらなかった藤木直人氏に初めて心奪われた。

これは当然、私も年を取ったという証拠だ。
多分、10代とか20代前半とかだったら、単純に「わー、流星くんすごーい」で終わっていただろう。
恐怖心、怪我の心配、明日への憂慮。
そして引き際を心得ているということ。
これは大人にならなければわかるまい。
別にわかりたくもなかったけれども。
でもわかったならば、ほんの少しだけ人にやさしくなれる気もする。

藤木直人氏の魅力に気づけた。
それは大人になった証拠。
後日、吉沢亮氏がゲストに来たときも同様の現象が起きた。
こってりラーメンを美味そうにすする吉沢氏とは対照的に、罰ゲームのごとくちょろちょろとしか食べない藤木直人氏。
嗚呼、きっと過剰に脂を摂取すると、お腹をこわしたり、胸やけを起こしたりするんだわ。
加齢に正直な男・藤木直人氏。
すんばらしい。共感できる存在ってすんばらしい。

最近だと山田孝之氏がゲストに来たときもよかった。
体調の好不調は月の満ち欠けが関係していると熱弁する山田氏を、決して否定しない藤木直人氏。
だが恐ろしく興味がないことがバレバレな藤木直人氏。
最高。
人の意見を茶化したり否定したりしない代わりに、静かに「どうでもいいかな……」という空気をにじませる黒さが最高。
そういうブラックな面も大人ならではよね。

そんなわけで藤木直人氏の好感度が私の中で急上昇中です。
今さらかよって思われる藤木直人氏のファンの方、ごめんなさい。
もしくは正統派な藤木直人氏のファンの方もごめんなさい。
でも私は私なりに純粋な気持ちで、今、彼を支持しております(なんの報告)。

ちなみに山田氏が自分の食器を洗うようになったと話していたときの、藤木直人氏の涼やかな表情もよかった……!
多分あれは「あ、これまで洗ってなかったんだ」という視線。
藤木直人氏は特段主張することでもない体で、きっとちゃんと洗っている。
そう信じている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み