第16話 「探知蛍」

文字数 1,628文字

「えー…と、とりあえず遠く?に逃げるか!」
「逃げるって行っても、この雪の中走り続けるなんて足が持たないよ」
「とは言っても今はその場から離れるしかない。あ、そうそう。走りながらで悪いんだけど、柚子果コレ…」
「“コレ”って…」
「コレがさっき言ってた柚子果の鍵だぜ。さっそくで悪いんだけど俺の言う通りにやってくれ」
  黒木が走っていた足を一度止めると、一同も続いてその場に足を止めた。


 黒木は急いで柚子果に鍵を渡すと、そのまま柚子果の手を取り、手招きしながら一緒に回す。

ピカーーーーーッ!
「わっ!?何コレ、鍵が勝手に光出したんだけど」
「柚子果の鍵は“探知と誘導の能力”なんだぜ。」
「私がリーダーの探知蛍(たんちぼたる)よ。周りにいるのは舎弟のチンチクリン1号、2号、3号だから、そこんとこ宜しく」
「この蛍は“柚子果自身が一度会った人にマーキングすることができる”んだぜ」
「そうよ。そして、その人の半径1キロ圏内を探知するの。一度マーキングすれば蛍がずっと側についてるけど、“ヤツ”に見つからないよう隠れているから、必要な時に呼び出しなさい。」
「………この変な虫めっちゃ喋るじゃん」
「誰が変な虫よ!!!」
「まあ、いいわ。舎弟のチンチクリン1号、2号、3号、そこに居る“タレ目頭巾”と“無愛想”と“糸目のっぽ”を宜しく頼むわよ」
(タレ目頭巾…)
(無愛想…)
「糸目のっぽって俺かよ…w」
 探知蛍は一人一人に寄り添うと、スッと静かに姿をくらませた。






 そして再び4人は住宅地脇の狭い雪道を走り出す。
「ねえ…アレって、」
「やべー…見つかっちまったな」
 目先の暗闇に見えた影を見て足を止めた柚子果と黒木。2人に続いて後ろを走っていたヒスイと日下部もほぼ同時に足を止める。
「   」
「っ!」
「…」
 ヒスイ、日下部はヘンテコが目の前に現れると、瞬時に自分の持っている鍵をそれぞれ氷ナイフ、炎の短剣に変形させる。
「ゴゴゴゴゴォオ」
「アイツ、こっちに近づいてきてるわよ。てか、ヘンテコってホント何者なの!?」
 ヘンテコの動きを警戒しながら、後ろ側へ後退りする4人。
「アイツは自分の体をゴムのように、自由自在に伸ばしたり縮めたり出来る“怪物”だぜ。攻撃は刃物のように切りつけてくるから気をつけてくれよ」
「ねぇ、ちなみにこのまま音を立てずにじっとしてれば、ヘンテコに気づかれる事もないんじゃ?」
「いや、アイツは“最後に音が鳴った場所か、もしくは光を探知した場所を記憶している”。だから、動かなかったら動かなかったらで、攻撃されるぜ」
「…じゃあ、この雪が降り積もる外では、ヘンテコを回避する事はほぼ不可能に近いって事ね」






 ヒスイはヘンテコがいる方面に向かって、みんなの先頭まで前に出てくると、道の端っこにしゃがんだ。
「ヒスイ?何しようとしてるの!?」
「みんなはそのまま後ろに下がってて」
 そう言った後、ヒスイは地面に向かって氷ナイフを思い切り突き刺すと、横一直線、道路の端から端まで傷をつけた。
ザクッ!

ザザザザザーーーーーーッッ!!

 地面からゴゴゴと地鳴りが聞こえた直後、その部分からまるでお城のような巨大な氷柱が目の前に一気に出現する。
「わっ!?すごい大きな氷が突然地面から生えきた!?ヒスイがやったの?」
「そうだよ。とりあえず進路妨害にはなるかなと」
「    」
 ヘンテコは混乱していた。


 氷柱が出現すると4人の姿が見えなくなってしまった上に、目の前の通り道が塞がってしまったからだ。

「でも、これだと俺たちからもヘンテコの動きが見えないぞ」
「確かに…ごめん!」
「後ろに走ろう!一旦さっき来た道戻るぞ」
 日下部に何か考えがあるようで、ヒスイ、柚子果、黒木を引き連れて走り出した。
ダッ!
「ヘンテコはそのままにしておいていいのか?アイツら音や光に反応していつまでも追いかけて来るけど…」
「いや、こちらからもヘンテコの攻撃がよめない以上、迂闊に近づくのは危険かなと。…とりあえず俺に作戦がある」
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登場人物紹介

【道角ひすい(みちかど ひすい)】22歳。東京でデザイン関係の仕事をしている。卒業した小学校の同窓会の予定がイブの日に入っていたため、地元に一時帰省していた。

同窓会のメンバーの中でメグと銀太以外は、会話するのが久しぶり。

【日下部瑞樹(くさかべ みずき)】大学生。同窓会のメンバー全員と久しぶりの会話。あまり自分から進んで話すタイプではないが、コミュニケーション能力はそれなりにある。

【紫竹山恵(しちくやま めぐみ)】地元で美容関係の仕事をしている。ヒスイが今でも連絡を取り合っている間柄で、ヒスイが地元に帰って来た時には毎度会ったりしている程である。大人びた綺麗な見た目で背も高い。銀太と付き合っている。

【宇鉄銀太(うてつ ぎんた)】地元で工業関係の仕事をしている。恵と付き合っているため、よく一緒にいる。人付き合いが特別好きってわけではないが、人との付き合い方が上手。ワイルドな見た目に関わらず、穏やかな性格。

【黒木玄(くろき げん)】消防士の仕事をしていて、体格が良い。女性が好きだが女心が分からないため、彼女が出来ない。デリカシーのない発言が多く、周りを戸惑わせるが本人は気にしていない。良くも悪くもマイペースな性格である。

【柿田夕一(かきた ゆういち)】大学生。小柄な体格であるが、体を動かす事が好きで大学のサークルではサッカー部に入っている。昔から天真爛漫な性格は変わっておらず、誰に対しても明るく信頼が厚い。

【春間美香(はるま みか)】大学生。小学校6年生の時に数ヶ月間だけ、ヒスイと同じ学校に転校してきた同級生。同窓会には元担任の先生から連絡をもらい、サプライズで参加していた。穏やかで明るい性格から、久しぶりに会った同級生ともすぐに打ち解けている。

【芝崎透(しばさき とおる)】大学生。今回の同窓会の幹事である。めんどくさがりなような一面も垣間見えるが、実際は面倒見の良い兄貴肌。体を動かす事はそんなに得意ではないが、自然が好き。

【黄原柚子果(きはら ゆずか)】看護学生。はっきりとした性格で、思った事はズバッと口にする。お酒が強く、同窓会の時も最後まで毅然(きぜん)と飲んでいた。

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