第8話 「晴れ間」

文字数 2,833文字



「……、」
「…俺のも、外で“見せた方がいい”」
「…!」

 ヒスイは日下部のその言葉で“何となくそういう事”かと理解する。



 二人で立ち上がると、先に扉を開いて外に出ていく日下部に続いてヒスイも一緒に外に出た。






 そして小屋から出たヒスイは、口が塞がらないほど外の景色を見て驚くのだった。

「え?何これ…」
 太陽が昇り、眩しいほど外は晴れていて雪は止んでいた。しかし、ヒスイが驚いたのはまるで別の理由だった。
 おそらく林があったであろう辺り一面は焼け焦げていて、雪が積もっていたはずの地面は土がむき出しになっていたのだ。



 

 それから日下部が手に何か持っていることに気が付いたヒスイ。

「もしかしてそれって日下部が持っていた鍵が形を変えたの…?」
「そう。」
 日下部の手には黒い刃の短剣が持たれていた。その剣の刃からは炎が“溢れ出ている”。
「じゃあ、“ここ一帯”焼け野原になってるけど、これも日下部が?」
「…まあ。こんな風になるとは思わなかったけど」
(一体どうやったらこんなに焼け野原になるんだろう…)
 すると、ヒスイは何か気がついたように日下部の顔を見る。
(あれ…小屋にいた時は暗くて気が付かなかったけど、日下部の顔、結構やつれてる気がする)

 ふと、辺りにある焦げて黒くなっている草木を目にしたヒスイ。まだ少し煙を上げ、火が完全に消え切ってない箇所を確認すると顔を少し強張(こわば)らせた。

「結構燃えたみたいだけど、小屋まで燃えなくて良かった…ね?」
「…だな。最初この剣の使い方分からなくて、俺も焦った」
「だから、ずっと寝ないで起きてたの?」
「っ…!…いや、一応寝たけど。」
(でも…日下部、隈(くま)できてる。もしかして扉の前にいたのも、小屋を見張っててくれたからなのかな…)
 日下部の目の下の隈(くま)を見て思う事はあっても、あえて何も指摘しなかったヒスイ。
「あのさ…私ばかり休むのもアレだから、日下部も小屋で休んできたらどうかな…?」
「いや、大丈夫。先を急ごう。歩いていけば人や何か見つかるかもしれないし」
「…そっか。」
 何故か言いづらそうに口籠る日下部の様子から“察した”ヒスイは、ポケットをゴソゴソとさせると何か取り出した。


 それを日下部に見せる。

「じゃあさ、コレ使えるか分かんないけど、さっき小屋で見つけたんだけどいる?」
 ヒスイがポケットから取り出したのは、使いかけのタバコだった。
「!」
「ライターまでは何処にあるのか分からなかったんだけど、でも、日下部が火が使えるならちょうど良かったかもしれない」
「でも、誰かのタバコ勝手にパクるわけにもいかなくないか?」
「まあ…常識的に考えてそうだけど緊急事態だし?…あと“結構湿気てる”から、そんだけ置きっぱなしにされてた物だからいいんでないでしょーか…。一応家に帰れた後、私が謝礼に“1カートン”置きに来くればそれでチャラにならないかな」
「じゃあ道角が使うべきだろ」
「私はタバコ吸わないから」
「じゃあ逆に何でそんな詳しいんだよ…」
「…。…まあまあ!とにかく助けてくれたお礼だから(他人のだけど)、ほらほら」
 疑問を抱く日下部の話を誤魔化すように遮るヒスイ。


 

 日下部の手の上にタバコを乗せると、とっととその場を離れようとした。

「小屋を燃やさないように吸ってね。そもそもタバコに火がつくかどうかも分かんないところだけど」
「…じゃあ、お言葉に甘えて、ありがたく。」













 

 日下部から見えなくなるまで離れたヒスイは、小屋には入らず少し遠くの方までやって来た。


 そして、自分のポケットから鍵を取り出す。

(日下部、どう見ても体がフラフラだったな…。これから歩くにしても、あのままじゃこの先絶対体力持たない)
(この鍵、氷の魔法みたいな能力より、他に何か使い方ないんだろうか。どうせ魔法が使えるなら“どこでもド〇”とか出てきてほしい。)






 ヒスイは小屋から少し離れた林の中で、持っていた鍵を氷ナイフの形に変形させようと昨日の事を思い出そうとする。
(確かこの鍵…変形する前に0度の位置から90度左回りに一度傾いてから、また0度の位置に戻っていたよな…。まあ、とりあえずやってみるか)
 ヒスイが鍵を回すと、昨日と同じように鍵が輝き出した。
ピカ――ッ!!
 直視できないほどの輝きを解き放ったと思ったら次第に光が弱まっていく。光の強弱に比例して変形を遂げた鍵が、ヒスイの手の中に『氷ナイフ』として収まっていた。
「…!」
(改めて見てみると凄く綺麗なナイフだな…)
 そして、ヒスイは手に持った氷ナイフを試しに雪の積もっている地面に突き刺してみる。
キー―――――ン
 氷ナイフを持ち上げた直後、氷ナイフを刺した跡がある地面から冷気が出てくる。すると、少数秒の誤差で巨大な氷柱(つらら)を発生した。
「わっ!」

 自分で氷ナイフを刺しておきながら、その氷柱の迫力に改めてビックリしていたヒスイ。その後、その氷柱を恐る恐る触って見ようとする。
「冷たい…」
(降っていた雪も、地面に積もる雪も、不思議なことに冷たくないけど…この氷柱はちゃんと冷たい。)
(理由は分からないけど、“氷が冷たくて”何だかちょっと安心する…。)
 ヒスイはしばらく地面に発生した氷柱を見ながら、その周りをぐるっと回って見渡していた。
(…待てよ?ナイフを刺した後、手を離さなかったらどうなるのかな…?何か条件とかあるなら知っておいた方が良さそうだ)
「…よし!」

 











 ヒスイは試行錯誤しながら氷ナイフをあちこちに突き刺したり、切りつけたりしていた。


 気が付くと、辺り一帯に氷柱が大量に発生していて、異様な景色になっていた。

(…やば。気が付いたらあちこち氷柱だらけにしてしまっていた。これじゃあ、日下部の事言えないな。てか、何となく気持ちが分かったわ)
 きっと興味本位で鍵の使い方を試していたら焼野原になってしまったのだろうと日下部の気持ちを想像したヒスイ。



 それで思い出したのか、急に日下部の様子が気になりだした。

 

(そういえば、結構時間経っちゃったけど日下部どうしてるかな。…てか、このナイフはどうやったら元の鍵の形に戻るんだろう…)
 氷ナイフのままの形だとポケットに入れるには不憫(ふびん)に思ったヒスイは頭を悩ませていると、手に持っていた氷ナイフが突然光出した。


 また一度強い輝きを解き放った後、次第に光が弱まっていくのと同時に氷ナイフは鍵の形へと戻っていく。

(どうやって元の形に戻すのか分からんかったけど、とりあえず良かった。さて、このへんで日下部の所へ戻ってみるか)
 




 ヒスイは鍵をしまうと、さっき日下部がいた場所の焼け野原になっていた林に向かって歩いて行く。




「…あれ、いない」


 ヒスイが辺りをキョロキョロと探し回ってみるが、そこに日下部の姿は見当たらなかった。


 


 


 次に小屋に戻って確認してみることにしたヒスイ。



 古屋の扉を開けると、そこには日下部の姿があった。しかし、そこはとても静かだった。

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登場人物紹介

【道角ひすい(みちかど ひすい)】22歳。東京でデザイン関係の仕事をしている。卒業した小学校の同窓会の予定がイブの日に入っていたため、地元に一時帰省していた。

同窓会のメンバーの中でメグと銀太以外は、会話するのが久しぶり。

【日下部瑞樹(くさかべ みずき)】大学生。同窓会のメンバー全員と久しぶりの会話。あまり自分から進んで話すタイプではないが、コミュニケーション能力はそれなりにある。

【紫竹山恵(しちくやま めぐみ)】地元で美容関係の仕事をしている。ヒスイが今でも連絡を取り合っている間柄で、ヒスイが地元に帰って来た時には毎度会ったりしている程である。大人びた綺麗な見た目で背も高い。銀太と付き合っている。

【宇鉄銀太(うてつ ぎんた)】地元で工業関係の仕事をしている。恵と付き合っているため、よく一緒にいる。人付き合いが特別好きってわけではないが、人との付き合い方が上手。ワイルドな見た目に関わらず、穏やかな性格。

【黒木玄(くろき げん)】消防士の仕事をしていて、体格が良い。女性が好きだが女心が分からないため、彼女が出来ない。デリカシーのない発言が多く、周りを戸惑わせるが本人は気にしていない。良くも悪くもマイペースな性格である。

【柿田夕一(かきた ゆういち)】大学生。小柄な体格であるが、体を動かす事が好きで大学のサークルではサッカー部に入っている。昔から天真爛漫な性格は変わっておらず、誰に対しても明るく信頼が厚い。

【春間美香(はるま みか)】大学生。小学校6年生の時に数ヶ月間だけ、ヒスイと同じ学校に転校してきた同級生。同窓会には元担任の先生から連絡をもらい、サプライズで参加していた。穏やかで明るい性格から、久しぶりに会った同級生ともすぐに打ち解けている。

【芝崎透(しばさき とおる)】大学生。今回の同窓会の幹事である。めんどくさがりなような一面も垣間見えるが、実際は面倒見の良い兄貴肌。体を動かす事はそんなに得意ではないが、自然が好き。

【黄原柚子果(きはら ゆずか)】看護学生。はっきりとした性格で、思った事はズバッと口にする。お酒が強く、同窓会の時も最後まで毅然(きぜん)と飲んでいた。

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