道路の側面に畑や田んぼがある道を5分ほど歩いた後、懐かしい小学校に辿り着いた。
正門を入って学校を目の前に見上げると、2階の一番端っこの窓ガラスに明かりが灯っているのが見える。
ヒスイは学校の正面玄関から中へ入ると、持参したスリッパを履いて廊下を歩いた。
小学校の6年間過ごした記憶は自身が思ってる以上に残っていたようで、会場である教室までの通路はすんなりと進むことが出来た。
いざ明かりの灯っている教室を目の前にすると立ち止まって一息飲み込むヒスイ。お酒の入った紙袋を持っている手は少し汗ばんでいた。
覚悟を決めたヒスイは、勇気を振り絞って教室の扉を開ける。
一斉に自分の元へ視線が集まり、圧倒されそうになったヒスイ。
すると、不安を抱えていたヒスイをよそに、先に教室にいたみんなは微笑ましそうに迎え入れてくれた。
ヒスイは自分を呼びかける声が聞こえた方を見てみると、そこにいたのは手を上げて待っている
紫竹山恵(しちくやま めぐみ)という女性の姿があった。
恵は男性メンバーに混じって話し込んでいたが、その中でも引けを取らないよな背の高さと、人際目立つ綺麗さを兼ね揃えていたため、本人がどこに居るのかすぐにヒスイに分からせた。
実はヒスイは恵とも、たまに連絡を取り合うほどの仲ではあった。
ひとまず居場所が出来たとホッとしたヒスイは、恵の所へ寄る。
恵と一緒に話し込んでいたこの男性は宇鉄銀太(うてつ ぎんた)という男性で、恵の彼氏だ。二人は中学の時から付き合い始めて、今までに何回が別れたことがあったらしいが結局今もなんだかんだ関係が続いている。
「東京で買ってきた珍しいお酒だよ~。みんなで飲もうと思って」
地元で一緒に暮らしている恵と銀太は、普段飲めないようなお酒が珍しかったのか、とても興味津々に喜んでくれた。
さっそく開けようと思ったヒスイは、一応幹事に確認取ろうと芝崎透(しばさき とおる)の元へ近づいた。しかし、何やらあちこち連絡を取り合っているようで忙しそうにしていた。
「手土産にお酒持って来たんだけど…どうしたらいいかな?」
「じゃ、みんなが揃ったら開けようか。待ってね。今“大雪の影響”で来れない人確認してるから」
ヒスイはひとまず、並べられている机の上に紙袋を置いておいた。
改めて会場として設置された教室の空間は、今までに経験したことがないような異質な感覚だった。教室の机を囲うように並べられ、その上に様々なお酒やオードブル、お寿司やお肉と豪華な食事が並べられていた。
さらに教室の窓際には誰が用意したのか分からないような、大きなクリスマスツリーが大胆に飾られている。
「すっごく綺麗になって誰かと思った!…私の事覚えてる?」
ヒスイの肩をトントンと優しく叩いて、話しかけてきたこの女性は春間美香(はるま みか)という女性であった。ヒスイが小学校6年生の時に2か月間だけ学校で一緒に過ごした転校生であった。
「久しぶり!覚えてるよ、ビックリした。まさかミカッチまで来てくれるなんて思わなかった」
「“ミカッチ”…その呼び方懐かしい。覚えててくれて嬉しいよ」
本当に嬉しそうに微笑んだ美香。彼女もまたヒスイの記憶とは見違えるほど大人びていて、話しかけるまで誰だか認識できないほどだった。
またどこから持ってきたのか分からないが、マイクの音源が入る音が聞こえると、教室に集まっていた皆の視線が一斉に芝崎の方へ向いた。
「あんまり遅い時間に大きな声出せないんだけど…皆揃ったみたいだから、そろそろ同窓会始めようかなと思います」
「えー…今日はね、足元悪い中お集まりいただきありがとうございます。残念ながら、元担任だった大原先生と丸山くん、田上さんは元々来れない予定でしたが、あと三人はどうやら電車や通行止めで来れなくなったようです。しかし、せっかく集まれたここにいる皆さんは、またとないこの機会を存分に楽しんでいっていただければなと思います。んじゃ、あんま話が長いのもアレなんで…それでは、皆さん乾杯のグラスを持って~~」
みんなそれぞれ好きなお酒や食事を楽しんでるところ、ヒスイも恵と一緒に机に座ってビールを飲んでいた。
隣の席の辺りには男性メンバーたちが数人集まって立ちながら楽しそうに話している。
「…ねえねえ、ヒスイは例の彼とは今も付き合ってんの?」
「えっ!いつ?先月一緒に旅行行ったって言ってなかったっけ?」
たまたま聞いていたのか、それとも聞き耳を立てていたのか分からないが、隣で話し込んでいたはずの男性メンバーたちが一斉に大きな声でヒスイの話に反応していた。
その声にビックリしたヒスイと恵。
「おいおい飲め飲め!酒ならいっぱいあるぞ!飲んでスッキリしたまえっ」
教室にいるメンバーの中で終始明るかったこの男性は柿田夕一(かきた ゆういち)という男性である。その持前の明るさは小学校の時から変わらずで、誰に対しても天真爛漫なその性格から、みんなとすぐに打ち解けることが出来ていたのは納得である。
「なんかこの余裕なのがむかつくな~。柿田は可愛い彼女いるもんなァ~」
そう言って柿田に対して冗談ぽく笑っているこの男性は
黒木玄(くろき げん)という人物。
黒木は小柄な柿田の頭をポンポンと撫でる。
「心は立派に成長してるのに、体はどこ成長した…?」
黒木にデリカシーのない言葉を吐かれても、まったく気にする様子の素振りを見せない柿田は言い返した。
「まーまー。そうは言っても柿田には可愛い彼女がいるから。“彼女のいないゲン”と違って。」
「え、何この劣等感。え、てかここにいるメンバーで彼女いないのってもしかして俺だけ?」
ヒスイと恵の会話はいつの間にか隣の男性メンバーたちに混じって、話しが進んでいた。
さっきから“同じ輪”にいるずなのに、全然言葉を発しなかった日下部。恵が質問すると、まるで息を吹き返したかのように口を開いた。
みんなお酒がどんどん進み、だんだん酔ってきた様子を見せるとそれに比例して会話はどんどん過激になっていっているような気がした。
「瑞樹を彼氏にするのはどうって事。お前ら小学校の時すっげー仲良かったじゃん」
「10前の事だからだよ。正直すっげーヒスイ綺麗になったじゃん。俺だったら狙っちゃうね」
「んで、さっきの質問はどうなの?瑞樹は男としてどう?」