第7話 「日差し」

文字数 3,169文字



 壁の隙間から差し込んでいた日差しがちょうど顔に当たる。


「……。」

 ヒスイはゆっくりと瞼(まぶた)を開いた。


 そこで横たわっていたヒスイは、足に何かが当たるのが気になって、上半身だけ体を起き上がらせて様子を見てみる。



 初めは薄暗くてよく見えなかったが、だんだんと目が慣れてくると、どうやら自分の今いる場所は“外ではない”事だけは分かった。

(薄暗くてよく見えない…。辺りに何か散らかっている)
 微かに差し込む日差しを頼りに、辺りをキョロキョロと見渡すヒスイ。


 よく見ると散らかっている様々な物は、農作業に使う道具ばかりであった。

(多分だけど、小屋のような所にいるんだろうな…。)

 ヒスイは自分の見たり触ったり出来る範囲で手に入れた情報を元に、大まかに“小屋”のような所にいると認識出来た。

(…そういえば日下部は?)
 ふと、視線を扉の前に移動させるとそこには、扉の前に背中をもたれさせて座り込んでいる日下部の姿がある事を確認した。
(日下部…。…動かない大丈夫?眠っているのかな)
 自分がいる位置からでは視界が悪く、日下部の様子が分かりにくかった。



 不安に思ったヒスイは手探りで散らかった道具をどかしながら足場を確保していく。


 音を立てないよう膝を床に付けると、四足歩行で恐る恐る日下部に近づいた。

「……。」
(息はある。良かった。寝ているだけみたいだ)
 安心したヒスイはホッと静かにため息をつく。
(本当は“外”の様子も確認したいところだけど、扉を開けたら日下部が起きてしまうかもしれないから、今はやめておこう)
 ヒスイは一旦、自分が先ほど寝ていた場所まで戻ろうと足を一歩前に出したその時、
…ギシィッ……。
 しかし、ヒスイの気心とは裏腹に、足元の床からきしむ音が静かな部屋に鳴り響いてしまう。


 当然、日下部の耳の中にも入っていったようで、その音を鳴らしてしまった直後に日下部は目を覚ましたのだった。

「…起きてたんだ。ビックリした」
「驚かせてごめん」
 ヒスイは体の動きを停止させてこちらを見ていた。


 目が合ったの事も加えて余計と気まずくさせたのだろうと思った日下部は、自分からヒスイに話題を振る。

「歩いてるけど、足の具合は?もう大丈夫なの?」
「う、うん」
 ヒスイはその言葉で大事な事を思い出した。


 数時間前、薄っすらと記憶に残っている日下部の背中に抱えられている時の事だった。

「今度は本当に大丈夫、」
 言葉を詰まらせながらそう答えるヒスイ。


 申し訳ない気持ちを日下部になんて伝えればいいのか悩んでいた。



 自分が今できる事は一番先に日下部に頭を下げることだと思ったヒスイは、日下部に向かって深々と頭を下げた。

「…本当にごめん。」
「大丈夫。あれくらい大した事ない」
 相変わらず素っ気ない態度のような日下部の返事だったが、ヒスイは少し“見方”が変わっていた。
「…あと、ありがとう」
 ヒスイの言葉に対して日下部は静かにコクンと頷くだけだった。そこから心情は正直読み取れなかったが、今の自分なら何となく“気持ち”が伝わっている気がした。
「でも、まだ無理はしない方がいい。座ってな」
「うん」
 ヒスイは空いている所に腰を下ろすと、念のため自分の太ももの傷を見てみる事にした。
(あれ…!?)
ギシギシッ
 ヒスイは床のきしむ音を立てて勢いよく立ち上がって目を丸くさせる。
「?」
 日下部は不審な行動を取っているヒスイに目を向けると、ヒスイは自分の太もも付近をまじまじと見つめるなり、ソワソワとした変な動きをしていた。


 それから、薄暗くて顔がよく見えないが、どうやらヒスイは“こちら”に何か伝えようとアイコンタクトで訴えかけている。

「そんなに騒いでたら傷口開くよ」
「あ、ああ、あのさ」
 ろれつの回らないほど慌てたヒスイが日下部の正面までやってくると、仁王立ちをして太ももを見せてきた。
「あ、足さ、本当はね、貫通してたんだけど、何故か傷が何事もなかったかのように治ってんだけど!」

「いや…それを俺に聞かれても。てか、どういう事?」
「いや、私にも聞かれても。わけわからんから困ってるんよ。だって、この変な格好の服だって思いっきり破れてたのに…“元の形に戻ってる”。私は寝てたから分からないけど、“おかしくない”?」
「まさか、“日下部がなおしてくれた”?」
「いや、俺何もしてないけど。」
「じゃあ、どゆこと!??!?!?」
「だから俺に聞かれても。…とりあえず落ち着かね?」
「いや、落ち着けるか!!」

「っ」

 日下部はヒスイの言葉に一瞬目を丸くさせた後、口元を緩ませる。
「…?」
 すると、ヒスイのずっと慌てふためいている姿を見て、何故か日下部の笑みがこぼれ落ちた。
「ふ…ははっ」
「え?」
「なんでそんな“過程”にこだわってんだよ。治ってたんだから良かったじゃん。安心したわ」
「だって不思議に思わない?“身体も服装も勝手になおってる”って。」
「だってもう、最初っから“おかしな事”しか起きてねーじゃん。考え出したらキリないだろ」
「…まあ、そうだけど。」
(なんで逆に日下部はそんなに冷静なんだ?でも、まあ…日下部が笑ってくれたから…まいっか。)
「ふっ……」
 ヒスイは日下部がどうして笑っているのか理解できなかったものの、日下部の表情につられて微笑みが溢れたのだった。
「…そういえば、日下部も私が拾ったようなメモ用紙持ってるって言ってたけど、今も持ってる?」
「ああ、持ってるよ。昨日襲われた時に結構ボロボロになっちゃったけど。」
 ヒスイと日下部はそれぞれ自分が持っていたメモ用紙をポケットから取り出すと、その2枚のメモ用紙を床に並べて置いてみたのだった。
「半分より上の方は書いてある事が違うね」
「そうだな」
「“鍵×10”…?」
 日下部のメモ用紙の図に書いてある内容を見るなり、ヒスイは首を傾(かし)げた。
「“鍵”っていうのは、多分このメモと一緒に置かれていたコレの事だよな」
 日下部はそう言うと、自分のポケットからヒスイが取り戻してくれた鍵を取り出す。


 その様子を見ていたヒスイはどこか安心する事ができた。

(…良かった。まだその鍵持っててくれたんだ…。)
「…まあ、この今の状況から考えるとって言われると“私たちが拾った鍵のような物”のことだと思うよね」
「だな」
「でも、そもそもこのメモ用紙、勝手に拾ってきちゃったけど誰の物かも分からないし。“信憑性”なんてどこにも無いよ。」
「分かってる。俺も9割9分“ふざけたメモ用紙”と“落とし物の鍵”だと思ってる。」
「…だけど正直、半ば諦めというか…吹っ切れるしかないって感じ。あまりにも情報が少なすぎて。」
「…うん。」
「居場所は分からない、日時も時間も分からない、スマホもない、金も無い、…これじゃあ何から対処していいか分からないし、おまけに、“自分の中での常識を覆(くつがえ)されるような事ばかり”起きて唖然としてる。…もういっそ吹っ切れて、何か一つ目的を作って計画練った方が気持ち的にも楽かなって思ってるだけ。」
「確かに。」
 すると、ヒスイの顔の前に日下部は手を差し出す。


 その手には何か握っているようで、ヒスイの視線が手に移ると日下部は手を開いた。

「一応持ってきていたんだ、道角の拾った鍵。」
「あ、そっか!敵をなんとか倒した後…そういえばすっかり鍵の事忘れてた」
 ヒスイは日下部から自分の鍵を受け取る。
「…それでなんだけど、道角がこの小屋で眠っている間、俺にも“その鍵がナイフにできるかどうか”試したんだ。あの時、一部始終を見てたから。」
「!」
「結論から言うと“できなかった”。」
「…!それってつまり…」
「他の人でも試してみないと分からないけど、“その鍵は道角が使える物”だと仮定くらいはしていいと思う」
「じゃ、じゃあ日下部が拾った鍵は?」
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登場人物紹介

【道角ひすい(みちかど ひすい)】22歳。東京でデザイン関係の仕事をしている。卒業した小学校の同窓会の予定がイブの日に入っていたため、地元に一時帰省していた。

同窓会のメンバーの中でメグと銀太以外は、会話するのが久しぶり。

【日下部瑞樹(くさかべ みずき)】大学生。同窓会のメンバー全員と久しぶりの会話。あまり自分から進んで話すタイプではないが、コミュニケーション能力はそれなりにある。

【紫竹山恵(しちくやま めぐみ)】地元で美容関係の仕事をしている。ヒスイが今でも連絡を取り合っている間柄で、ヒスイが地元に帰って来た時には毎度会ったりしている程である。大人びた綺麗な見た目で背も高い。銀太と付き合っている。

【宇鉄銀太(うてつ ぎんた)】地元で工業関係の仕事をしている。恵と付き合っているため、よく一緒にいる。人付き合いが特別好きってわけではないが、人との付き合い方が上手。ワイルドな見た目に関わらず、穏やかな性格。

【黒木玄(くろき げん)】消防士の仕事をしていて、体格が良い。女性が好きだが女心が分からないため、彼女が出来ない。デリカシーのない発言が多く、周りを戸惑わせるが本人は気にしていない。良くも悪くもマイペースな性格である。

【柿田夕一(かきた ゆういち)】大学生。小柄な体格であるが、体を動かす事が好きで大学のサークルではサッカー部に入っている。昔から天真爛漫な性格は変わっておらず、誰に対しても明るく信頼が厚い。

【春間美香(はるま みか)】大学生。小学校6年生の時に数ヶ月間だけ、ヒスイと同じ学校に転校してきた同級生。同窓会には元担任の先生から連絡をもらい、サプライズで参加していた。穏やかで明るい性格から、久しぶりに会った同級生ともすぐに打ち解けている。

【芝崎透(しばさき とおる)】大学生。今回の同窓会の幹事である。めんどくさがりなような一面も垣間見えるが、実際は面倒見の良い兄貴肌。体を動かす事はそんなに得意ではないが、自然が好き。

【黄原柚子果(きはら ゆずか)】看護学生。はっきりとした性格で、思った事はズバッと口にする。お酒が強く、同窓会の時も最後まで毅然(きぜん)と飲んでいた。

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