第1話 「過ぎた記憶」

文字数 4,337文字

ガタンゴトン――――…。



―――――――…新幹線の車内から見える外の景色は、時間が経つにつれて白く移り変わって行く。


 暗闇でしんしんと降り続ける雪の景色は、まだランドセルが黒か赤しかなかった頃の自分の姿を思い出させた。
 手に持っていたスマホの画面がピカッと光ると、画面に表示された『12月23日19時35分』。


 東京から新幹線に乗ってから一度は乗り替えたものの、すでに1時間半は経っている。


 外の景色は一面真っ白に覆われていた。

(やっぱりこっちは田舎だな~…)
 窓側の席に座っていたその女性は『道角(みちかど)ひすい』という人物だった。窓の景色が徐々に変わっていくにつれ、懐かしい気持ちを思い出す。
ブブッー。ブブッー。

 自分のの手の中から伝わってくるスマホの振動に気がついたヒスイ。画面に表示された友達からのメッセージに目をあてる。




メッセージ
ユイ【私は明日帰るよ。ヒスイはもう実家?】
ヒスイ【私は今ちょうど新幹線に乗って帰ってるところ】
 メッセージの文字を打ち終わるとヒスイはまた外の景色を眺めた。そして、何故か不貞腐れた顔をしている。


(同窓会の予定“12月24日”に決めた奴、ぜってー恋人いたことないだろ)
 ヒスイがそう思う答えは、数時間前のある男性とのスマホのメッセージのやり取りの中にある。




メッセージ
耕太郎【今日話したいことあったんだけど、どうしても予定空けられない?】
ヒスイ【ごめん、もう新幹線待ってるところだから。言ってた通り明日は地元の同窓会あるから帰省する】
耕太郎【やっぱり行くんだ。せっかくイヴなのに。俺の事なんてもうどうでもよくなった?なんか喧嘩してからずっと連絡くれないじゃん】
ヒスイ【別にどうでもよくなったなんて思ってないけど】
耕太郎【今電話できる?】
耕太郎【(音声通話-12分05秒)】
耕太郎【早めにヒスイの家に荷物取りに行きたいんだけど、どうすればいい?】
ヒスイ【鍵まだ持ってるよね?私がいなくても勝手に上がっていいから、帰るときに自宅のポストに入れといて】






(何となく、近々耕太郎から別れを告げられそうな、そんな予感がしていた。でも、まさか帰省しているタイミングで“くる”とは思っていなかったけど。)

 まるで他人事のように“元カレ”を思い出していたヒスイ。無意識にぼーっとスマホの画面を眺めていた。

「ん、」

 なんとなくふと目に留まった天気予報のアプリ。開いてみるとヒスイは驚いた。

 地元の天気予報によると“明日は数年ぶりの大雪の恐れ”という内容が目に飛び込んできたからだ。


 ヒスイは今日、自分は実家に帰る予定でよかったと安心するのと同時に、明日帰省しようとしている友達の事を思うと心配になる。

 





 それからしばらくして見覚えのある景色と、聞き覚えのあるアナウンスが車内に流れ始めた。


 それを合図に一度新幹線を降りるヒスイ。手に握っていたキャリーケースのタイヤは、凸凹道をガラガラと音を立てながら移動すると改札出口を通り過ぎて行く。

「!」

 ヒスイは外の景色を見て驚いた。

 東京にしばらく住んでいたヒスイは、自分の地元がこんなに雪が積もるなんてすっかり忘れていたからだ。


 

 外の刺さるような寒さは辛かったのだが、自分の親が車で迎えに来てくれる事を約束していたヒスイは、駅の駐車場から自分のいる位置が分かる場所に律儀に立って待っていた。

(東京だったらこんな寒い中待たなきゃいけないことなんてなかったのに…。田舎はバスどころか、タクシーすら全然いない)
 凍える手に時々息を吹きかけながらキャメル色のコートを身に纏(まと)い、身体をソワソワさせながら待つヒスイ。



 ふと向こう側に視線を送ると、偶然見覚えのある男性と目が合ってしまった。

ぱち。
(あれ…なんか見覚えがる顔、)
「…もしかして日下部(くさかべ)…?」
「……道角(みちかど)か?」
(ひ、久しぶり)
 ヒスイがつい話しかけてしまったこの男性は、ヒスイと同じ小学校出身の『日下部瑞樹(くさかべ みずき)』という人物である。


 懐かしさのあまり、無邪気な態度をとってしまったヒスイであったが、この後すぐに後悔することになる。

「…久しぶり。………。」
「………。…日下部も明日の同窓会にくるの?」
「…まあ。その予定。………じゃあ俺、迎え来てるから。」
 そう素っ気ない態度でヒスイに言うと、あっという間に暗闇に消えていった日下部。


 その背中を見送っていたヒスイは急に恥ずかしくなった。

(日下部のやつ、私に声かけられたから仕方なく返事しましたって感じだったな。…なんか、声かけなきゃ良かった気がする)






 






 それから程なくしてヒスイのスマホにも通知が来る。

ピロン♪
メッセージ
母【着いたよー】
ヒスイ【了解】
  

 見覚えのある白い軽自動車に乗り込んだヒスイ。


 ガタッガタッと揺られながら帰る、後部座席の乗り心地は最悪で早く家についてほしいと思いながら雪道を走って行った。





 ようやく家に辿り着くと、久しぶりに顔を見た自分の父親は温かく迎え入れてくれた。


 ヒスイは帰宅後すぐにお風呂に入り、冷えた体を温めた。ヒスイがお風呂から上がると、ダイニングテーブルの上には豪勢な料理が並べられている。



「わ~豪華だねっ」

「まさか東京に住んでるあんたが、クリスマスに帰省することなんて無いと思ってたからね。まあ、明日がクリスマスなんだけど。あんたは同窓会でいないから、今日が“道角家にとってのクリスマス”ってことで♪」
 父、母、ヒスイの3人が食卓に着くと、みんなで缶ビールの蓋を開けて乾杯した。
父、母、ヒスイ「「「カンパーイ!!!!!」」」
  







「そういえば、」
「ん?」
「ヒスイ、“丸井くん”って覚えてる?もう籍いれたんだって~。この歳で結婚するなんて早いわね~」
「そうなんだ。相手はどんな人なの?」
「なんか、同じ職場の一個年上の人みたいよ。しかも、もうそのお相手はお腹が大きいんだってさ~」
「へ~。だから明日の同窓会、丸井は不参加だったんだね。理由聞いて納得だわ」
(てか田舎の情報回るの早すぎで怖っ……。同級生の私ですら丸井が結婚したこと知らなかったわ)
「結局明日の同窓会って何人参加するの?“丸井君以外”だと確か全員で14人だっけ?」
「いや、あともう一人来れないから……。13人。いや、“クラスメイト全員で16人”だから、お母さんが言った人数が違う。明日は14人来る予定なんだよ。」
 すると、さっきまでテレビを見ながら無言でご飯を食べていた父がようやく口を開いた。
「皆はもう家に帰ってきてるのか?今日の深夜から明日の昼前まで“災害級の大雪警報”が出ているぞ。今日帰ってきてない同級生は明日、電車が止まって参加できないんじゃないか?」
「確かに。そんなに雪降らなきゃいいんだけど…。」
 ヒスイは心配になった。



 明日の同窓会がなぜ“22歳の年”で開催されることになったかというと、実はヒスイが通っていた小学校が今年で廃校になる事が決まっていたからだった。もう何年も前から学校に通う子供の1学年の人数が10人も満たなくなり、本来ここの小学校へ通うはずたった地域の小学生たちはすでに合併した隣町の小学校へと通っているらしい。



 でも、私たちにとっては思い出の母校であり、最後にもう一度同級生のみんなで教室に集まりたいとの希望があって明日集まることになったのだ。





 



 時間が経ち、そろそろ寝ようと思ったヒスイは2階に上がって自分の部屋に入った。机にたてかけられていた小学校の卒業アルバムが目についたヒスイは少し寂しい気持ちにはなる。


 しかし、お酒を飲んだせいでとにかく眠かったヒスイは、卒業アルバムを手に取ることなくベッドに寝転んだ。


















 ―――…午前四時。体の震えで目が覚める。


 

(うおっ寒っむ!!!!!!!!!!!!)
 まだ太陽が昇り切っていない早朝。寒さで目が覚めたヒスイは自分の部屋を飛び出して階段を駆け下りた。


 急いでリビングへ行くと、コタツの電源を入れるとコタツの中に身をかがめて亀のように閉じ籠(こも)った。

(コタツまじ神)
 ヒスイは昨日の疲れもあって、再びそのままコタツに入って熟睡してしまった。











ドタドタドタッ。
忙しない足音がこちらに向かってくるのが聞こえてくる。
「ヒスイ―!いつまで寝てんの!雪かき手伝ってー」


(んー………眠い。聞こえないフリしておこう……)
 一度うっすらと目を開けたヒスイだが、自分を呼ぶ声が聞こえなくなるとまた目を閉じた。



 すると、今度はドタドタドタッという音がさっきより大きく聞こえると、自分の寝転んでる頭上に母の険しい顔が現れた。

「いつまで寝てんのヒスイ!働かざる者食うべからず!雪かき手伝いなさい!客じゃないんだからっ」
母によって叩き起こされたヒスイは渋々起き上がり、部屋着の上からダウンジャケットを着て、長靴を履くと玄関の2重扉を開けて外に出た。
「やっば。めっちゃ積もってるじゃん…」
スコップで雪かきをしていた時、ヒスイのスマホに一通の通知が届いた。
ピロン♪
(なんだろう…?)
メッセージ
ユイ【最悪。電車止まって今日帰れんくなった!!!(´;ω;`)】
「げっ!まじか。……はぁ~~~…。」

 ヒスイはスマホの画面を見るなり、ショックを受ける。


 このメッセージのやり取りをしている“ユイ”とい女性は、ヒスイが今でも連絡を取り合うほどの仲の良さで会うのを楽しみにしていたからだ。むしろ、ユイというこの女性が今日の同窓会に参加することが半分前提で自分も参加を決めたようなものだったのだ。

(でも、まあ…せっかく帰ってきたんだし、今更同窓会に参加しないのもなんかアレだから…行くには行くけど、ちゃんと馴染めるかな…)
 雪かきを終えると、玄関にスコップを置いて体についた雪を払いのけた。


 長靴を脱いで玄関を上がろうとすると、赤い長細い紙袋が目についた。これはヒスイが帰省する前に東京の手土産として買った珍しいお酒で、同窓会に持っていくのを忘れないように玄関の見える位置に置いておいたのだった。


(うっ…。なんか今日の同窓会の事考えると緊張してきた。さて、もう少し休んだら支度を始めるか)
 













 

 ―――…夕方になり、支度を終えたヒスイが靴を履こうとしていたところ、母が後ろから心配そうに見つめていた。

「大丈夫?そんな踝(くるぶし)よりちょっと長さのあるような靴じゃ、雪入るよ。長靴履いていけば?」
「嫌だよw。ダサいもん。道路は除雪されてたし大丈夫」
「転ばないように気を付けて。あんまり夜遅いようだと危ないから迎え行くよ」
「大丈夫大丈夫。多分次の日まわると思うけど、家から歩いて5分の距離だし。先寝てていいからね、行ってきます」
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登場人物紹介

【道角ひすい(みちかど ひすい)】22歳。東京でデザイン関係の仕事をしている。卒業した小学校の同窓会の予定がイブの日に入っていたため、地元に一時帰省していた。

同窓会のメンバーの中でメグと銀太以外は、会話するのが久しぶり。

【日下部瑞樹(くさかべ みずき)】大学生。同窓会のメンバー全員と久しぶりの会話。あまり自分から進んで話すタイプではないが、コミュニケーション能力はそれなりにある。

【紫竹山恵(しちくやま めぐみ)】地元で美容関係の仕事をしている。ヒスイが今でも連絡を取り合っている間柄で、ヒスイが地元に帰って来た時には毎度会ったりしている程である。大人びた綺麗な見た目で背も高い。銀太と付き合っている。

【宇鉄銀太(うてつ ぎんた)】地元で工業関係の仕事をしている。恵と付き合っているため、よく一緒にいる。人付き合いが特別好きってわけではないが、人との付き合い方が上手。ワイルドな見た目に関わらず、穏やかな性格。

【黒木玄(くろき げん)】消防士の仕事をしていて、体格が良い。女性が好きだが女心が分からないため、彼女が出来ない。デリカシーのない発言が多く、周りを戸惑わせるが本人は気にしていない。良くも悪くもマイペースな性格である。

【柿田夕一(かきた ゆういち)】大学生。小柄な体格であるが、体を動かす事が好きで大学のサークルではサッカー部に入っている。昔から天真爛漫な性格は変わっておらず、誰に対しても明るく信頼が厚い。

【春間美香(はるま みか)】大学生。小学校6年生の時に数ヶ月間だけ、ヒスイと同じ学校に転校してきた同級生。同窓会には元担任の先生から連絡をもらい、サプライズで参加していた。穏やかで明るい性格から、久しぶりに会った同級生ともすぐに打ち解けている。

【芝崎透(しばさき とおる)】大学生。今回の同窓会の幹事である。めんどくさがりなような一面も垣間見えるが、実際は面倒見の良い兄貴肌。体を動かす事はそんなに得意ではないが、自然が好き。

【黄原柚子果(きはら ゆずか)】看護学生。はっきりとした性格で、思った事はズバッと口にする。お酒が強く、同窓会の時も最後まで毅然(きぜん)と飲んでいた。

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