第9話 「行き先は」

文字数 2,746文字






 その理由はすぐに分かる。








「……。」
(…あれ、日下部寝てる)
 

 寝ている日下部を見つけたヒスイ。それがすぐに“分かった”のは、小屋の扉を開けると外から中へと光が漏れて、中の様子が丸見えだったからだ。


 

 日下部の姿は農作業の道具が散らかる床の隙間に横になっている体勢で見つけたが、ヒスイが漏らした外の光の眩しさにも気が付かないほど熟睡している。

(やっぱり疲れてたんだ。当然だよね。ここまで私をおぶって運んできて来てくれた上にあんまり寝れてないんだもん)


 すると、一度小屋の中へ入ろうとしたヒスイは、音をたてないように静かに“外側”から扉を閉めた。

(このまましばらく寝かしておこうっと。)












「日下部、早く帰りたそうにしてたから…こういう時、私も日下部背負って歩いて行けるほど力が合ったらいいのに」
「      」
「……?」
 自分の背後に何かの“気配”を見つけたヒスイ。その方向に振り向いてみる。

 

 “それ”は、自分が先ほど氷ナイフで出現させた氷柱だった。しかし、ヒスイは振り向いてみたものの、氷柱には鏡のように反射した自分の姿以外何も映りはしなかった。
(なんだ気のせいか…)
 安心してしゃがんだ後、ため息をついたヒスイ。
「早く帰る方法を見つけないと…」












トントン
 自分の肩を誰かが叩く合図で目を覚ます。


 座りながら寝ていたヒスイは後ろを振り向くと、そこには日下部が立っていた。


 日下部の顔は読み取りづらかったものの、何となく申し訳なさそうな顔をしているようだった。


「ごめん、俺寝てたわ」
「いや?私こそ。」
 ヒスイは寝起きで頭が回っていなかったのか、日下部がなんでここにいるのか理解するまでに少し時間がかかっていた。


 眠い目をこすりながら立ち上がる。

「良さそうだったら明るいうちに進みたいんだけど、体調どう?」
「大丈夫。」
「じゃあ、行こうか」
「でも、どっちに?一面林だからどの方向に進んだらいいのか迷いそうだけど…」
「昨日、道角が寝ている間に小屋周辺探索したんだけど、向こうの方に人がいたような痕跡があったんだ」
「そうなんだ」
 日下部のその発見に嬉しそうに反応したヒスイ。
「だから、“そっち”の方行ってみよう」
「うん」
 日下部に案内されながら後ろをついて行く。
 





 少し歩いて行くと足を止めた日下部。


 その場所は先ほどまで過ごしていた小屋から、さほど遠くはなく歩いて5分くらいの所だった。

「あ、」
 すると、ヒスイは何かに気がついた様子。
「そう。これがさっき俺が言ってた、跡みたいのがあるって言ってたやつ」
「…なんか、まるで人が寝転んでたような跡がついてるね、雪の上に。」
「うん。しかも、その跡から人間の足跡が向こうの方まで続いてる」
 天気は良く、雪も降っていなかったため遠くがよく見える。


 その足跡は林の奥の方まで続いていたのだ。

「じゃあ、この足跡に続いて歩いていけば“私たち以外の誰か”に出会えるかもしれないって事だね」
 ヒスイの言葉に日下部はコクンと頷く。
「さっそく、暗くならないうちに進もうか」
「うん」
 引き続き、ヒスイは日下部の後ろをついて歩いて行く。


 歩幅が大きい日下部の足取りに置いていかれないよう、ヒスイは必死に自分の足を動かしていた。





 足跡を辿ってしばらく2人で歩いて行くと、目先の方の林が段々開けて行くのが分かった。

「…!」
 少し疲れている様子をしていたヒスイだったが、林の道なりに終わりが見えたのを感じると足取りを力強くさせる。


 相変わらず日下部の方は終始何を考えているのか分からない表情で歩いていたが、ヒスイは慣れた様子で気にも止めなかった。

「あと、もう、ちょっと!」
 早く別の景色が見たいと思ったヒスイは日下部より早く歩き始めると、隣をすり抜けて走って行く。






 





「っ!…ここは……」
 そして、日下部より一足先に林を抜けると、目に広がってくるその光景に目を見開いていた。


 その数十秒後、日下部がヒスイの横に並ぶ。

「…!」
 2人の前に広がる景色は、一面田んぼ道が続いていて、その一本の舗装されている道路が続いている遠い道先の方に住宅地が広がっているのが見えた。



 2人は嬉しそうに表情を緩める。

「良かったー!向こうに家が見えるよ」
「だな」








「……あれ?」




 何か目印になる物はないかと、見渡していたヒスイは“ある物”に気がつく。

「?どうかした?」
「この景色私見覚えのある気がする…。ほら、あの“鹿注意”の看板。」
「そういえば俺も見覚えあるな、あの看板。手書きで書かれてて特徴的だったから良く覚えてる。ここ、S高近くの道路だよな。」
「やっぱ、そうだよね!」
「でも、俺がまだ“こっち(地元)”にいた時見たのは、もう色褪せててボロボロだった看板なんだけどね」
「新しく作り直した、とか?」
「多分、そうだろうな」
「じゃあ、この看板を目印にして家の方角を考えると………あっちだよね!…あれ…でも、最短で帰ろうとすると、私たちが追ってきた足跡とは方角が逆だね……」
 日下部は足跡が向かっている方角を目で追う。
「この足跡の行き先を見てみると、どうやらあっちの住宅地の方に向かっているみたいだ。」
「てことは、向こうの住宅地に住んでいる人って事か!でも、住宅地って行っても歩いて帰るには結構な距離だけど。」
「いくら雪に慣れてるからといって、地元でもこの時期に“この距離”を歩こうと思う人なんていないと思う。」
 日下部にそう言われると、ヒスイは「確かに。」と納得した。遠くに見える住宅地までの距離を、見える範囲で考えるだけでも気が滅入りそうになるほどの道なりだったからだ。
「…じゃあつまり、日下部が考え的には、“この足跡はこの辺の人じゃない”って事?」
「その線で今考えてる。林の中から足跡が続いてたけど、“どうやって林の中まで来たのか”っていうのが分かる痕跡がまったく雪の上に残っていなかったし」
「それって…要は“私たちと同じような境遇の人”って事だよね」
「“絶対”とは言い切れないけどね。可能性はあると思うよ」
「…じゃあ、このまま“足跡を追う”方が良さそうだね」
「だな」
 


 左右別れた道を“足跡が付いている方”に向かって進んでいくと決断した2人。雪の上を歩いて行く。




 

 この“何故か冷たくない不思議な雪”のおかげで軽装であるヒスイ、日下部の身体を冷やす事はなかった。


 しかし、足にかかる重みは確かにきちんとあったせいで、長い距離を歩くのは大変だと、途中途中心が折れそうになるヒスイ。

 それでも何とか日下部の後ろを、置いていかれないよう意識しながら足を動かしていた。
(すぐ向こうに住宅地に広がる道に続いているはずなのに………全然進んでいる気がしない。田んぼ道に雪が積もると一面真っ白いせいで、距離感が掴みにくいな)
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登場人物紹介

【道角ひすい(みちかど ひすい)】22歳。東京でデザイン関係の仕事をしている。卒業した小学校の同窓会の予定がイブの日に入っていたため、地元に一時帰省していた。

同窓会のメンバーの中でメグと銀太以外は、会話するのが久しぶり。

【日下部瑞樹(くさかべ みずき)】大学生。同窓会のメンバー全員と久しぶりの会話。あまり自分から進んで話すタイプではないが、コミュニケーション能力はそれなりにある。

【紫竹山恵(しちくやま めぐみ)】地元で美容関係の仕事をしている。ヒスイが今でも連絡を取り合っている間柄で、ヒスイが地元に帰って来た時には毎度会ったりしている程である。大人びた綺麗な見た目で背も高い。銀太と付き合っている。

【宇鉄銀太(うてつ ぎんた)】地元で工業関係の仕事をしている。恵と付き合っているため、よく一緒にいる。人付き合いが特別好きってわけではないが、人との付き合い方が上手。ワイルドな見た目に関わらず、穏やかな性格。

【黒木玄(くろき げん)】消防士の仕事をしていて、体格が良い。女性が好きだが女心が分からないため、彼女が出来ない。デリカシーのない発言が多く、周りを戸惑わせるが本人は気にしていない。良くも悪くもマイペースな性格である。

【柿田夕一(かきた ゆういち)】大学生。小柄な体格であるが、体を動かす事が好きで大学のサークルではサッカー部に入っている。昔から天真爛漫な性格は変わっておらず、誰に対しても明るく信頼が厚い。

【春間美香(はるま みか)】大学生。小学校6年生の時に数ヶ月間だけ、ヒスイと同じ学校に転校してきた同級生。同窓会には元担任の先生から連絡をもらい、サプライズで参加していた。穏やかで明るい性格から、久しぶりに会った同級生ともすぐに打ち解けている。

【芝崎透(しばさき とおる)】大学生。今回の同窓会の幹事である。めんどくさがりなような一面も垣間見えるが、実際は面倒見の良い兄貴肌。体を動かす事はそんなに得意ではないが、自然が好き。

【黄原柚子果(きはら ゆずか)】看護学生。はっきりとした性格で、思った事はズバッと口にする。お酒が強く、同窓会の時も最後まで毅然(きぜん)と飲んでいた。

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