6話 死と隣合わせの工事開始

文字数 2,317文字

「よし行くぞ!!」

 タケヤマの掛け声でトラックに乗り込んだ作業員はトラックを発進させ国道1号へ向かう。
 冴木とアルバもその後を追うが、当然車はないので、冴木がアルバの背中の上に乗り後を追う。

「初めて馬に乗ったけど乗り心地がいいなぁ」

「私は馬ではなくケンタウロスです。しっかり捕まってください。少し遅れてるので飛ばします」

 冴木はアルバの肌色の腰を抱えるように掴んだ。久しぶりに女性の肌に触れた冴木は少し興奮気味だったがこれから向かう場所は地獄の道路。こんなことにうつつを抜かしているわけにはいかない。

 冴木がしばらくアルバの背中に揺られていると大きな通りが目の前に見えてくる。

「ついに来ちゃったか」

 目の前の国道1号は車がビュンビュン通り過ぎ、明らかに危険なのが目に見えて分かった。

「冴木。行きますよ。ゴブリン水道のみなさんも行ってしまいましたし」

「ああ。アルバ。昨日伝えたことはやってあるか?」

「はい。兵士達に協力してもらって既に準備は出来てます」

 目の前を走る2tトラック3台は国道1号へ入る。それに続きアルバもケンタウロスレーンに侵入する。冴木を載せたアルバは準備をするためトラックを尻目に高速で先へ走る。
国道1号の平均時速80kmというこの道路をゴブリン水道のトラックは50kmで走る。50kmでも十分な早さなのだがクラクションの嵐が後ろを走るオープンカーから鳴り響く。

 サングラスをかけた鳥人の運転するそのオープンカーは隣の車線に割り込もうとウインカーを右へ出してはいるが右車線を走る車はスピードを緩めず割り込む隙を与えない。

「なんか緊張してくるな」

「ですが、もう着きますよ」


 アルバは一旦スピードを緩め、ケンタウロスレーンから歩道に上がった。
そこで冴木を降ろすと、警備の準備に取り掛かる。
白帯にホルダーを通しを腰へ。さらに安全チョッキを着用し、笛の準備。誘導棒を1本ホルダーへ。
さらに念のため黄色い大旗を手に持つとヘルメットを被り準備完了。
ケンタウロスレーンを渡りゴブリン水道のトラックを待つ。

 遅れてゴブリン水道のトラックが現場へ到着。最後尾のトラックの後ろには車が長蛇の列。

「早速気が重いな……」

 ゴブリン水道の3台のトラックは徐々にスピードを落としていきやがて停止。当然その間も後ろの車からはクラクションと怒号の嵐。

 そこにすかさず冴木が入り、幅寄せの合図をするが右車線の車がスピードを緩めないため入ることが出来ない。

「やっぱりしょうがないな……アルバここで俺みたいにこの誘導棒を振っててくれ」

 冴木はそう言うと一旦トラックの最後尾、工事帯の一番後ろをアルバに任せる。そして冴木はトラックの脇を通り自ら工事帯を作る。

「確かカイゼル王が建設のスキルがあるって言ってたよな。よし」

 冴木は異世界に来てから1日目にカイゼルに言われたことを思い出していた。


「#完全治癒__・・・・__#と#建造__・・__#じゃ。完全治癒は簡単にいうと冴木がダメージを受けた瞬間から治癒が発動し致命傷に至ることがないというものじゃ」


「よし、建造が何か分からないが役に立ってくれよ」

 冴木はそう呟くと頭に思い描き手をかざす。
すると突然冴木がかざした場所からコンクリートの壁が現れた。

「よし!!」

 冴木はそのまま工事帯の前に壁を立てた。続いて後ろへ行くと誘導棒を振り続けるアルバの後ろに同じく壁を。さらにアルバの前には1mほどの壁を立てた。

「アルバ。本当に昨日言ったことしたんだよな?」

「しましたよ。工事の予告看板をわざわざ作ってもらい歩道上に設置しました」

「そうか。でも真ん中の車線の方が少し車が少ないのを見ると効果は少しあったのかもな」

「おいおい!! 兄ちゃん!! こんなとこで工事すんなボケッ!!」

「まだいたのか……」

 サングラスをかけた鳥人が運転する赤いスポーツカーは未だにここで立ち往生している。その後ろの車ももちろん同様。

「どうしますか? このままじゃ……」

「ちょっとここお願いな」

 冴木はそう言うと一旦僅かな隙を見て右車線を渡る。
そして少し後ろへ行くと、誘導棒を上空に向けて左右に振る。停止の予告合図だ。続けて誘導棒を横にし停止の合図。
 しかし、止まる車はない。

「はぁ……笛使おう」

 冴木は今度は笛と一緒に停止の合図を行う。笛の音が思い切り鳴り響いたことでようやく冴木の存在を車の運転手に知らせることが出来た。

 冴木に注目をした車の運転手は少しスピードを緩める。そこを冴木は見逃さない。
すぐさま誘導棒を縦にする。

「はーい!! ストップ!!!!」

 すると厳つい強面の兄ちゃんの車が見事停止。
 ようやくアルバが立つ車線の車が右車線へ行くことが出来た。
しかし、当然ながら右車線の車が今度は進めない。

「おーいー!! アルバ!! 今さっき俺がしたことと同じことしてくれ!!」

「わかりました!!」

 アルバは誘導棒を持った腕を真っ直ぐにあげ左右に振る。そして誘導棒を横にし停止の合図。

 おそらくこの異世界でもこれが停止の合図だと習っているのだろう。素直なドライバーはすぐに停止に応じる。


 しかし、半分以上のドライバーはいわゆるそっち系の輩が多く、厳つい強面のドライバー達の厳しい視線が冴木やアルバに突き刺さる。
が、それでも文句や不満を言わないのは、冴木やアルバの制服に王家の紋章がついているからだろう。







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