9話 黒騎士との対峙

文字数 1,660文字

「冴木!! 黒騎士が……」

 アルバの掛け声で、冴木はようやく気付いた。
アルバが指した方向は車の進行方向。冴木はこの道路を逆走してくるモノを見た。

 そのモノは黒い大きな馬に乗った黒い甲冑をした男。
その黒騎士がしているのはただの逆走ではない。車のフロントや屋根を黒い馬の蹄で踏みつけ跳ね回るように逆走している。

「やはり現れおったか……」

 いつの間にか冴木の隣で腕を組んでいたタケヤマはそう呟く。
 冴木はタケヤマに話しかけながら黒騎士のことを尋ねる。

「あの黒騎士は日が出ている間ここら一帯を道路に限らず駆け回っているんだ。目的は全く分からんがな」

「危害は加えないのか?」

「それは分からん。あるドライバーは黒騎士を挑発し、返り討ちにあったそうだが。奴は強者を求めてさまよう鎧武者だ。保安官でも太刀打ち出来ない。ここは無視するしかないぞ」

「わかった」

 冴木はそう言いながらふと後ろを振り返る。すぐ100m先までその黒騎士は迫っていた。
 やがてその黒騎士の足取りが遅くなり、アルバの立っている右車線前方で停止した。
すぐそこまで迫っていた車の運転手は黒騎士を轢くまいとブレーキをかけた。それはその後続の車も一緒で一気に国道1号は渋滞する。

「あいつ何がしたいんだ……」

 冴木は渋滞した車の横を通りながら黒騎士の様子を見に行く。

「冴木さん。ダメだ、無視だ」

「いや、これじゃいつまで経っても渋滞が緩和されない」

 タケヤマの静止も聞かずに冴木はそのまま前に躍り出る。

「おい。そこどけよ」

「噂を聞いて来たが、噂通り此処にいたか英雄よ」

 黒騎士はこもった様な低い声でそう言うと黒い立派な馬から降りた。
 そして腰に携えていた黒刀を抜き構える。

「おい、待て待て」

 冴木は慌てて黒騎士を静止するが、黒騎士は聞く耳を持たず冴木へ切りかかる。

 冴木は咄嗟に前方に前転することでそれを回避。

「ほんとにこの世界は……」

 冴木がそう呟き息をつくが、黒騎士は間髪入れずに剣を振るう。冴木は念のため腰に付けていた警棒を伸ばし剣に応戦。
 警棒で黒騎士の持つ剣の刀身を捉え押し込む。

 黒騎士はその力を利用することに。黒騎士は一旦剣を引っ込ませる。すると前へ押していた冴木の体勢が前へと崩れる。
 黒騎士はそれを狙い左手の肘で溝を打つ。

「なんと!!」

 黒騎士の感嘆の声が上がる。冴木は黒騎士の肘を右手で静止したのだ。黒騎士は一旦後方へ撤退。

 何を思ったか冴木は警棒をしまい、誘導棒を構える。

「ふん。血迷ったか警備省大臣様が」

 黒騎士は再び剣を振り上げ、そのまま振り下ろす。
 冴木は誘導棒のスイッチを押し、振り下ろされた剣を誘導棒を横に構えることでガード。

 しかし、黒騎士の黒刀は誘導棒に触れることはなく、僅か数cmの空気を挟み黒刀が止まった。

「これは一体……」

 黒騎士はこの状況に明らかな動揺を見せている。
 その隙を冴木は見逃さない。横に構えていた誘導棒を今度は自分の体に振り戻し、そのまま剣道の胴の型で横に振り切った。

 思い切りよく振り抜かれた赤い誘導棒は黒騎士の鎧を直撃。そしてその勢いで黒騎士は数十cmだが横へずれた。

「中々やるな……だが……勝負はこれから」

 黒騎士がそう言い再び切りかかろうとするが黒騎士は動きを止めた。
 なぜなら黒騎士が見ている方向から保安官が乗る車のサイレンが近付くことに気付いたからだ。

「さらばだ。また会おう」

 黒騎士は黒い馬に乗り込むとムチを打ちそのまま元来た道を駆け抜けていった。

「おお!!!!」

 それを真近で見ていた運転手達は称賛の拍手を冴木に送った。
 
「あ、ありがとうございます……。とりあえず道は確保したので順番に通ってください!!」

 冴木の掛け声で渋滞していた道はゆっくりと動き出した。


 この後は何も問題が起きることなく無事に工事を終えた。

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