8話 迫り来る緊急車両と鳴り止まぬクラクション

文字数 1,792文字

 冴木は停止サインをわかり易くするため誘導棒の点灯スイッチを押す。
 そして全身全霊で出るはずのない覇気を込めて、誘導棒を振る。まずまっすぐ縦に上げた誘導棒を左右に、そして停止の合図。

 しかしもちろん緑色の肌でサングラスをしたモヒカンヤクザは止まらない。

「ほんとに治癒のスキルあるんだろうな……」

 冴木はそう言いながらもカイゼルが言った言葉を信じ、目の前まで迫ろうとする車に自ら走り込む。
その間に隣車線で車を止めているアルバに進行の合図をする。

「どけゃぁぁぁ!!!!」

 その車を運転するであろうヤクザが怒号とともにクラクションの嵐を鳴らす。
 しかし、既にアルバの車線からは救急車が走ってきている。このままこのヤクザの車を通らせたらそれこそ事故だ。

 冴木はヤクザの車が右車線へ出ないようヤクザの乗る車の右側に薄いコンクリートの壁を建造。

「おい!! なんじゃこりゃ!!」

 前からは冴木、右側にはコンクリートの壁、左側はケンタウロスレーン。
逃げ道を失ったモヒカンヤクザは仕方無くブレーキを思いきり踏む。キーキーというブレーキ音とタイヤが道路に擦れる音が混じり合い嫌なハーモーニーを産む。

 モヒカンヤクザの踏んだブレーキは徐々に車のスピードを緩めていく。しかし、このままでは工事帯最後尾にあるトラックに衝突する。

 冴木は無謀にも迫り来る車を迎え撃つ。目をつぶり藁にもすがる気持ちで誘導棒を横にし車のフロントに当たるように構えた。

 その時とてつもない摩擦音が鳴り響き、その後に巨大なクッションに人間が落ちたようなそんな音が鳴った。

 冴木はゆっくり目を開けた、衝突するかと思われたモヒカンヤクザの車は冴木の目の前で停止した。

 冴木は当然そのことに驚きを隠せない。それは運転していたモヒカンヤクザも同じだった。

 やがてモヒカンヤクザは我に返ったが、今起こったことはこの冴木がやったのだと勘違いをした。

 この勘違いをした理由にはちゃんとした根拠がある。
 王が開いた会見で、冴木が捕らえたユリウスは元保安官上がりのエリートで国の守衛隊長を務めていた。
その力量はナンベロニカ連合国でもトップクラス。それを悠々と捕らえた冴木は、90%もの視聴率を誇る王の会見中継を見ていた国民から、冴木はあのユリウス以上の男だというレッテルが貼り付けられていたのだ。

 モヒカンヤクザは冴木の余裕とした立ち姿に怯えるとすぐにハンドルを切り走り去っていった。

「今の力って一体何だったんだ……」

 冴木はそう呟くと自分の持つ誘導棒を眺めて観察をした。
 しかしどこからどう見ても普通のどこにでもある誘導棒。しかし、一つ違う点を見つける。

「誘導棒のスイッチのところが青い……」

 冴木がモヒカンヤクザを止める前に押した誘導棒の点灯スイッチが黒ではなく青かったのだ。


 危機を乗り越えた冴木とアルバはようやくこの世界の誘導にも慣れて悠々と誘導をしている。
 そこに知らせが入る。

 
「冴木さんっっ!!」

 タケヤマの叫び声が響き渡る。
 冴木はすぐに声がした後ろを振り向く。
 工事帯の中に停められたトラックの横を通り小柄なゴブリン、タケヤマが走ってくる。

「どうしたんですそんな慌てて」

「いや、実はなアクシデントがな」


 時は十分ほど前。
 タケヤマは自らユンボに乗り、砂を取り穴を埋めていた。

「社長!! あれ!! なんだっけ、あれ!!」

「なんだ。どうしたゴブロー」

「オラのスコップがないんだべさ」

「お前、まさか穴の中じゃないだろうな……?」

「多分そうだべさ、探しても見つからんだべ」

 ゴブローは鼻水を鼻から垂らしながらそう言う。

「ったく……お前ら1回掘り返すぞ」

 タケヤマは今、砂を埋めたばかりの穴からその砂を再び掘り返す作業へ。



「ということなんだ……だから一時間ぐらい遅れる」

「なるほど、まあそれくらいなら大丈夫ですよ」

 冴木は真正面の車を相手しながらタケヤマと会話を続けた。


「すまんな。大変だとは思うがよろしく頼むぞ……」

 タケヤマはそれだけを言い残すとユンボへと戻っていく。

 時刻は14時。

 冴木はさらなる試練へと挑むことになる。









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