第6話
文字数 3,047文字
中立コロニーのペデスタルに巡洋艦コモンウェルスが入港を果たす前に、実は一つの
政府高官を乗せたプライベートシャトル (……しかしなんだって謎の軍隊による侵攻が取り沙汰される中、政府高官が勝手に動き回れたりするんだ)が
──恐るべきご都合主義などと言ってはいけない……(ry
賢明なる読者諸氏にはお判りのとおり、このあざとい
小競合いの末にリオが1機のRAを撃破するとA-Bの襲撃隊は後退していった。
その後、シャトルはチームに護衛されコモンウェルスに収容される。
コモンウェルスの格納庫が与圧され衆目の集まったシャトルの乗降ハッチから姿を現したのは、すこぶるつきの美女である。
そして、その彼女を見た途端にRAのコクピットに伸びた
「お姉さま……‼」
格納庫内の視線と言う視線が、ラウラと美女との間を行き来した…──。
*
〝謎空間〟…──。
浮かない顔のリオがもっと浮かない
その視線に、ラウラが無理くりな微笑を返している。
そんな二人の間で俺は、いきなり降って湧い出た資料に目を通していた。
──フェリシア・コンテスティ。
父は連邦政府首相補佐官のクリストバル・コンテスティ。
写真が添付されていた。
少女から大人の女性へと変わってゆく年頃の貌は確かに美しい作画で、いまのラウラでは太刀打ちできそうにない……が、言われてみれば確かにラウラと似ていなくもなかった。勝気な目なんかとくに。……気は強そうだ。
すでに大学 (米州東部の
才色兼備で家柄に恥じぬ気概を持つ出来の良い姉。…──あの気の強いラウラが気後れするほどに。
リオが、ヤサグレモードに入ったときの口調になって言った。
「──…連邦政府高官の娘だって? また随分と古典的な設定を隠してくれてたもんだね」
その嫌味な感じに、ラウラが声をあげる。
「そんなん知らないよ! あたしだって、
もはや条件反射だな。
「ほー、ほう? そーですか」
リオはいよいよ意固地な表情になって返す。「──そんな入り組んだ背景なんか持ってたら、主人公の僕の立場がなくなっちゃうじゃないか。そんなことも気付けないから、君は素人なんだ」
「ちっさいおとこ」
ラウラが溜息とともにやり返す。「──いきなりコンプレックス持たされる羽目になった女の子の心情とか思いやることはできないわけ?」
「おんなのこ⁉ どこ? どこにいるの、そんな殊勝なキャラ……ん?ん?」
「こ……のおとこは……っ」 ラウラは両の拳を胸元で握り締めリオを見返す。(〝キーッ〟)
ティーンエイジな二人 (いまどきこんなんいないだろうが……)の遣り取りを聞き流しながら、俺は考えている。
いまラウラが〝コンプレックス〟と言ったが、多分それが今回の
つまりはこういう事だ。
第2章の執筆にあたり、作者がファンレター (便宜上こう表現させてもらう)でこう指摘された。
〝スペースオペラならば、避けては通れないのが主人公の家族背景〟
ほぼ不意打ちとなったその指摘に、
〝いやあ、ちゃんと考えているよ!そんなことは基本中の基本じゃないかー〟 と、取り繕わざる得なかった(誰に?)作者の脳裏には、こんな設定が過ぎった。
政府高官を肉親に持ちながら体制に疑問を持っている存在。
家族の中で浮いた存在であること、期待に応えることのできない自分に強いコンプレックスを抱いている若い魂…──。
普通なら家族背景からくるコンプレックスに苦しむのは主人公の役回りだ。
それをせずに〝ヒロイン候補〟のラウラにそのお鉢を回したということは、リオの家族背景に踏み込まない、もしくはそれが出来ない設定が既に在るのだろう……。
が、せっかくの読者の指摘はスルーしたくない。
なら……主人公で描けなければヒロインで描いてしまえ! と……。
──安易だ……(溜息)。
が、ともかく主人公の側にも何らかの事情が設定されているのなら…──
「──いい加減に幼稚園児のようなじゃれ合い方はやめなさい!」 〝謎空間〟に
その声に、取っ組み合って転げ回っていた二人が動きを止めた。
二人の見上げた視線を受け止めた俺は、溜息を吐くばかりだった。
*
中立コロニー ペデスタルの港湾エリア。
投錨した巡洋艦コモンウェルスは、収容していたヘクセンハウスの民間人を下船させると、補給と整備に入った。
プライベートシャトルの高官たちも地元の自治体が手配した車輛に迎えられコンテスティ姉妹もここで別れることとなったが、別れ際の姉フェリシアの言葉が、ラウラの心を曇らせた。
乗組員には半舷上陸が許可され、俺たちRAパイロットも自由な時間が与えられたわけだが、姉と別れた後もずっと口数が少なくなったままのラウラが気になる様子のリオ (コイツも大概中坊だ)の送ってくる
*
ペデスタルは宇宙開発の黎明期に建造された古いコロニーで、その市街地は中々に趣きのある街並みだった。
そう、
ペデスタルはとくに東欧の街並みが再現された落ち着いた街である。
港湾エリアから市街のある
そんな彼女に調子が狂ったのか、リオはラウラへの対応を上司役 (こういう面倒な場合にだけ素直になりやがる……)の俺に〝任せました!〟とばかりに、歩調を緩めて後ろをついて歩いている。
仕方ないので (……それが俺の〝役割〟なのだから)、俺は頃合いを見計らってラウラに訊いた。
「どうした? お姉さんに何を言われた?」
彼女は少し間をおいてから、小さく応えた。
「〝家を捨てて自分の好きなように生きる道を選んだのだから、そこから逃げ出すようなことのないように〟……
〝せめて家名を汚すことのないように〟
って、言われました。
…──あたし、軍人になること、反対されてたみたいです」
「…………」
それはそうだろう……と、俺は思う。
この世界の軍人とは、大方が社会から転落してしまわないために〝生きる方便〟として軍人になったような手合いが大半だ。概して何か志があってここにいるわけじゃない。
かくいう俺もその口だ。──月に住む両親からは、常に〝軍に進む道しか用意してやれなかった〟と詫びられている……。
やめよう……。
そういうことを考えても、あまり建設的なことには繋がらない。
だから俺はこう言った。
「生きる道、生きる世界ってのは人それぞれだ。意味は自分でみつけりゃいい。
オマエはここでリオネルや俺と出会った。そこに何かを見出せば、お姉さんや家からただ逃げてきただけ、ということにはならないんじゃないかね」
自分でも歯の浮くセリフだ……。
この場合、ただ一つ、隣で頷いたラウラの表情が真剣だったことが救いだ。