第15話

文字数 3,423文字


 ヘクセンハウスを巡る戦いは、緒戦から転機(ターニングポイント)に入るまでは一進一退といったところであった。

 (アルメ)-(ブランシェ)とそのシンパの諸隊は、防御陣に敵を引き込むのではなく、積極的な連邦艦艇への逆攻撃による行動の牽制を優先し、その持てるRA戦力を出し惜しみしなかった。
 作戦行動半径の大きい攻撃機的な性格の機体(RA)の多くを〝対艦兵装〟であるA装備で出撃させている。

 その中にミレイア・ダナの乗るRA-X15P(プロセルピナ)の姿があった。
 メレディスは、この長距離侵攻任務向けに開発された重RAを邀撃任務に用いる、という愚挙をしていない。
 そのメレディスの意を受けたミレイアは、プロセルピナの性能を遺憾なく発揮してみせた。
 プロセルピナの初の実戦は、当に〝圧巻〟であった……。
 単騎でヘクセンハウスの針路前方に展開しつつあった連邦軍の主力と思われる戦艦群に飛び込むと、その高い運動性能と火力で次々に主力艦を撃破していき、最終的に8隻の大型戦艦からなる主隊を退けている。
 他のA-B諸隊のRAも健闘をし、結果、少なくとも戦艦、巡洋艦といった艦隊の主力はヘクセンハウスに容易に近付くことができていない。
 連邦艦隊は、コロニーを遠巻きに包囲しつつも、軌道変更を制御する工兵隊を上陸させる目処が立たないでいた。

 そんな中、コモンウェルス他2隻の巡洋艦を進発したRA隊の第1波は、リオネル(リオ)RA-X13(ディース・パテル)を先頭にA-Bの布く2重の要撃網の正面を突破、遂には本隊に肉薄するところまで進出しようとしていた。

 そこに立ちはだかったのが、装甲を純白に塗られたRAB-08(シュヴァリエ)を駆るホレイシオ・メレディスと、彼に率いられた4機のシュヴァリエである。


  *

 メレディスの駆る白いシュヴァリエが、両肩のスラスター・ポッドによる最大加速でリオネルのディース・パテルの鋭い突っ込みからのリニアカノンの一撃──形成された熱波(プラズマ)弾…──を躱す。
 ディース・パテルが、そのシュヴァリエの電光の動きを追う。
 シュヴァリエもまたスラスター・ポッドを吹かして加速した後に反転し、光線剣での反撃に転じる。
 二機のRAが振るう光線剣の軌跡が激突した。

「…──やはりサーベルのパワーでは勝てない……かっ」
 2基のジェネレータを持つ重RA(ディース・パテル)が振るう大出力の光条の刃が自ら(シュヴァリエ)の光剣を押し切ろうという寸前に、メレディスは機体に高機動性を発揮させて後方に退き距離を取った。
 退き際、ディース・パテルの次の動きを牽制するため、背面のコンテナランチャーから6発のミサイルを全弾発射する。ミサイルには2発ずつ、左右上からディース・パテルを包み込むような軌跡を描かせた。

「逃がすか…──っ‼」
 追い縋るディース・パテルのリオは、それを頭部近接火器(バルカン)を手動で操っての正確な点射(バースト)で排除したのだが、メレディスは、それで生じた隙を見逃さなかった。

「フッ……目が良いのは判っているよ…──」
 メレディスは、近接火器(バルカン)に墜とされたミサイルの火球が消えぬうちに、機体(シュヴァリエ)を真正面からディース・パテルにぶつけるようにした。
 半瞬、対応の後れたディース・パテルの内懐に、シュヴァリエの畳まれた(ひじ)が滑り込む。

「──…! しま……っ」

 対応の遅れたディース・パテルの左腕が、肘の関節部分から千切れ飛ぶ。
 それは、圧倒的な経験の差に裏付けられた〝自信〟の成せる技であった。

 ──…くっ……。

 完全に気圧されたリオは、ここで斬られると恐怖し覚悟もしたが、何とか機体を立て直す……。
 それができたのは、白いシュヴァリエがそれ以上踏み込んできて(とど)めを刺すことをしなかったからだ。

 メレディスは、コンテスティ家の長女を通じて連邦の側の〝国家の子供(ナショナル・チルドレン)〟の手に渡るよう手配した重RAに、目論見の通りにリオネル・アズナヴール──ペデスタルの商業施設で出会った彼…──が乗っていることを確信するや、戦場を放棄し速やかに離脱するという行動を取った。

 ──…共倒れというわけにいくまい……。

 先ほどは経験であしらうことができたが、やはりあの少年とディース・パテルは危険であるとの認識を得た。下手をすれば怪我をさせられかねない。……それに彼には、やってもらわねばならない役割りがあった。リオネル・アズナヴールには、A-Bの主隊を〝討って〟もらわねばならない。

「…──ミレイア……早く来てくれよ」
 知らずメレディスの口から、少女の名が洩れた。


  *

「この本陣にまで侵入を許すとは……っ」
「敵RA1つ、反応、消えてません!」
「メレディス隊はどうしたっ?」
「それが……空域を離脱する模様…──」
「──…なに⁉」

 メレディスとその配下が最終防衛線(ライン)を放棄したことで旗艦アミラル・デュプレの艦橋は恐慌に陥ることとなった。
 敵の重RA(RA-X13)が旗艦の間近で全く拘束のない(フリーの)状態にある……。

 何が起きているのか把握できないでいる艦橋の面々の中で、艦長だけは冷静さを保っていた。
「回避運動、始め! 対空砲火!」

 指示を出す艦長の隣で、(アルメ)-(ブランシェ)の首魁たるイニャーツィオ・カッペッリ大佐は、ホレイシオ・メレディスに嵌められたことに思い至っていない。

  *

 〝斬られる〟と覚悟までしたリオだったが、退避に転じたメレディス機の背面スラスターの光跡を見送ったのは、わずか半瞬ほどのことだった。数舜の後には、機体が対空火器の火器管制レーダーに捉えられたことを知覚していた。

 ──あんなところに宇宙船……A-Bの戦艦かっ⁉

 周囲に弾幕が形成される前に、リオの身体は動いていた。
 ディース・パテルの残った右腕にのリニアカノンを持たせると、その長銃身を肩のマニピュレーター付きサブアームで支え (こうすることでディース・パテルは片腕でも重火器を扱うことができるのだ)照準をA-Bの戦艦アミラル・デュプレに定める。

 リオは、迷わずに引き金(トリガー)を引いた。


  *

 コクピットの統合情報表示機器に表示させた戦術マップから、アミラル・デュプレの標示が消えたのを確認したメレディスは、口元に露悪的な微笑を浮かべた。
 そして機を、慣性移動中のコロニー〝ヘクセンハウス〟の内部へと向ける。
 その光跡が衆目を集めるものとなるよう〝物語への配慮〟は忘れない。……如才の無い男である……。

 ともあれ、ようやく舞台は整ったのだ…──。


  *

 で、こんな戦闘の最中にあって(なお)、やはり〝謎空間〟……。

 今回、あんなこと(……宿敵(メレディス)の策謀、A-Bの内幕)やこんなこと(……宿敵(メレディス)との一騎打ち)やらがあって、出番をバッサリとカットされた俺とラウラである。

 〝謎空間〟の床 (?)の上に膝を抱えているラウラが、顔も向けずに気の抜けた声だけで言ってくる。

「中ー尉ー…──なーんか、やたらバタバタしてますよねー……」
「まー、〝最終回〟だからな……」

 俺は、当り障りのない声音になって応えた。
 ──…正確には〝最終回○話前〟……つまり最もフラグが立ち、()つ回収されるという恐怖の時間枠……。
 俺も彼女(ラウラ)も、フラグらしいフラグに遭遇することなく切り抜けられたのだから、まずは上出来だったと言える。桑原々々。

 しかしラウラは納得できてはいないようだ。

「こんなんでいーんですかね~? 展開とか描写が〝雑〟過ぎてもう、あらすじの合い間にせりふ、になっちゃってますよ~」

 非難がましい声で言わないで欲しい……。
 …………。
 仕方ない……。

「……いーんだよ、それで…──。
 ミリタリー・ロボットアニメ調ラノベの最終回なんて戦闘シーンばかりで、戦闘シーンなんて読み飛ばされるものなんだから」

  (※ 意見には個人差があります……。)

 俺のその言葉にラウラは口を尖らせるが、結局何も言いはしなかった。
 でも、言いたそうだ。……だから訊いてやる。

「──…不服か?」
「だって……あたしだって、リオの隣で戦いたかった……です」

 そんなことを言うラウラのKYさを〝可愛い娘〟だと思わないでもない。
 だがこの娘は理解して(わかって)いない。

 もうすでにリオの戦闘力が彼女のそれを大きく上回っていて、隣に居ても足手まといにしかならないだろうことに……。
 このタイミングでそんなことを言い出したりすれば、死神がフラグを持って寄ってくることに……。
 そして……、
 出撃の前に、そんなこの娘のことを真剣に案じているのを隠せないリオに、俺が彼女を護るよう頼まれているということに…──。


 だから俺は、この戦場で、この娘に〝決定的な〟フラグが立たぬよう見守っているのだ。
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