第5話
文字数 2,331文字
崩壊したスペースコロニー〝ヘクセンハウス〟を脱出した連邦宇宙軍強襲巡洋艦コモンウェルスは、地球連邦からの分離独立を唱え武装蜂起した
そこでヘクセンハウスで収容した民間人を受け入れてもらうためだ。
初の実戦を潜り抜けたという艦内はようやく落ち着きを取り戻し、正式に俺の指揮下に入ったリオ(リオネルのリオ、な)は、暇さえあればRAデッキに顔を出すようになっている。
それはつまり、覚悟を決めた、という線で動いているんだろう。
もう一人、ラウラの方も、いろいろなものを引きずる様なことはなく、至って普通に振舞っている。元々ガサツ…──(ドス!)……うぅ……。
*
ラウラはRAデッキに飛び込むや首を振って周囲を見渡した。
リオは
顔を上げたリオの視線と、ラウラの勝気なそれが絡む。リオは気後れした様子で手を伸ばした。
「食事……ちゃんと取りなさいよ」
「…………」
しばし、どんな顔をしたらいいのか悩むふうだったリオだったが、それでも〝感じのいい〟声になって応えた。「──ありがとう。……後で食べるよ」
ラウラは、そうして彼が手に取ったチューブの端を放さなかった。
「…………」
「…………」
──どうやら彼女としては、〝喧嘩を売っている〟という意思表明らしい。
それには〝気付けなかった〟という態のリオが怪訝な表情になって見返すと、ラウラはようやくチューブの端を放し、踵を返してその場を離れていく。
無重力の
「この前あんたに助けられたのは、たまたまなんだからね。自分がまともに訓練を受けてない素人だってこと、
*
…──と、まぁ目下の所のラウラと
なるほど……。
〝民間人が戦場に立つことに苛立ちを募らせるプロフェッショナルな年上の女性〟……という線の役造りなわけか……。
1章の後、しつこいくらいに〝生年月日〟──彼女はリオより1ヶ月と2週間、早く生まれている…──の設定にわかりやすく食いついたからなー。
だが残念ながらそれは成功していないよ。
どう見ても、〝お姉さんぶりたい幼馴染が背伸びしている〟という感じにしかなってない。
そもそも
どうやら彼女の努力は、何らの実を結んでないようだ。まる。
それはさておき…──。
ラウラの姿が消えてから、俺はリオの方へと無重力の
彼の傍らで手摺に掴まって制動すると、小さく声を掛ける。
「おい…──」
「なんです……」
リオは作業の手を緩めるでなく面倒そうに応えた。
その態度に面白くなくなった俺は、本題に入る前にちょっと揶揄ってやることにした──。
「いい雰囲気になってきてるじゃないか……色男」
「…………」 リオは手を止めた。
「何を見てたんですか? 主人公にヘンな対抗意識を燃やす、憐れなモブの一人ですよ、アレじゃ……。おかしなフラグが立たなきゃいいですけどね」
「ほー、そうかね? 大きな声じゃ言えないが、あの
俺がそう言うと、リオは慌ててその手のチューブのパッケージに目を遣った。
──それはチョコレートケーキ味だった。
そんな様子にニヤつく俺 (これも〝役割〟だ)に、微かにリオは頬を赤らめた。……コイツも大概中坊並だ。
「……リ、リサーチって、いったい誰にですか?」
「──…俺」
途端、リオは複雑な
これで手打ちにすることにした俺はようやく本題に入ることにする。
「で……そろそろ〝アレ〟だろ? いや〝あっち〟の方かも知れんが……」
リオが面倒そうな目線を再び返して言ってきた。
「……でしょうね」
露骨に〝腰が引けている〟感じだ。
「〝準備〟はできてるんだろうな?」
「ええ、まぁ……」
リオは憂鬱な
「なんだどうした? 〝アレ〟の方はともかく〝あっち〟の方は完全に役得じゃないか。え?」
「…………」
だがもうそれ以上は乗ってこない主人公に、俺は肩を竦めてこの場を退散することにした。
主人公だけが感じることになる
そんなものを抱える主人公という役割を、俺は羨ましいとは思わない。
*
さて、この章では軍艦の艦内を離れ、中立コロニーという〝街〟が舞台となる。
そこで描かれるテーマは2つ。
その2つの何れにせよ、街が舞台とあらばそれはつまり〝出会い〟である。
クリス中尉とリオの言うところの〝アレ〟と〝あっち〟とは──
〝アレ〟とは
〝あっち〟とはヒロインとの馴れ初めのことを言っている。
そう、それは〝運命〟だから。
そしてこの出会いが物語を動かすのだ。 ……〝運命〟だからね。