第1話
文字数 3,143文字
チカチカと光が明滅する。
三日月形の光芒
スペースコロニーの外、宇宙空間での爆発。
コロニーの巨大な窓の内側。
雲の切れ間の中、きれいに編隊を組んだ人型の機動兵器が、
つい今し方まで編隊のあったその空間を、目標を失った
ミサイルは、コロニー内壁の人工の地面に墜ちて四散した。
振動が人工の大地を伝う……。
*
「所属不明機なんだな?」
『はい。
「了解した。俺は給弾を完了し次第、直接あがる」
『頼みます』
俺はコクピットの通話モニター越しに
コクピットのメインモニターには、哨戒機から司令部経由で送られてきた交戦中の〝所属不明機〟の映像が
その見慣れぬ機影に目を凝らす暇もなく、小窓の映像はすぐにブラックアウトしてしまった。
──これは……間違いなく〝いつものアレ〟だ。
俺は、まだ閉じていないコクピット前面の装甲ハッチの外で忙しく立ち回っている整備員へ声を張り上げる。
「C装備でいくぞっ! コイツは演習じゃない‼」
そうやって傍目に動揺を演じてみせながらも俺は、内心では落ち着き払って愛機の発進の手順を進めていく…──。
*
俺の名前はクリストファー・レイノルズ。
連邦宇宙軍の中尉で〝若手の一番手〟の機動兵器パイロットだ。
この世界の〝仮想敵も無いような巨大な軍事組織〟の中にあって、ようやくタマゴからヒヨコ扱いに格上げされたばかりの正規士官……軍人である。
が、大きな声では言えないコトだが、それは俺の〝機能〟=〝役割〟を
我ながら何やら〝奥歯にモノが挟まった〟様な物言いだが、詳細は追々説明していくことにする。
*
先ずは俺は、愛機RA-04〝ウォリアー〟を
なぜ機動兵器──
誰だって球体に大砲を乗っけていたり、多脚で地面を
人型は男のロマンだ。
そんな想いはおくびにも出さず、俺は管制に対する必要な手順を一切無視して
さすがは〝機動兵器〟……
次の瞬間、上空から先に哨戒機の送ってきた映像にあった〝所属不明機〟と同型の
だが俺は慌てることなく機体を軽く捻って躱し、右手に装備されたリニアガンで撃破する。
まったく、
俺は表情も変えずペダルを踏み込み、そのまま機体をコロニーの中心部へと上昇させる。
円筒形のコロニー内部の中空空間まで上がってみると、もう既に視界の中のあちこちで戦闘と思しき発光が見て取れた。
──よくもこう毎度毎度……同じ
憮然となりがちな俺が周囲で右往左往する友軍の動きを確認していると、コクピット内に
途端に若い女の感情的な表情と声とが通話機を通して狭いコクピットに届けられた。
『──クリス中尉……コロニー中、敵だらけです! コイツら、いったい何なんです⁉』
なぜ軍隊組織の中でファーストネームに階級を付けて呼ぶのか、この際、考えてはいけない。
ともかく女は、その勝気な造りの顔に不安と動揺と微かな怒りとを浮べて訊いてきた。やはり、なぜヘルメット越しにパイロットの顔や表情が判ってしまうかはおいておけ……。
この勝気な声の主はラウラ・コンテスティ少尉という。
直近で士官学校を卒業したばかりの新米士官……ということになっている。
小画面に映る17歳──なぜ正規の士官が(ry…──の
若い、若すぎるよな……。
俺は正直不思議に思っているが、しかしそれを
そういう俺も20歳そこそこであることはさて置き、だ。
さて、そろそろ頃合いなんだが……。
俺がそんなふうに頃合いを計っていると、コクピットに警報音が鳴った。
──〝きた〟。
俺が〝最初のイベント〟がめでたく発生することに人知れず胸を撫で下ろしていると、ラウラ機に〝謎の軍隊〟のRAが光線剣で斬りかかっていくのをモニターが捉えた。
『きゃああぁ~~~っ!』
黄色い声がレシーバの耳を打つ。
──中々にいい
とまれ、これで〝イベントの発生〟は確定した。
俺は愛機に無駄に派手な機動をさせて、ラウラ機に襲いかかる〝謎の軍隊のRA〟を一撃で退けると、通話モニタのラウラに叫んだ。
「ラウラ少尉。俺から離れるなよ!」
『は、はい!』
実は先の彼女の問いには何も応えていないのだが、俺は精一杯に格好を付けて言うや、レバーを引いて〝ウォリアー〟を加速させる。
早くシーンを次の展開まで進めねばならない…──。
行き先については考えない。
こんなこと言ってしまえばお終いだが、考える必要はない。勝手に状況はついてくる。
ともかく話を進める。展開がダレてしまうのは拙いのだ。
…──そして〝この物語〟は、もう一人の主体でも進められることになる。
*
シーンは代わり、〝謎の軍隊〟の侵略を受け混乱するコロニーの中、逃げ惑う人々の中に少年がいる。
周囲の登場人物から浮いている丁寧な作画の彼は、恐らく軍かその関連企業の関係者の息子で……(ry
だがまあ、そんなことはこの時点ではどうでもよく、ともかくフツーの少年ではない。
そして彼はそれを証明するため、あり得ない事態に直面し、あり得ない行動をするハズである……。
ほら、言ってる傍から連邦軍のRAが墜ちてきて、そのコクピットハッチが撥ね上がった。
視線の先……RAのコクピットからは、正規の軍事教育を受けているはずのパイロットが悲鳴を上げて飛び出してくる。そしてまだ無傷の乗機をその場に置き、場から
彼は躊躇なくRAに近寄ると、わざとらしく躊躇うふうを装ってから、結局はコクピットに納まるのだ。
そうしてからコクピット内に一通り視線を巡らせた後、彼は思慮深そうな顔で静かに呟くように、言う。
「こいつ……まだ動くぞ……」
(──そこ、絶句するな! 失笑も無しだっ)
コホン。
そう……彼こそが〝この物語〟の主人公、リオネル・アズナヴール。
17歳のカレッジスクールの生徒で(ry …──〝最終兵器彼氏〟である。
そしてロボット・スぺオペモノには必ずといっていいほど、こんな異常な事態を容認し〝世間の常識〟と〝世界観の無理〟を埋め合わせるための緩衝材としての軍所属の人間が登場する。
それが俺……クリストファー・レイノルズ連邦宇宙軍中尉の役どころだ。
シーンを戻そう。
リオネル少年は、最初こそ人型機動兵器RAをよろめかせてみせたりするが、数秒の後には完璧な操作で全高18mの人型機動兵器を操れるようになり、機体を勢いよく浮き上がらせる。
この先の展開は、たまたまそこの上空を飛んでいた俺たちは彼に出会い、折よく接敵した〝謎の軍隊〟のRAに不意を突かれる形で後れを取ったラウラの〝ウォリアー〟を、彼が救ってみせる、といった塩梅だ…──。
『てえぇぇ~~~~いっ』
──え⁉
……黄色い声?
何か想定外の流れで進行していないか?