第8話
文字数 3,667文字
さて、引き続いての〝謎空間〟…──。
元々
「へ……っ 選りにも選って、強化人間ですよ、今どき…… フッ……
そんなんじゃ2クールのTV放映じゃなくてOVAかWEBアニメじゃないですか(ry
なんだかヒロイン候補のラウラの方がノーブル感出しちゃってるし(ry
これアレですか? 作者(もってぃ)お得意のダブル主人公……今どきそんなん流行んない、っつーに……
そもそも難しいことやろうとして話めんどくさくしてどーするん(ry
それに〝アレ〟ですよ、アレ……見ました?中尉
一々
……それに比べて僕は……選りにも選って〝強化人間〟(ry」
俺は黙って聞いている。
もう2ループ目だ。…──こりゃまたずいぶん根が深いご様子で。
「〝強化人間〟ですよっ?」
「──あーわかった!わかった‼」
さすがに3ループ目に突入する前に、俺は声を上げた。ともかく話題を転じにかかる。
「同情する‼ 同情するよ! あれは確かに酷かった。
でもな、〝あっち〟の方だって、あったんだろ? ほら、あの
「…………」
リオが口を噤んだ。
俺は、ここぞとばかりに突っ込む。
「何か会話なり交感なり、あったんだろ?」
「ありましたよ……確かに……」
「そうか、あったか! よかった……!」
もはや勢いだけで反応している俺がいた。「──で、なんだって?」
「…………」
リオが、どうしたものかと視線を外す。
「何だよ!勿体ぶらずに言っちゃえよ」
俺はいま、いったいどんなキャラになってるんだろうか……。
リオが何とも言えないような
「こんな会話がありました…──」
せっかくなので回想ふうに再現してみようか…──
*
シーンは巻き戻って、
当初リオは周囲の乱痴気騒ぎからは距離を置いていた。なるべく事態に首を突っ込むようなことはせず、静観に努めている。
事態が急変したのは、大立ち回りの
それと気づいた
当然それは、隙が生れる動きだ。
それを見て取った特殊部隊が、やにわに手にした
そのときにはもう、リオの身体は動いている。──半自動なのだ。便利だね。
リオは手近なテーブルを倒して即席の
なぜこのようなところで特殊部隊が発砲に及ぶのかという問題はさておき……、女の子と
一瞬、狭い画面で二人の視線が絡む。……リオと
次の瞬間、リオは手早く上着を脱ぎ、それをテーブルの陰から放って特殊部隊員の注意を引いた。そして自身はテーブルの横から低い姿勢で飛び出し、相手の足を払って排除する。
──オマエも大概、派手に立ち回ってるよ……。
その後、別の一隊に取り囲まれそうになると、二人は長テーブルに掛かっていたクロスを勢いよく引っ張って新手の特殊部隊員に被せると、ものすごい (そういう表現がこの場合は適当と思う)跳躍力を発揮して画面から消え、その場を逃げ
そして次のシーン──
一息つくかつかないかというタイミングで
「あなた、私と同じね……?」
その台詞にリオが警戒するように少女を見返すと、騎乗のホレイシオ・メレディスが現れる。だがリオの頭の中には、少女の放った言葉がリフレインしているのだった。
(──…私と同じね……私と同じね……同じね……)
*
〝謎空間〟に戻ってきたが、俺は難しい表情にならざるを得なかった。
「これは、その……やはり…フラグ?」
「ですよ、ねえ‼」
リオは俺を指差して、半ばヤケクソな感の相槌を打って返してきた。目が笑ってねーよ……。
まぁ、無理もないか……。
混乱の広がりゆくこの作中世界で、戦いのためだけに生み出された二つの存在が出逢う。
互いの特殊な力と孤独とを感じ合うも、いまは只、幕の上がったばかりの新しき時代に流されるばかり。
互いに、自身の運命すら判りはしない存在──。
もちろんこれは、〝悲恋〟系に繋がっていく可能性を捨てられないわけだが……。
一応俺は確認をした。
「──名前は聞いてるのか?」
「いえ…… まだ聞いてはいません」
そうか……。いずれ
俺は頭を掻いた。
まあ、ということは……〝生き別れ〟の兄妹 (姉弟の可能性もあり得るが)の線だって消えないわけだ。
何れにせよ、当事者のリオにとっては不幸の物語が紡ぎ出される根源なわけで、決してありがたい設定ではない。安易に同情もできなかった。
だが、ここでアレコレ考えたところで始まらない。
まだ〝物語〟は始まったばかりだ。(……いや、もう中盤に差し掛かるのか?)
俺は浮かない表情のリオを立たせてやると、その肩を抱いて〝謎空間〟から連れ出すことにした。
*
〝謎空間〟の扉の向こう側、欧州の小都市を模したペデスタルの趣きある市街は、程よく夕暮れ刻の時間となっていた。
そんな時間帯の運河 (コロニーの採光窓の通称だ)を背景に、柔らかな光に包まれて佇む人影があった。
その
ナイスなタイミングだ。このコは本当に勘所がある。
俺は、後は彼女に任せることにして、そっとその場から消えることにした。
*
夕暮れの運河を望むテラスの手摺に並んで立つ二人。
リオも、ラウラも、ただ黙ってその場を流れていく風を感じている。
二人を隔てる微妙な距離感は、この物語の行く末を暗示しているのだろうか。
こういうときには結局、ちらちらとでも相手の様子を窺うのは男の方で、しばらくしてからリオは観念したふうに口を開いた。
「──お姉さんとのこと、まだ気にしてる?」
その問いの言葉に、ラウラは視線をリオに向けた。
少し考えた末に、ことさらにサバサバとした感を出すようにした彼女が訊き返す。
「家族のこと?」
リオは小さく肯くと、黙って先を促した。
「あたしの家庭は複雑で、あたしはまだ若くて答えを見つけられていない…──」
そう言って目だけでリオに肯いてみせると、口元で微笑んでみせる。何故だかリオは、ドギマギとしてしまった。
そんなリオから〝ツと〟視線を外してラウラは言った。
「──でも、それがあたしの家族だもの。それもあたしに課せられた役割のうち、でしょ?」
それで困ったような表情になったリオに、彼女は問いを重ねた。
「ね……あなた、家族は?」
「…………」
リオはというと、どう答えたものかと逡巡したようであったが、結局、彼女から顔を背けるように運河へと目線を戻し、つい先ほど知った事実を告げた。
あとでリオが説明したところでは…──〝何というか……彼女に嘘を言うのを躊躇う自分がいた〟そうだ……。
「僕に……家族はない」
彼女がその言葉の意味を自分の想像の範疇で理解するよりも先に、リオは続けた。
「…──僕は〝
彼女は、小さく頷いただけで、何も言わなかった。
リオは、彼女が向ける目の中に哀れみや嫌悪をといった色が浮かばなかったことを感謝している。
ただ、そう感謝しつつも、次のように訊いてしまう自分をコントロールすることはできなかった。
「──キミは……僕が気持ち悪くはないのか……?」
考えるまでもない、と言う感じにラウラが応じる。
「気持ち悪くなんてないよ。あなたが〝
「何故だい…──」
自分に向けられたラウラの目線を手繰るように、リオが面を上げて問うた。それから、動じないラウラに想いを言い募る。
「僕は、戦うためだけに造られた、そういう存在……兵器だよ‼」
ラウラの目線は、真っ直ぐにリオの方を向いている。
静かに口を開いた。
「でも、それはあなたが決めるんだよね?」 その声は優しかった。「──戦場で引き金を引くことに迷いのある
言葉を失ってしまったリオだったが、心の中ではこう言っていたそうだ。
──ありがとう、と……
── Act.3 へ つづく