人狼は面白かった

文字数 1,777文字


 エンタテ大会が終わってからは、あっという間に時間は過ぎ、季節は夏を迎えようとしていた。すっかりと大学にも慣れ始めた新入生たちが増えたためか、四月からの華やかだった大学の雰囲気はだんだんと落ち着きを取り戻し、山を切り崩して建てられたこの大学らしい平凡で穏やかな空気が心地よかった。壊滅的な単位数を誇る僕は、三年春季の授業を上限いっぱいまで申請していたため大学一年生のような日々を過ごしていた。テスト期間ほとんど健吾と一緒に過ごし、成績優秀者の生活様式からすべてを吸収しようと試みたのである。浪人時代よりもはるかに単位につながるテストに向けて勉強することに費やした。本来の学生像に戻りつつあった。今までの成績の悪さの理由は、三年目の今、痛感することになった。
「終わったーーー」
 地獄のテスト期間の最終科目が終了し、晴れて僕の夏休みがスタートした。
「お疲れい」
 ポロシャツにチノパンの健吾はやはり父親的な服装がよく似合う。
「あ、師匠お疲れ様です」
「お疲れだな。最後の問題と解けた?」
「モーメント法、でしょうか?」
「お!うん。おっけいおっけい」
あたかも、もうすでに答えを知っているという自信に満ちた彼の顔にはイラっと来たが、成績上位者からのお墨付きは大きかった。
「よかったあ」
一安心付けたところでカバンの中からスマホを取り出しテスト中に電源を落としていたスマホを付けた。「なつやすみだーうーし、今日この後どうしようか」健吾が言った。
「うん、俺も今日なんもないけど、やっさんとかもうひまだよね」
そう僕が言うと大気中だったスマホの電源が入り、画面上にやっさんからのラインのめっせーじが 一挙に上がってきた。「あ、人狼してるって、やっさん」
「いくか」
「健吾さ、さきシェムシェム行っててくんない?俺ちょっと学務寄ってくる」
「おっけい。先行って待ってるなじゃあ」
学務室がある学生センター立ち寄った僕はそのあとやっさんたちが人狼をしているという大学ないのシェムシェムと呼ばれるカフェへ向かった。大学の建築学科の学生が内装を手掛けたそのシェムシェムは大学内のカフェにしてはこぎれいで雰囲気もいいため学生たちから人気のだったが、そうなるとさわがしくはどうしてもなってしまう。
 僕がつくと、健吾もすでにみんなと混ざっていてやっさんのほかに優太とエリカも含め計八にんで人狼を楽しんだ。
「だだーーーん」という音がスマホの人狼アプリで鳴り響いた。
「優太ジャッジメーントゥ」
「またぼくのまけですか」 
「優太分かりやすいもん」
「優太弱いよ!分かりやすいもん」
 エリカとやっさんが手を叩いて笑った。
「もっと腰入れろって、泥棒の始まりだぞ」
「健吾さん、もうそれ、やめてください」
「お前なぁ、人狼下手だからカナちゃんも駄目」 
「やめてくださいっ!もうマジでキレますよ!」
「うわー!キレるって!優太がキレる!」
「おいっスコップ隠せ!スコップをーーー!」
「、、、、、、」
 人様の前では決して見せることの出来ない身内でのやりとりは、周りにさえ迷惑をかけなければ、みんなで楽しむ分には良いものではある、と僕はその時思った。
 人狼をやり込み、疲れて果ててみんな休憩をしていると、やっさんが分かりやすくニタニタしながら話し掛けてきた。
「洋平さん、俺、来週、竜斗とUSJ行くんすよね」スマホを片手に持ち、すり寄ってくるようにして彼が言った。
「えっ?いいなー。ハリーポッターの乗るの?」
「それですっ!テスト期間、ハリーポッター全部見直したんすよ俺」
 やっさんらしかった。
「なるほどね。そっか、お土産たのむなっ」
「え?洋平さんも来ないっすか?」
 驚いた顔をして彼は言った。
「あ、ごめん、俺、今日夜行で一回実家戻るわ」
「あー。まじすかっ、分かりました」
「ごめんな」
「しゃーないっす。竜斗とバタービール飲んできますわ。お土産よろしくおねがいしますっ」
 手をひらひらとさせ、何度も首を縦に振って彼は言った。
「おう、楽しんでな。じゃあ、おれそろそろ荷造りとかあるから、行こっかな」
 そう言って席を立ち、みんなにじゃあと言ってそのカフェを後にした。外に出ると、日はだいぶ落ちており、夏だったが、吹いた風が半袖でむき出しになった肌を撫でて、少し寒かった。荷造りと気持ちを少し落ち着かせようと、僕は小走りで家まで帰っていった。
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