1、新勧の始まり

文字数 863文字


 多めに刷ったサークルの宣伝ビラを片手に、ウッドデッキの階段(正門)に並ぶ人の行列を駆け抜けた。オレンジのユニフォームのラガーマンたちが、体格の良い新入生に狙いを絞り、筋肉の話で盛り上がっている。テニスサークルは反対に、可愛い女の子しか声を掛けなかった。落研が、何故か動物の着ぐるみを着て、うまい棒の早食い競争をして新入生からの注目を集める。とある女の子の日記の中からトランプのカードを出現させたマジックサークルのマジシャンが、周りから(特にラクロス部の女子)一斉に顰蹙を浴びている。サッカー部の打ったバトミントンの羽が丁度相撲部の一人の頭の上に乗っかって、一部始終を見ていた人たちだけの間で小惑星(爆笑)が巻き起こっている。髪飾りのように羽をチャーミングに身に付けた彼は、気づかないまま回転する巨大なケバブの肉を削ぎ落とす作業に没頭していた。
 向かいの方で大喜利大会をしていた野球部の司会者が、それを見てアドリブを入れ、「こんなお相撲さんは嫌だ、どんなの?」というお題を出した。回答者達は全員揃って、「ちょんまげの上にバトミントンの羽が乗っている」か、そのイラストをフリップ(画用紙)を出した。場は荒れに荒れた。その司会者は八卦よい残ったどすこいをされ、最終的に両部の主将がそれぞれ出て来てじゃんけんの三本勝負が行われることになった。世紀のこの戦いは二対二という最高のシチュエーションまで上り詰めて行くことになり、次の一手がこの勝敗を分けようとしていた、レフリーと観客達の掛け声が自然と重なり、‘‘さぁーいしょーは”と全体で叫んだその瞬間、学部棟からトランペットの甲高い音色が響き渡り、続いて聞き覚えのあるエレキギターのソロのイントロが風を切り裂く。去年の文化祭で吹奏楽部が披露してくれた、「留年のブルース」が、今年の新歓の幕開けのファンファーレとなって、その始まりの時をその場にいる全員に気付かせてくれた。
 二〇一×年。四月一日。大学はお祭り騒ぎで大変にやかましく何もかもが目まぐるしく移り変わってしまうそんな時期だった。
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