新歓が終わると気は抜けるyone

文字数 1,359文字

 結局、お花見には48人の新入生達が参加して、部員を含めぴったり80人というかなりビックなイベントとなった。当初の予定通り、第一回目のこのお花見のイベントに参加した子はほとんど入部まで進み、約二週間の新歓の成果で個性あふれる顔ぶれが出揃っていたが、少し例年より色合いが濃過ぎる気もしなくもない。上級の僕らも、お花見を健吾不在の元、なんとか力を合わせて成功を収めた後は、あまり力みすぎることもなく、ありのままの振る舞いが徐々に身に付いて行き、本来のらしさが出せるまでになっていた。後輩のいる三年生の気分というものを、思う存分、味わっているような日々がのんびりと続いていた。

 僕と健吾は後輩の安田を連れ、授業終わりの学食に立ち寄っていた。

「結構入りましたね、一年生、馬鹿ばっかで嬉しいっすわ、俺は」

 安田が食堂のお茶の入ったコップを持ち上機嫌にそう言った。バイク好きの安田は、竜斗君という同じくバイク好きの一年を新歓早々に捕まえて、ツーリングセクションをサークル内に作るという野望を早くも達成させたようで、いつにもまして軽快に面白そうにたくさん話しをしてくれた。恰幅の良い体系にさらに大きめのパーカーを着こなせる彼は、僕の一番弟子に当たる間柄の後輩で、学年と絡みの多さからが、師匠といつも呼ばれている。が、彼に敵わない所は数え切れない程たくさんあり、皮肉的な意味合いも含まれていることを恐らく彼は気付いてはいないだろう。緑のキャップ帽を被った彼は、

「なんか、ぼくらと洋平さんの代を足して二で割っ感じっすね」

 と笑ってコップを置いた。

 四月終盤のこの時期の食堂は、新歓期特有の活気のある雰囲気をまだまだ残しており、辺りには僕らと同じようなサークルのメンツで授業終わりに駄弁りに来る連中で溢れ返った。グループ率が圧倒的に高かったので、一人飯の人には少し気の毒だったかもしれない。

「今年は頭おかしい奴たしかに多いわ、新歓イベントでもすでにキャラ立ってる奴いたし。本当新歓担当がバカだとバカがよく釣れる」

 健吾はこの後塾のアルバイトを控えているため、薄手のリクルートスーツをジャケットまで着ている。体型の割にスーツはよく似合っていた。いや、この体型せいで少し貫禄があるのかも知れない、いや為人が貫禄を生むものだろう。いや、健吾に貫禄などあるわけがない。

「楽しいじゃん」

「まあ、でもたくさん入ってくれるのはありがたいっすよね、48人って結構入った方じゃないっすか」

「まあな、でも人が増えるとその分運営がしんどくなる、今年の一年は面倒見るの苦労しそうだし、新歓担当がなんせあれだから」

 健吾が言った。

「でも馬鹿っていいじゃないですか」

 やっさんが際どいがカバーしてくれた。

「でも馬鹿だと話してて疲れるだろ?」

「ぶん殴っていい?」

「お、居たのかごめん」

「あ、洋平さんおはようございます。あ、優太」

 やっさんが手を挙げて優太を招いた。優太は他の友達と来ていて、その子達に何か言って一人だけこっちの席に来た。

「お疲れ様です。もう授業ないんですか?」

「俺と健吾はもう終わった。やっさんは?」

「五限あります、優太、二限のミクロ経済のプリント持ってません?」

 わざとらしい顔をして安田が優太に向けて手を合わせている。

「あ、はい。取っときましたよ」

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