サークルって大変だ

文字数 2,374文字

 部室前の駐車場に戻るとすでに他の部員たちは集合していて、僕ともう一人の新歓担当田中かおりと明日のお花見の確認事項と今日勧誘した新入生達のリストをまとめ、全体で締めの号令を掛けた後そのまま解散させた。
 三年生だけ部室に残り最終のお花見のミーティングを形式上、取り行うことになった。

 文サ棟と呼ばれている僕らの部室はかなり荒れていて、吹奏楽部と共同で使用させてもらっているため、辺りには楽譜や譜面台、古い楽器ケース等が所々に置かれており、僕らのサークルの私物も一部、空いたスペースに置かせてもらっている。

 去年の英語劇で、セット員たちが材料からすべて自分たちの手で作った、「美女と野獣」の舞台セットがそのままインテリアとして活用されて一貫性の一つも見当たらない、カオスな世界がそこには広がっている。
 そのガラクタ達を横に寝かせながら、椅子や物置として新たに活かしつつ、僕ら21人はそれぞれの席に着き腰を下ろした。
「お疲れ様です。今の時点で38人集まってて、もう予定の人数余裕で超えてるんだけど、このまま予約制でもいいかな?」
 新歓のテンションを抑え切れない騒がしい中を制することなくそのまま放った。狭い部室は、21人が入るとパンパンで、ほとんど空きがないむさ苦しい状況になっていたが、建物の中とは思えないほど風がヒューヒュー流れ、温度的にはまあフィフティーフィフティーと言ったところだ。自由に席についた部員達は、自然とその性格やキャラクターに合ったポジションに各々着き、なんとなく同じ種族同士でくっつき合っているように思える。ゲッターズ飯田大先生の五星三心占いのタイプでみると実際はどうなっているのだろうか、今度一度、全員の星を出して検討してみたいという欲求が腹の底から込み上げてきたが、自制してミーティングに集中することにした。

 部長の山岸健吾が、自分で買ってもって来た中古品の一人掛けソファに跨がり、スマートフォンで参加者リストを見つめながら画面に向かって何か小さくぼやいている。声と顔がとにかく大きなすでに腹の出ている二十二才を目前にした彼は、父性的な落ち着きと知性を兼ね備える我らの大黒柱で、典型的な男性型の猪のような男だ。きっと彼は自分の双子座の性質を僕が伝えても目もくれないだろう。こういうタイプの人間には、手相とか、四柱推命のような男性型の力強い占いの方がいいし、とてもではないが紫微斗数や宿曜経の繊細さは理解してくれないだろう。そもそも、占いの話をまともに聞いてくれる彼を想像することさえ困難なのだ。

「でもさ、明日、当日の参加者は絶対に来るでしょう?他のイベントは予約制にするのは全然良いけど、明日はまだ2日目だし、ちょっとやりすぎな気もする」

 副部長の松山愛美は、サークル内のご意見番的存在で、サークルの女性票を唯一牛耳る最大の権力の保持者だ。レディーファーストという言葉を発なくても、周りにいる僕らは勝手に意識が高くなっていると思う。サークルの風紀が乱れないのはひとえに彼女がいるおかげといっても過言ではないだろう、愛美がいると、僕は勝手に自然と背筋が伸びてしまうのだから。

「でも、せめて優先とか、定員決めるくらいはやっとかん?38人だろ?30でも来ればもう十分なのに」

 健吾が愛美に言った。

「定員は50人にして、それまでは当日もおっけいにしちゃえばいいんじゃない?当日、もっと絶対来るし、明日はしょうがないよ、お花見はまだ勝負所じゃないんだし」

 去年の新歓で定員オーバーのトラブルがあり、SNSでこのサークルが叩かれた事があった。今年からグループラインでできるだけ新歓対象は絞ろうという試みだったが、最終的に入ってくれる子は、どうだろう、たしかに今日グループに入ってくれた子はかなり縁は強い気はするが、

「グループライン組は優先?あい姉さん」

 健吾があい姉に尋ねた。

「そそ、今日もう一回ラインで参加するかどうか聞いてみて、来れる子はもう優先確定にしちゃって」

「来ない子いたらどうしよう」

 かおりが愛美に質問した。

「来なかったらそれはいいじゃん、それはそれで、お金掛からずに済んで」

「おっけい、50で行こう」

 健吾がパチンと膝を手で打った。

「じゃ、50人として見積もると、お菓子と飲み物は上級除けばギリギリ間に合うと思う、みんなそれでいい?」

 僕がそう言うと、相方のかおりもうんうんと頷いた。「飯食ってこーい」とタカシとマーシーが立ち上がって叫び出し、新歓のビラで作った紙ヒコーキを健吾の顔に向けて投げ始める。紙ヒコーキが健吾の一人掛けソファの肩掛けに突き刺さり、そのまま力なく床に落下した。健吾は黙ってそれをゴミ箱に捨て、また何事もなく戻って座る。太々しい表情のまま、はしゃぐ二人に全く反応することなく、ハスキーなでかい声で、「はい、じゃあみんな宜しく」とみんなに確認を取った。

「りょうかーい」

 ミーティングが終了した途端、健吾はタカシとマーシーに近寄り、「50人、呼べばいい!50人、呼べばいい!」とうるさく飛び跳ねている二人の頭をバシバシ叩き始めた。三人は折り鶴を至近距離で投げ合っている。

「明日のお花見、集合場所班ごとに違うから確認しといてね、上級生が32人参加だから、二人くらい面倒見てあげてください」

 しっかり者のかおりがそう言って強制的に終了させるとみんなだらだらと帰り支度を始め、ぼちぼち部室を後にして行った。その後もしばらくの間、三人の折り鶴合戦は続いたていが、イベント前日の前夜祭としての効果はあったのかもしれない。健吾と僕はそのまま部室に残り、なんの言葉を発することなく、ただ疲れた体をソファで労り続けた。換気扇の音がうるさかったので切ると、部屋は急にしんと静まり、気付いたら僕は夢のようなものを見ていた。

 

 
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