大学生としての本来の姿

文字数 970文字

 電磁波解析Ⅱと表紙に書かれたノートに何も考えることなく書き写して行く。隣に座っている健吾は、生意気にも眼鏡を掛け、タブレット式のノートパソコンを机の上に構えながら、涼しい顔をして、黒板とノートとタブレットを行ったり来たりしていたが、実際に優秀な人のする手慣れた素早い動作は、僕に惨めさと多少苛立たしさを感じさせ、そう感じてしまう自分にさらなる惨めさと腹立たしさを募らせ、という無限のループと闘いながら必死になって書き写していると、教授の先生がその呪文を一通り書き終え、学籍名簿に目を落としたので、慌てて僕は身を構えた。

「えー、じゃあ、、、、学籍番号176の、、、山岸君かな、いるかな?」

「はい」

 教授に当てられた隣の健吾が手を挙げて返事をした。何故か、僕の方が緊張して来て、成績上位者の彼を心配してしまったが、その心配もほどなく空しく散っていった。

「うん、いるね。じゃ、これから特殊相対性理論に移りますがぁ、えぇーと、、まずは、特殊相対性理論の基本原理を挙げてもらえるかな?」

「あ、はい。相対、、と光速、、です。」

「うん。そうそう。じゃあ◉× ︎・はどうなる?」

「卍卍卍卍卍です。」

「、、、、、、時における、、、、、、、は?」

「☆△◆▽です」

「うん、いいねぇ。ありがとう」

 教授からおっけいをもらい、恐らく全ての質問に完璧に答えた健吾は、何食わぬ顔で再び椅子に掛けた。普段サークルでふざけ倒している彼の分かってはいたが成績上位者な一面を改めて見せ付けられた僕は、しばらく、そのすました横顔をただただ羨望の眼差しで見つめていた。僕があまりにも見すぎていたせいか、彼はその視線に気付き、「なんだよ、分かったか?」と聞いてきたので、「0ですだけ聞き取れた」とだけ答えると、彼はプッと笑い、またパソコンを叩き始めたので、僕も前を向いて、残りの呪文をノートに書き写した。四限の講義が終わると皆そそくさと教室を後にし、あっという間に教室の中にいる人達は消えてしまった。90分間の激闘を終えた自分の右腕を労り、疲れた首を回して大きく伸びをしている所に、隣の健吾が、「洋平今日もう帰る?」と聞いて来たので、バイトの時間まで何もないと答えると、ならエンタテの準備見に行こうと誘われ、僕達は経営棟の空き教室でエンタテの準備に励む後輩達を見に、教室を後にした。

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