勇者ハルモニア

文字数 2,178文字

ま、魔王の、お子さん? フィン君が!?
えぇ、ヒュウさんは十数年前に起こった『人魔大戦』のことをご存じですか?
あ……確か人類が圧倒的に劣勢だったんだけど、勇者ハルモニアが現れて盛り返して行ったんだっけ。僕がまだ物心つく前の話だけど
勇者ハルモニアは、父の呑み仲間でした
魔王と勇者が!?
と、言うかハルモニア様が勇者になる前からの旧知の仲だったんですよ。彼は元々冒険者でして、魔族領にもちょいちょい遊びに来ていたようです。その際に父と意気投合しよく杯を交わすようになったと
ちょちょちょ、待って、僕の勇者様に対するイメージが……
今の先代勇者に対するイメージはとにかく美化されちゃってますからね。でもハーゼ領で伝わってる彼のイメージは、とても気さくで破天荒な豪傑なんですよ?
『人魔大戦』の起こりは一人の女性でした。その女冒険者も相当な手練れで、魔境にソロで篭もってはバッタバッタとマモノをなぎ倒しては修練していたらしいんですが、それを見た父とハルモニア様が同時に惚れてしまったと。最終的にその女性はハルモニア様を選んだのですが、それに怒り狂った父が人間界に侵攻し出して
痴情の縺れで起こった戦争だったの!?
魔族は『欲しい物は力づく』が基本ですから……さすがに責任を感じたハルモニア様は勇者を名乗り、魔女と盗賊と踊り子を連れて魔王ケイオスをギッタンギッタンとシバきに――
シバくって言うな。あの絵本にもなってる最終決戦がそんな真相だったなんて……
説得された父はハルモニア様のアドバイスもあり、種族間の和平と平等の証として3種族それぞれから嫁を娶ることになったんです
で、ハーゼの奥さんとの間に生まれたのがフィン君か
はい。そして姉はヒューマンとの子。魅了のチカラは彼女が一番強く血を引いているんです。やろうと思えば『死を恐れない』最強の軍隊だって組織できる。ぼくは今回、姉がそれを企んでるんじゃないかって不安で魔界を飛び出して来たんです。慌ててたからお金も何も忘れていて、冒険者の手伝いをしてたところでヒュウさんに会ったんです

そうだったんだ……


ん? ちょっと待ってよ、あとの一人は? 3種族から奥さんを娶ったんでしょ、魔族の奥さんの子は? 3兄弟の一人が下剋上狙ってるだなんて、その子にとっても一大事なんじゃないの?

あ、はは、ロード君はなぁ……ちょっとやる気ないっていうか、引きこもりっていうか……
え?
とっ、とにかく! 姉を止めようとしてるのはぼくしか居ないんです。お願いです、最後まで力を貸してくれませんかっ!?
そりゃさ、ホントにそんなことお姉さんが企んでるんだったら僕だって止めなきゃと思うよ。まずは真相を確かめなきゃね
行こう!
はいっ、ありがとうございます!

***


空き屋敷離れ・屋根裏

むぅ、迷ってしまった……


いや違う、この偉大な冒険者であるポティマス・タゴンが迷うはずなどない。最初からこの屋根裏に来るつもりだったのだ

――マジやべーって!
む?
見張り交代にいったら門のところでトマスとアレンのヤツ簀巻きにされて転がってたんだよ! 絶対賊が侵入してるって!
はぁ? マジかよ!
(警備兵の詰め所か、見取り図では屋敷の離れにあったはずだが)
(……離れ?)
(いや、迷ってない。ないったらない)
エリス様がやばい!
おい行くぞお前らっ
(ふむ、ここは一つアレを試してみるか)
***
あらん? なんだか、なつかしい~匂い。うふふ、相変わらず健気ねェ
いいわよフィンちゃん、お姉ちゃんが遊んでア・ゲ・ル

***


空き屋敷・地下牢

だぁぁぁ!!! 開かねーっ!! くっそ、こうなったら限界までバフ積んで――
……
どあっ!? 毒女! お前いつからそこに!?
あなたが鉄格子に向かってイノシシみたいに突撃してるところから
声かけろよ!
ぬかるみで滑って頭から転んだところが、ブッ、くくっ、サイコーだったわ
この……っ
いやだわ、道間違えちゃった
おいおいおい! そのまま行くな! 俺を助けに来たんじゃないのかよっ
どちら様でしたっけ?
……お前ホンっと良い性格してるよな
ふふふ、出してあげてもいいけど、それが人に物を頼む態度かしら?
ぐぬぅ、ここぞとばかりにふんぞり返りやがって
ガシャン!
頼む! あいつを、エリスを止めてやんねぇと!
エリス?
おかしいだろ、世界征服ってもっと傲慢で自分勝手な理由でやるものだろ、そんな悲しい理由があってたまるかよ……
サキュバスと話をしたの?
生い立ちを話してくれた。普通、会って数分も経たないような男にそんな大切なことペラペラ話すか?
話さないわね。あるいは同情させるための作り話か
だとしても俺はあいつを止めるぞっ、俺が、っていうかこの服が唯一エリスに対抗できる手段かもしれないんだ!
……あなた、ニセモノ?
はっ?
私の知ってるクソ魔女は他人に対してそこまで直接的に突っ込んでいくような熱い奴だったかしら。どちらかというと一歩引いて自分で成長させようとするタイプだったと記憶しているけど
……
それとも、彼女に対して何か想うものがあったのかしら
その背中に誰かを重ねて見た、とか

ま、私には関係のないことだけど


支援スキル発動――『コロージオン』

ジュワァァ……
腐食させて置いたわ、後は馬鹿力で一発入れれば砕けるんじゃない? あなたと地下牢から出てくるところを見られるなんてゴメンだわ、私は先に行くから
……
……ありがとな
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色