信じる者はすくわれる
文字数 2,007文字
……
ポティマスさん見つけた！
あの……ショックなのは分かりますが、ここは一旦引き上げませんか？ 話が食い違ってる可能性もありますし、マルカさんに確認をとって
コオオオォォ
って、ここもしかして次元の裂け目ですか！？ おわぁぁ瘴気すごっ、おぇぇ気持ち悪くなってきた
無様に吐き散らかす前に退散したまえ。すぐに塞ぐ
で、でも村長さんが
知ったことか！ 塞いでしまえばこっちの物だ。私を侮辱した事、平和になった村でヌクヌクしながら後悔するがいい！ フフ、フハハ、ハーッハッハッハ！！
（悪役の笑い方だ……）
……私が聖騎士団に入ったのは、力なき弱者を一番に助けられると思ったからだ
ポティマスさん？
騎士団に所属さえしていれば、偽善だなんだと後ろ指を指されずに堂々と人助けが出来る。そう、信じていた
でも、今回は
……いや、まだそうと決まったわけではない。真相は帰ってからいくらでも確かめられる。が、今この場の悪を見過ごせるほど私は気長ではないのでな。村長には後から謝っておこう。ヒュウ君が
僕！？ ふざけるなーっ、どうして毎度毎度尻拭いさせられなきゃいけないんだっ
トラブル・苦情・なんでも受け付けますという触れ込みだと聞いたが
何だそのキャッチコピ――ギルマスさぁぁぁん！？
さて、時にこんなものを知っているかね？
くぅぅ……帰ったら絶対問い詰めてやる。手鏡ですか？
ただの鏡ではないぞ、この周囲に刻まれた神聖文字が見えるか？ これにより術者の属性を強制的に聖属性に変換することが出来る画期的なアイテム『ノエルの鏡』だ
へぇぇ！ そんなものあるんですね。初めて聞きましたよ
ふふん、ソラリス教開発部の最先端技術だ。市場にはまだ出回っておらぬ
なるほど、独占技術ってわけですね
まぁ、その、なんだ……私は先天性属性が闇だろう？ こういう物に頼らなくては浄化ができなくてな
あ、一応気にしてるんですね……
それにあまり耐久力もない。この次元の裂け目を塞ぐとなるとおそらく一回で壊れるだろう
あぁ、だから道中は闇属性ブッぱだったんですね
いや、それは趣味だ
趣味ィ！？
雑魚どもが闇に呑まれていくのを見るとなんとも言えぬ快感がな……
アンタほんっと聖職者向いてないな
で。
ちゃちゃっと塞いじゃいましょう。で、村人にバレる前に逃げる！
うむ。結果よければそれでよし。では行くぞ
祈りましょう 赦しましょう 贖罪の日々を
嘆きと悲しみ すべての咎を
聖なるかな永久（とこしえ）に
救いの手を差し伸べて
祈りましょう 赦しましょう あなたの罪を
嘆きと悲しみ すべての咎を
聖なるかな永久（とこしえ）に
救いの手を差し伸べて
祈りましょう 赦しましょう あなたの罪を
おぉぉ、これが浄化呪文……めっちゃ黒いオーラ出てるけど
気にするな！ すぐに聖属性に変換してやろう！ いけっノエルの鏡！
カツン！
よーし、そのまま変換し聖なる光を爆散させれば――
ピシッ パリン！
えっ？
なにっ！？
ゴゴゴゴ……
ちょ、ちょっとポティマスさん、鏡、割れちゃいましたよ！？ っていうか闇のオーラ倍増してませんか！？
ば、バカな……こんなハズでは
フフ、ついにやったか
！
その声は――
もう取り返しがつかない。今夜中にでもこの村は魔界に呑み込まれ消えるだろうな
マルカさん！？
先輩！ これはどういうことです！
すまんなポティマス、貴様に渡したのはただの手鏡だ
！？
ただの鏡でも魔と名の付くものなら倍加させる。強烈な闇属性なんてそそげば一発で次元の裂け目が広がるのさ
コオオオオォォ！！
ぎゃあああ！！ 裂け目広がってるー！ ちょっと魔物出てきてる！！
なぜ……こんなことを……
なぜ？ まだ気づかないのか
お前は捨てられたのだよ、ポティマス
ソラリス教に闇属性の僧侶など要らぬ。汚点だ、恥だ。それなのに貴様と来たらすぐにしゃしゃり出て、後先考えず救済を行う。お前の勝手な行動で、これまでいくらの損失が出ていると思っている？ もう少し放置すればさらに恩を着せることが出来た案件だって――
慈愛のソラリス教が、民に救いの手を差し伸べて何が悪いのです！
黙れ！ 正義きどりの偽善者が！
っ、
教皇様もあきれておいでだ。お前はもう要らぬとな
……私一人を排除する為に、この村を巻き込むのか
ふふ、シナリオはこうだ。
依頼されてやってきた『民間ギルドの冒険者が』名声を上げるためにわざと次元の裂け目を広げてしまう。
そこに『偶然居合わせたソラリス教の聖騎士』が奮闘するも、援軍が駆けつける前に力尽きる。
そして翌日やってきた私が裂け目を塞ぎ、変わり果てた姿の部下に涙する。
目撃者は全員死亡、民間ギルドの信用はダダ下がり。貴様は美談になれる。完璧だろう？
それが……それが人のやることか
何か勘違いしているようだな。ソラリス教は貴様が思っているような慈愛の集団などではない
救済は、ビジネスだ
確かに信じる者はすくわれるさ――足元をな
……
さて、私はもう少し高みの見物をさせてもらおう。巻き込まれても適わんからな
あっ、待――行っちゃったよ！ ほんとこれどうすんですか！？ 洒落にならないくらい広がってきてますよ！
