魔王の伴侶リリス

文字数 2,626文字

と、言うわけだ
へぇ、そんなに美少年だったんだ
ねぇ、ウィッチ君。自分がそうなった経緯を怨む? どうして自分がこんな目に遭わなきゃいけないんだって運命を呪わなかった?
……

あたしは怨んだわ、普通の子として生まれたかった。


うふふ、面白い話してあげよっか。あたし実はハーフなの。魔族と人間の半分こ




 お母さんはリリスって名前の普通の人間。でもそんな名前だったもんだから生まれた村ではさんざん色々苛められたみたい

 いい加減うんざりしてたリリスは、いっそ本物の悪魔の伴侶になってやろうとヤケになって魔界へ突撃したわけよ。その度胸が気に入られて魔王ケイオスの妻となり、子を宿した

 ところで魔王ケイオスにはリリスの他にも二人の妻が居てね、デモンとハーゼ……つまり各種族から一人ずつ嫁を取ったってわけ

 で、その第一王妃のデモンがめちゃくちゃ嫉妬深くて、人間のリリスは事あるごとに嫌がらせされてた

 日の射さない魔界にもうんざりしてたんでしょうね、あたしの記憶の中にある母はいつも背中を丸めて泣いていたわ

 そんなある日、リリスに人間界から一通の手紙が届いた。生まれた故郷の村からの手紙よ

 そこには暖かい言葉とこれまでさんざん苛めてきた事への謝罪が書かれていた。リリスの両親が亡くなったから是非葬式に来てやってほしいと

 その時の母の心境なんて知らないし知りたくもないけど、まぁ光の世界へすがる思いだったんじゃない? あたしの手を引いて次元の裂け目をこっそり抜け出したの

 満月の綺麗な夜だったっけ、懐かしそうなお母さんの横顔を今でも覚えてるわ。人間界の素敵なところ、いいところを一つ一つ指さしながら教えてもらってね


 嫌な予感、するでしょ? ふふ、合ってるわよ


 真夜中すぎ、ようやく生まれ故郷にたどり着いた母と娘を待っていたのは冷たい目をした村人たちだった。親子はすぐに取り囲まれて、リンチが始まった

 名前だけじゃなく本物の魔王の嫁になったリリスを村人たちは許さなかった。石を投げつけてきた人の中には死んでるはずの両親も居たわよ、あっはは、人間ってホント残酷よねぇ、集団心理っていうの? 群れると悪魔よりひどいわ

 お母さん、投げつけられる石からあたしを庇いながら叫んでたなぁ『この子だけは許してください! 人間です! 人間なんです!』って、声が枯れるくらい必死にさ

 ……馬鹿よね、こんな羽の生えた人間がどこに居るっていうのよ

 しばらくして母さんは喋らなくなった。石打ちが止んで、近寄ってきた男たちが気絶してるお母さんをあたしから剝がしたの。魔王の嫁リリスのあっけない最期は縛り首、村の入り口にあった梁に吊るされてぶらーんぶらーんってね

 歓声が上がる中、次の標的はあたしだった。太った男がニヤニヤしながら手を伸ばしてしてきたその時よ――

 男は一瞬痙攣したかと思うと、振り返って後ろから来ていた男に額を打ち付けたの。もうそこから先は阿鼻叫喚、村の男たちがこぞってエリス様ーエリス様ーって叫びながら同士討ちを始めたんだから

 インキュバスの娘としての才能が、恐怖によって花開いた。皮肉よね、あと5分早ければお母さんを助けられたのに

 ・
 ・
 ・

そうしてあたしは必死になって来た道をたどりながら、魔界へ逃げ帰ったってワケ。どう、面白かった?
……復讐でもしたいのか?
ううん? あたし別にその村の奴らは怨んでないもの
彼らは弱かっただけ、権力も財力もない貧困の苛立ちを弱者に向けることしかできない悲しい人たち
人間は弱いわ、弱いからつるんで必要以上に残虐なことを平気でしてしまう。あたしが許せないのはそこよ。だからあたしが人間界を統治してやるの! みーんながエリスちゃんを信仰すればもう万事解決、世の中平和になるでしょ!
……は?
もう色々下準備は済んでるの、男はもちろん、近頃女の子も上手く魅了できるようになってきたのよ。精鋭部隊は各地に配置済みだし、あとは片っ端から回って魅了していけばいずれ全世界があたしにメロメロに――
おいおい待て! そりゃただの洗脳って言わねーか!?
なんで? いいアイデアでしょ? 唯一、君だけは魅了できないみたいだけど、世界征服が済むまでおとなしくここに居れば手荒な真似はしないから
こらエリス!
嬉しーっ、名前覚えてくれたの? 魅了が効かなくてもあたしはじゅーぶん魅力的ってことね。それじゃあね~
っ、おいおい。これやべぇぞ……
***
……
……
あ、あの、ヒュウさん?
! わっ、なに、どうしたの?
ぼくの背中に何か付いてます? さっきからぴったり後ろに付いてますけど
何か付いてるんじゃなくて、その、逆に付いてないのが気になって。フィン君はオオカミ系のハーゼみたいだけど、尻尾は付いてないんだ?
うっ……
答えたくないことだった?
いやぁその、あはは、昔ちょっとした事故で根本からバッツリ切れちゃいまして。ぼくの村ってけっこう物騒なとこだから、抜けてますよねぇ~
(笑うところ?)
(っていうか僕、ちょっとおかしいぞ。なんかフィン君を見るとなんか……ドキドキす、る、?)
ヒュウさん?
!!!
(うわぁぁ~~っ!! しっかりしろ! 僕にはそっちの気はないんだ! そんなことよりっ)
どう、お姉さんに会って説得できそう?
それは……
頼むよ~、フィン君が失敗したら僕たちまとめてお姉さんの虜になっちゃうかもしれないからね
……
あ、ごめん。冗談のつもりだったんだけど
……冗談じゃすまないかもしれないです。ヒュウさん、ヒュウさんは、魔人族の事どう思います?
え? デモン? ハーゼじゃなくて?
うーんそうだなぁ、魔族に対してあんまりいい話は聞かないけど……なになに族だからこう! って決めつけることはしないことにしてるんだ
どんな種族にだっていい人も悪い人もいると思うし、直接会ってみないことには何ともね。あ、でも前にあったサキュバスは僕を論外呼ばわりしたから良い印象は――って、あ、あぁぁぁーっ!!?
!?
お、思い出した! エリスってどこかで聞いたと思ったらあの時の露出悪魔!!
露出って、え、姉にすでに会ってるんですか?
うん、以前次元の裂け目騒動の時に飛び出してきて――あれ? でもそうなるとフィン君のお姉さんはサキュバスで? 腹違いって言ってたから、お父さんが、ハーゼ? え、あれ?
……すみません、隠すつもりはなかったんですが、確かに姉はサキュバスです
ぼくたちの父は、インキュバスの魔王ケイオス。ぼくは魔王の子なんです
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