7話 初対面

文字数 1,400文字

 さて、会う日にちが決まって時間も場所も決まった。
 守り人さんには、伝えて後は『目印は何にするか』を伝える。
 私は、『(ふくろう)のリュック』に『(かえる)のマスコット』を付けている。服はチェックのワンピースと伝えた。
 しかし、守り人さんの目印はなかった。
 『服装として、カラーシャツにスラックス…もしくは、その上にサマーセーターみたいなのを着てるかもしれない』
 これが目印になるなら、私はエスパーになれると思った。

 諦めて守り人さんが話しかけてくれるのを待つことになった。


 当日は、会長様と一緒に待ち合わせ場所に行った。
 時間には早くて、まだ誰も集まっていなかった。そこに、電話が鳴る。
 守り人さんからだった。電話をしながらお互いの位置を確認して、会う事が出来た。

「はじめまして」
 守り人さんがチラチラとこちらに向ける視線が、分かった。
 何とも言いようのない気持ち悪い視線に感じたが、初対面だしこんなものだろうと思った。
 私も守り人さんに目を向ける。

 印象は……あまり良くなかった。なぜ、毛玉のセーターを着てくるのか理解に苦しむ。
 服のセンスなどと言う事は追及しないが、最低限の身だしなみぐらいは整えてほしい。
 こちらは『恋する乙女』のつもりで、可愛いワンピースを選んできたのだ。
 なのに、守り人さんは毛玉セーター……私はその程度の服装で会って構わない人間だという事だろうか。

 お互いに挨拶(あいさつ)を済ませて、他のオフ会参加者を待った。

 私はと言えば、相変わらずの無言だった。チャットでは話せても、現実では話せない。
 電話でさえ無言になる有り様だったので、これはお互いに予想内だったと思う。
 代わりに会長様が、適当に守り人さんと話していた。
 険悪ではなくて、あくまで『初対面の人間』としての対応だ。

 やがて、参加者さん達が集まったので、昼食を食べにお店へ入った。
 疲れであまり食べられず、私は気持ち悪くなってしまった。
 皆が楽し気に食事をする中、隅っこで水を飲みながら気持ち悪さをごまかした。

 お昼を食べると、アミューズメント施設へ向かった。
 そんなに広くはない場所だったので、それぞれが好きに見て回っていた。
 私は、疲れて椅子に座りこむ。

 守り人さんが、私の隣に座ってきた。
「疲れたの?」
「……ちょっとだけ」
 当たり障りのない会話をしながら、隣に座ってほしくはないなと思った。
 別に守り人さんが悪いわけではないとも思う。
 けれども、なんというのか……しつこい感じを受けた。
 疲れたと言っているのだから、二、三言葉をかわして立ち去ってほしかった。
 終わらない会話に少し困ったが、そのうち話題も尽きた。
 やがて、会長様が戻ってきてくれて、「向こうへ行こう」と誘ってくれた。
 私はその後について行った。

 その後は、守り人さんとは最後に少し話すくらいで終わった。


 チャットであれだけ話していたのに、私はやはり守り人さんを『好き』とは思えなくなっていた。
 第一印象の悪さに加えて、視線や態度があまりにも露骨な『男』だった。
 私がチャットで、(あお)ったせいというのは分かるが、だったら毛玉セーターはやめてほしかった。


 私は、守り人さんに幻滅しかなかった。
 チャットのみだったせいで、勝手な理想像が出来上がったというのを差し引いても、この先は無理だった。
 今まで目を(つむ)って、見なかった事にしていたモノが全て、嫌悪感を持ってあふれ返ってきた。
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