6話 地域おこし協力隊

文字数 1,380文字

 地元の地域おこし協力隊の人にメールをした。
 誰かに関わらないといけないという想いからで、別に地域おこし協力隊でなくてもよかったのかもしれない。

 ただ『何もないド田舎』に好き好んでくる変わり者には興味があった。

 田舎に住んでいる人間から見ると、田舎は『何もない』のだ。都会の人は「綺麗(きれい)な空気に、綺麗(きれい)な水がある」と言うが、それは日本の国土の大半に存在する。
 逆に『都会』のように「綺麗(きれい)な空気も綺麗(きれい)な水もない」土地の方が少ない。ただ、人口分布は逆転してそうではあるが。


 そんな変わり者をイメージして会ってみた地域おこしさんは、普通の人だった。違うのは行動力だった。
 奥さんに子供がいて単身赴任でこちらに来ていると聞いた時は驚いた。
 地域おこし協力隊の問題点も教えてくれた。国が行っている政策らしいが、いろいろと不備はあるらしい。

 何度か地域おこしさんに会って、イベントなどを手伝ったり、いろんな人に会ったりした。

 山の中に連れられて、限界集落のお婆さんのお話しを聞いた。
 地元はほぼ山と言ってもいいが、私の住む場所は田んぼが広がる。
 それに比べると辺りに木しか見えない限界集落は、『山』だった。
 ポツポツと見える家屋の(ほとん)どは崩れ落ちていて、人がいない事が分かった。
 その山に一人で住むというお婆さんは、思ったよりも背筋が伸びていた。
 古い家だが柱もしっかりとしている。余計な物もなく綺麗(きれい)に片づけられているし、磨かれている事が分かった。
 この山奥で一人でも住んでいられる理由は、元気な体と心のおかげなのだろう。

「どうして、街に出ないのですか」と聞こうかと思った言葉は、聞けなかった。

 買い物も苦労しそうな山奥でも、捨てる事が出来ない土地はある。
 元気であるならば、その場所にいたいと思える場所なのだろう。

 何も聞けずに私は、そのお婆さんと別れた。


 また別の日には桃園の手伝いをした。
 最初は桃を育てている人の家へとお邪魔した。そこは、私が小学生の時に、父に連れられて仕事の手伝いをした家だった。
 お昼に出された『トマト入りカレー』も当時と同じだった。
 桃園では落ちた桃を集めて捨てるという作業を手伝った。桃を盗んでいく人もいるという事だったが、ここで盗みに入るのは熊ではないのか……と思った。
 その時は新聞の取材も来ていた。まるで小学生の作文のような『正解文』を久しぶりに口にして、それが記事になった。


 また別の日には、イベントの手伝いをした。
 こちらは野菜の販売員の手伝いだった。人の多さにてんてこ舞いになりながら、何とか終わった時にはぐったりとした。
 そこからさらに「あっちを手伝って」と言われたが、あっちでは「手伝わなくていい」と言われたので休んでいた。
 これも新聞の取材が来ていたが、正解文を答える事にウンザリした私は「知らないです。分からないうちに手伝ってました」と答えていた。
 一緒に手伝っていた他の子が「人の役に立てて嬉しいです」というような事を話していたので、それでいいと思った。ここは桃と違って、私以外の人他学さんいる。隣の人が答えた言葉が記事になっていた。


 私の興味はそこで絶えた。
 私はもともと『人見知り』なのである。お(しゃべ)りが苦手で、出来るならば誰とも話さずに生きていたいのだ。
 地域おこしさんの任期が終わったので、連絡を取る事はしなくなった。
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