6話 支えられない

文字数 904文字

 ある日、サークル内のチャットで会長様と他の会員さんがいるのを見つけた。
 私は、チャットに入ろうか迷いつつログだけを見ていた。

 『会員様:ノアちゃん、大丈夫ですか』

 閲覧数は1として出ているが、誰が見ているのかは分からない。
 その場所で、私の名前が上がる。
 ちょっとドキッとして、会員様の文面を見つめていた。

 『会長様:大丈夫かは、分からないケド、ああいうのは構ってほしいだけだから』

 え?
 私は入室ボタンを押そうかと迷っていた手を止めた。

 『会員様:そうですよね。構ってちゃんっていうか……』

 チャットの中の会話は続いていく。

 『会長様:死にたいって言っているうちは死なないから』

 私はウィンドウを閉じた。

 ナニ、コレ?
 会長様は黙って愚痴を聞いてくれたよね。
 ……違う。黙る事なんて画面の向こうでは無理だ。
 常に(しゃべ)る事で、慰めてくれた。

 『会長様:もっと、その仕事をする前に止めていたらよかった』
 『会長様:傷つけたい気持ちは分かるケド、傷ついたら悲しい』
 『会長様:周りはノアちゃんを分かっていない』

 ああ。そっか。あれもセリフだっただけだ。
 私が可哀想だったから……。本当は聞きたくないのに、無理に聞かせていただけ。
 構いたくないのに、無理に構わせていただけ。

 私は何も見なかった事にした。
 【だって、会長様の言葉は普通の人の、普通の感覚】
 そして、あの場に私はいなかった。いなかったからこそ、話せていたのだから。


 次の会長様とのチャットは私の中で、モヤモヤが消せなかった。
 普通にいつも通りを意識して、なるべくそうした。
 モヤモヤしたものは、しばらくは消えなかった。

 けれども、それほど経たずに会長様に「もう、支えられない」と言われてしまった。
 私は「わかりました」と、それを受け入れた。

 悲しかったし、ショックだった。
 けれども、『構ってほしいだけ』と思っている会長様が私の傍から離れるのは、当然だとも思った。
 私は重い。自分で自分を支えられないほど、いろんなものが重すぎた。


 そして、いなくなって初めて知った。
 私は会長様が好きだ。それが、誰にも言えない感情だとしても。


 ただの錯覚だとしても。
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