第12話

文字数 489文字

「伯父さんは、もう長くなさそうだよ」
「長くない――って?」
 真栄はしばらくの間考えてから、ゆっくりと話しはじめた。
「死ぬことだよ」
 隆章は、真栄からそう聞かされて、居心地の悪い心持ちになっていた。誰かが見舞いに持ってきたものか、透明で清楚な花瓶に、花が生けてあった。
「伯父さんは、お坊さんだからね、一回の命では終わりだと思ってはいない」
「一回の命って?」
「天国ではなくて、また生まれ変わるんだ」
 あの日もまた、酷暑であった。隆章は、そう思う。伯父の真栄はあの見舞いの日――珍しく饒舌に語った。隆章は、伯父と似たような運命を辿ると思うと、心が痛む思いであった。しかし、その思いを持つのは、ごく後のことであった。

 九月中旬になり、夏の暑さが引いた。
 隆章は、大学の図書館で、好きな本を本棚から取り出して、丁寧に目を通していた。
 ごくたまに、病院での光景を思い出した。本を借り受けると、大学の構内を歩いて行った。病院では、大学を退学する心づもりであったが、しばらくは希望が保留になった。
 小雨の降る中、川合涼香がベンチに座っていた。ちょうど立ち上がる瞬間で、青い傘が音を立てて開いた。
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