第8話

文字数 337文字

 隆章は、スマホに意識が動くと、急にスマホのことが気になり始めた。「デジタル欲求」とでも表現すべきだろうか、紙の書籍や雑談、風景に親しんでいたために、急にデジタルコンテンツへの渇きを覚え始めたのだ。
 にわかに、ズボンのポケットを探った。いつも隆章がスマホを入れている場所である。隆章は、自宅アパートに帰って、スマホの画面を見たい、と思った。いや、スマホを見たいと表現するよりも、他人との他愛のないコミュニケーションに渇きを覚えていたのだろう。実際、人見知りの隆章でも、ネットの中では、親しく交流していた友人が、何人かいた。
 隆章は、そばのつゆをほとんど飲み干したお椀を、食器返却口に戻し、地元の駅の改札口を抜けて行った。八月の陽は、傾き落ち始めていたが、まだ鈍く照っている。
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