第11話

文字数 457文字

 最初に隆章が思い出す【風景】は、伯父の病室であった。
 伯父は、新潟県の古刹、真宗の寺の住職をしていた。
 それが、隆章の伯父に当たる、本多真栄(ほんだ・しんえい)である。
 真栄は、まだ若い住職で、同時に質素であったが、檀家からの評判も上々で、人一倍真面目な気質の持ち主であった。しかし、ある年の夏の暮れ、急な病魔を受け、東京の病院に入院していた。始めに、隆章が思い出すのは、その真栄の病室のことである。
「ああ、タカチャンよく来たね――」
 真栄は、隆章の事を「たっちゃん」ではなく、「タカチャン」と丁寧に呼んだ。呼吸も苦しそうな伯父の姿を見て、幼い日の隆章も、心が痛んだ。
「将棋クラブに入ったんだって? 伯父さんとちょっと一局しましょう」
 隆章は、戸惑う反面、頷いて真栄と将棋を指し始めた。
「うん、だいぶ強くなったけど、まだ伯父さんの方が強かったね」
「うん……」
 隆章が、将棋の駒をまとめて、ポケッタブル将棋の裏蓋にジャラジャラと音を立てて仕舞った。その音が、伯父の真栄の身に響かないか、隆章は強く不安に思っていた。
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