第9話

文字数 587文字

 駅前の繁華街をすり抜けて、懐かしい自宅へと帰って来た。隆章は、大きく伸びをして、ため息をつくと、熱いコーヒーを淹れることにした。
 ポットの湯が沸騰するのを待つ間に、スマホを探すことにした。ベッドの布団の下に、スマホがあった。
 隆章は、台所に向かうと、備蓄してあったクリップの先を折り曲げてスマホに挿し込み、シムトレイを開いた。シムカードはきちんと入っている。しかし、電源を点けて、通信が通っているかが、心配であった。
【母さんと父さん……スマホそのままにしてあったのか――】
 隆章は、ひとまず熱いシャワーを浴びることにした。ケイタイ料金を払っていたかが、不明であったので、モバイル通信は期待できないかもしれない、と隆章は思った。熱い湯を受けながら、隆章は【新生活】をどうしようか、と考えていた。

 3

「あー! 本多君どこ行っていたの!?」
 隆章のアイフォーン7に、顔文字を散りばめた、賑やかなメッセージが踊っていた。
「ちょっと、しんどくなって入院してて……さ」 
 隆章は「格好つけすぎか」と思いながらも、こう表現するしかないと思い、そのままの文面でメッセージを送り返した。
「え? 胃? 腸ですか。本多くん体力なさそうだもんねー」
「うん……そうだよね」
 隆章と、メールのやり取りをしているのは、大学のゼミナールで一緒だった数少ない友人の一人の、川合涼香(かわい・すずか)である。
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