第1話 探偵、登場!

文字数 15,912文字


昼休みの空き教室。
 すらっとした女子生徒が窓際にたたずんでいた。風が吹き、肩までかかった艶やかな黒髪がなびく。彼女は私の存在に気づき、スタスタと寄ってきて、私の両手をとった。
「依頼主さんですか! 昨日連絡をくれた!」快活で明瞭な声だ。おしとやかそうな見た目とのギャップに戸惑いを隠せない。私は彼女の勢いに押されながらも頷いた。
「やっぱり!! 私は探偵部部長、小林千秋。よろしくね~」
「小林さん、早苗小春と言います。今日はわざわざお呼び立てしてすいません」
「小春ちゃん、かたいよ。もっと気楽に。それに私の事は千秋でいいよ。私と小春ちゃんの仲でしょ」
どんな仲なんだろう? 昨日連絡して、今初めて会ったばかりなのに。会う前に抱いていたイメージ(会うまでは頭脳明晰で大人しい人と思っていた)は完全に間違いだった。それと同時に私は一抹の不安を覚える。果たしてこの探偵に謎が解けるのだろうか。
「とりあえず座って。お弁当でも食べながら話を聞かせてよ」
私たちは窓際の椅子に向かい合うように座った。
「さて、早速本題に入ろうか。事件の概要について詳しく」
探偵はスマホをポケットから取り出し、何やら操作した後、机の上に置いた。
「録音しといていい? 忘れたとき用のために」
「いいですよ。事件が発覚したのは昨日の放課後でした」


「事件が発覚したのは昨日の放課後でした。私は文芸部に所属しているんですけど、部費が無くなっているのが発覚したんです」
「ほお」探偵は弁当をむしゃむしゃ食べながら呟いた。この人、ちゃんと聞いているの?
「一昨日に部活に生徒会から1年分の部費が現金で支給されました。本来だと部費は顧問の先生が保管するんですけど、丁度その日に顧問が出張でいなかったので私たちは翌日まで金庫に保管することにしたんです。それで次の日、つまり昨日の事ですけど金庫を開けると入れたはずの部費が丸ごとなくなっていたんです」
「誰かが盗んだ」
「はい。金庫の中身と暗証番号を知っているのは部員と顧問だけですから、部員の誰かが持ち出したんです」
「顧問が部員の知らぬ間に預かっていたってことは無いの?」
「いいえ。先生にも聞きましたが」と私は首を横に振る。
「じゃあ、犯人は部員の誰かってことね」
「残念ですけど… はい」それしか考えられない。
「部員の荷物は調べたの?」
「はい、ペアになってお互いの荷物を調べました。けどそれらしきものは誰も持っていませんでした」
「それで今、小春は犯人だと疑われていると」
「なんで分かったんですか?」驚いた、その話はまだ言ってなかったのに。
「疑われでもしなきゃ探偵部みたいな怪しい部活に助けを求めないでしょ」
なかなかの自虐をさらっと言ってのけるあたり、本人にも多少の自覚があるのだろう。
「昨日の帰るとき面と向かって部長に言われたんです。『誰だって道を違えることがある』って。ひどくないですか。部長は私が犯人だって思ってるんです。何にも証拠がないのに…。 私も反論しました、『証拠もないのに犯人扱いしないでもらえますか』って。だけどそしたら周りにいた部員が『なにムキになってんの』『でも状況的にあんたしかないでしょ』『往生際が悪いぞ』って。誰一人私の無実を信じてくれる人はいませんでした」
昨日は正直かなりしんどかった。誰も私の味方をしてくれないのにもだが、部長に反論するなんて軽率な真似をした自分も少し恨めしかった。
「辛気臭い話になってすいません。だから探偵部があると知って、藁(わら)にもいや、泥船にもすがる思いで連絡したんです」少し話が暗くなったのでふざけてみた。
「誰が泥船だって。小春、私のことを侮ってるな」探偵はすねた顔をのぞかせる。
「小春は知らないだけで私だってこれまでにいくつもの謎を解いて来た実績があるもん」
「分かりました、そんなすねないでください。言い過ぎました」私は探偵の機嫌を取るために平謝りをする。
「分かればよろしい」私の言葉を聞いて満足したらしく、探偵は笑みを浮かべた。調子のいい人だ。
「それに安心して。私は何が起きようとも小春の味方だから」探偵は優しく包容力のある目で私を見る。心なしか自分の頬が熱くなった気がした。
「事件の話だけど、みんなが小春を疑う根拠は?」
「一昨日私が最後に戸締りをして、昨日私が最初に部室に入ったことが原因です。客観的に見て私以外が盗み出すチャンスが無かったんです」
「もっと詳しく教えて」
「はい。一昨日の部室の戸締りは私がしたんです。いつも戸締りは部室に最後に居る人がやるんですが、一昨日は私が最後まで残ったので鍵を掛けて鍵を職員室に返して帰りました。それで昨日の放課後、部室に行くと誰もいなかったので職員室から鍵を借りて鍵を開けました。その後は部室の中で本を読んでいると他の部員も数人やってきてました。それから少しして金庫を開けたときに予算を入れた封筒がなくなっているのが発覚したんです」
「一昨日に小春が戸を閉めてから昨日鍵を開けるまでに部室に入った人はいないってこと?」
「はい。職員室の先生の話だと文芸部の鍵を借りに来た人間は金庫に封筒を入れてから私が取りに来るまでの間では誰もいなかったらしいです」
「部室の鍵は全部でいくつあるの?」
「職員室の1つだけです。」
「昨日金庫を開けたのは誰?」
「部長です。私が来た15分ごろに来て、荷物を置いた後、開けたんです。その時に無いのが発覚しました」説明するうちに、自分でも私以外に犯人がいないのではないかと思えてくる。
「じゃあ、犯人はあなたってことでおしまぃ…じゃない、じゃない」
ん? どうした急に?
「アハハ、独り言だよ、気にしないで。よしまだ時間あるし早速調査に行きますか!」
話をそらされた感があったが、事件を調べてくれると嬉しかった。
「お願いします。事件の真相を明らかにしてください」
「任せなさい。この事件の謎必ず明らかにして見せます、名探偵と言われたじっちゃんの名に懸けて‼」おお、急に金田一⁉ 彼女のノリにまだついていけていないが、私は心なしか自分の頬が緩むのを感じた。この人なら…
自信満々で屈託のない彼女の表情に私は賭けることにした。


私と探偵は職員室に向かうことになった。探偵が行きたいと言い出したからだ。
「職員室に行って何をするんですか? うちの顧問と話すとか?」
「えー、まあそんなとこ。ハハハ… 着いてからのお楽しみ」やっぱりこの人に任せて大丈夫か。一抹の不安が再度浮上する。
2分ほど歩いて職員室の扉の前に到着した。
「ちょっとここで待ってて。すぐ戻るから」
「中入るんですよね。なら私も」
「だめ。二人で行くとばれる恐れがある」と探偵。ばれる? 何のこと?
「すぐ戻るから、じゃ」
探偵は職員室の中に消えていった。私は廊下の窓から校庭の景色を望んだ。外で野球部が素振りをしていた。はぁ、なんでこんなことになっちゃったんだろう。自然と大きなため息が出る。学生生活、一昨日までの平穏は消え去り、今は嵐の中にいる。誰かが私を嵌めた、この事実は未だに受け入れ難い。
 私は外の景色から廊下に目を移した。職員室に面した廊下には落し物コーナーがある。私は暇つぶしに集められた落し物が展示してあるショーケースを覗き込んだ。ここにあるものが再び持ち主のもとに戻る可能性は低いだろう。持ち主は落し物をしたことさえ気が付いていないのかもしれない。去る者は日日に疎しということか。世知辛い世の中だ。
「お待たせ」振り返ると探偵が目の前にいた。手には見慣れた鍵を持っている。
「それって文芸部の鍵ですよね」
「ご名答。ちょっとした実証実験をしたの。バレずに鍵を借りる方法があるのかを」
「それでどうでした?」
「この通りうまくいった! 職員室の先生は文芸部の鍵が無くなっているのに気付いていないし」
「本当ですか、それどうやったんですか?」私はつい食い気味に問いかけた。探偵はまあまあと、落ち着くように促す。
「意外と単純な方法だよ。書道部を装って取って来た」
「それだけですか⁉」拍子抜けだ。「でも本当にそれでバレないのでしょうか?」
「職員室の先生たちもしっかりと監視している訳じゃないし、生徒が書道部って言えば書道部の部員だって信じるでしょ。それで書道部と文芸部の鍵を取って、書道部の鍵を文芸部のところに代わりに掛けといた。部室の鍵ってどこも似ているから近くで見ないとどこの部活か分からないでしょ。だから違う鍵が掛かっているのが発覚する心配はほとんどない。鍵を返す時も今と同じ要領でやれば大丈夫。昨日の犯人も私と同じことをしたんだね。今回の実験で誰にもバレずに鍵を借りられることを証明できた。これは小春以外にも犯行が可能であることを示してる」
「じゃあ昨日の休み時間に鍵を借りに来た人を先生に訊けば、犯人が分かるんじゃないですか!」
「あー 私もそう思って先生たちに聞いてみたんだけど、休み時間に鍵を借りに来る部活とか多いらしくて誰が来たとかいちいち覚えていないって言われちゃった」探偵は残念がる素振りを見せた。それと同時にこちらに何かを促す表情をした。なるほど、訊けってことか。
「でも鍵の件、どうして気付けたんですか?」私は探偵の要望に応えた。探偵は私の質問を聞くと、待ってました! と意気揚々と話し始めた。
「小春が犯人では無いという仮定から、戸を閉めてから開けるまでの間に犯人が部室に入ったことが分かる。金庫を開けるまで事件が発覚しなかったことから部室に異変は起きていない。もし窓を割って入ったら、さすがに昨日の段階で誰かが気付くでしょ。つまり犯人は扉の鍵を開けて入ったってこと。合鍵が無いと仮定すると鍵は職員室の一本だけ。以上から犯人は堂々と職員室から鍵を借り封筒を盗んだことになって、職員室の先生の証言は間違っていることになる。だから実験することにしたって訳。どう、納得した?」
探偵が口にした推理は非の打ちどころがなく論理的だった。もしかしたら名探偵かも…
探偵は腕時計に目を向ける。
「まだ時間あるし現場見に行こうか」と探偵。
午後の授業が始まるまで20分あった。私たちは部室へと歩みを進めた。


 部室には誰もいなかった。当然だ、唯一の鍵は今探偵が持っているのだから。
「お邪魔しま~す」探偵はためらいなく入ると、辺りを見渡した。
「事件の前後で何か変わったところとかはない? 配置が変わったとか?」
私は首を横に振る。「私の知る限りではないです」
「そうだよね、ありがと」
探偵は部室の隅にある金庫のそばにしゃがんでしげしげと金庫を眺めていた。
「ダイヤル式で鍵はいらないやつね。それで番号はなんだっけ」
「えっとですね。暗証番号は…って言うわけないじゃないですか。からかわないでください」金庫の番号を他人に教えるのはご法度である。
「ごめんごめん。それでこの中には普段何が入っているの」
「大したものはなかったと思います。たしか文集のバックナンバーとかだと思います」
「開けてもらってもいい?」
「わかりました」私はダイヤルを回し金庫を開けた。探偵は私が開錠するあいだ部室の調査をしていた。
カチッとした小さな音が金庫から鳴った。私は戸を開き中が見えるようにした。
「どれどれ」いつの間にか探偵が私の顔の横に顔を出して金庫を覗き込んでいる。
金庫の中身は手作り感のある小冊子が横一列に並んでいた。冊子の上には埃が積もっている。手前にはもう一列冊子を並べるほどの余裕があった。
「金庫の中は詳しく探したの? 中身全部取り出してとかは?」さてどうだったか。私は記憶を遡る。
「そうですね。さすがにそこまではしませんでした。金庫の中に封筒を隠す隙間はありませんし」
「でも冊子の裏側に忍ばせたとかの可能性はどう?」いやそれはないが。私は探偵の意を汲みかねた。探偵のうっかりか、私を試しているのか。
「それはないですよ。だってほら冊子の上に埃が積もっているじゃないですか。だからその冊子は動かされていないんですよ。もし細工をしたら埃は積もっていないはずですから」
探偵の顔がみるみるうちに赤くなっていく。分かりやすい人だ。
「顔、赤いですよ」私は少しいじわるする。
「べ、別に分かってたよ。そ、そんなことは。あくまで確認しただけだから」
探偵は顔をそっぽに向け拗ねた表情を見せた。その後、探偵の部室の調査は5分ほど行われた。調査といっても封筒が隠せる隙間や場所を片っ端から見た程度だった。探偵はパシャパシャと部室の様子の写真を撮っていた。
「あっ、もうこんな時間!」探偵が声を上げた。私が振り返ると探偵が彼女の左手にはめてある腕時計を見ていた。それはスタイリッシュなデジタルウォッチだった。そういえばこの部室には掛け時計がない。私も自分の腕時計を見る。授業開始まであと7分ほどしかなかった。そろそろ戻らないと授業に間に合わない。
「部室の調査はこの辺で。放課後に調査の続きを。あ、それと鍵は私が返しておくね」探偵は部室の机やいすの位置を来た時と同じように直していた。
「分かりました。お願いします」鍵を返すのは私がやると申し出たがやんわりと断られた。私たちは部室を出、探偵は鍵穴に鍵を指して回す。ガチャリ。施錠完了。鍵がかかったのを戸を引いて確認した。
「じゃ、またね」彼女は軽い足取りで階段の方向に向かおうとする時、まだ探偵に感謝を伝えていなかったことに気が付いた。彼女が居なかったら、私は今頃挫けていただろう。
「千秋さん、本当にありがとうございます」我ながら深々と礼をしたつもりだ。私が顔を上げると探偵はコチラを向いていた。
「お礼は事件が解決してからでたっぷりとね。あと呼び捨てで、千秋で、いいよ。私と小春の仲でしょ。じゃあね」
こうして千秋の昼休みの調査は終了した。


 実験で部員の誰でも犯行が可能であることが実証されたが、犯人を特定するのはかなり難しい。
まず現場が部室であり、犯人が部員の誰かである点。部員は部室を普段利用する訳で、現場に部員がいた痕跡があるのは当然である。これにより事件当日に現場に生じる犯人の痕跡は他の痕跡に交じり分からなくなってしまう。犯人がよっぽどの失態を犯したならば話は別だが、十中八九、現場から証拠なんて見つからないだろう。
加えて、今回の犯行はリスクが極めて小さいのも犯人の特定を困難にしている。殺人などの取り返しのつかない犯行とは違い、今回は犯人がリスクを感じたときにいつでも中止できる犯行である。もし犯人が鍵を取りに行ったときに、職員室の先生の誰かが異変に気が付いたならば、適当な言い訳をし、計画を中止すればいい。部室への出入りを誰かに目撃された時も同様だ。
だが現に犯行は行われた。つまり、犯人にとってのリスクは生じなかったことを意味しこれは同時に、今回の犯行で自分が特定されないという犯人の自信の表れとも解釈できる。
このような相手に、さてどうアプローチすべきだろうか。犯行自体がとてもシンプルである性質上、手がかりが少ない。手がかりが足りない以上、犯人をただ一人に特定できない。つまり、解は不定である。
ああ、せめてトリックを弄してくれていれば…
犯行から犯人をプロファイルするのも考えたが、やめた。プロファイリングは証拠として弱い。それに、ああいうのはプロの技だ。素人の付け焼刃の猿真似じゃあ誤った解を導くのが必至だろう。
さて、どうしたものか。
リロンッ。リュックに入れた携帯から着信音が聞こえた。確か外ポケットだったか、あったあった。画面を見ると写真が数枚と箇条書きの文章がLINEで送られてきた。収穫なしという収穫があった。


 千秋からの連絡があったのは6限の数学の授業が終わった直後だった。「放課後に部室に来てほしい。犯人を捕まえる。詳しくは会って話す」とのこと。もう犯人が分かったのか。すごい。私は未だ誰がやったのか皆目見当がつかないでいた。教科書などをカバンにしまいながら思考にふける。犯人はなんでこんなことをしたのか。犯人に訊きたいことがいくつかある。犯人の計画に私を嵌めることは含まれていたのか? それともたまたま私が選ばれただけなのか。部活に入ってからまだ日が浅いため、ほかの部員についてあまり知らない。私は文芸部では多分よそ者だ。部活ではどこかムリした自分がおり、嫌われたくないのが先行して自分の意見を押し殺す回数が増えていた。陰で他の部員が好ましくないことを言っていたのも数回聞いた。どうやら私は文芸部で根を張ることはできないらしい、薄々感じていた時に今回の事件だ。
はぁ、大きなため息が出る。私はもう流れに身を任せるしかない。


 放課後、私は千秋と合流して部室の扉の前に来た。部室の明かりがついており誰かが中にいることが分かる。窓が少し開いており、そこから微かに笑い声が聞こえる。
正直なところ、今は部員の誰にも会いたくないし、昨日の光景がフラッシュバックする気がして部室にもあまり近づきたくない。昨日の私への部員の視線は耐えがたいものであった。誰も口にはしなかったが、皆が私を犯人だと決めつけているのは一目瞭然であった。正直逃げたい。
「もしつらいなら、無理しないで。私一人でも多分何とかなるし」千秋が柔らかく微笑む。
私が躊躇しているのがばれてたかいたか。だけど私はここで逃げ出すわけには、千秋の優しさに甘えるわけにはいかない。今回の事件の犯人を絶対に捕まえると心に誓ったんだ。
「ありがとう、でも大丈夫です」私は扉を引いた。
戸を開けると見知った顔が一斉にこちらを振り向く。昨日部室にいたメンバーが全員集合していた。
「あら早苗さん」手前に座っていた部長が立ち上がった。目線を私の後ろにいる千秋に向けていた。顔は微笑んでいるが目は笑っていない。
「この人は?」怪訝な声だ。「こちらは…」「名乗るほどの者ではないです。強いて言うなら部費を盗んだ犯人が分かったので捕まえに来ただけです」
千秋の発言に部員たちがざわめく。
「面白いこと言うわね。でも私たちはあなたの話に付き合うほど暇じゃないの。悪いけどお帰り願えるかしら」言葉遣いは丁寧だが、語気は強く敵意をひしひしと感じる。
「皆さん、顧問の先生を待っているんですよね。でも先生まだしばらく来ないと思いますよ。さっき生徒に絡まれているとこ見ましたし」
「なるほどね。先生が時間になってもなかなか来ないと思ったらあなたのお仲間の仕業だったってわけね」
「穿ち過ぎですよ。でも事件を解決したいなら私の話を聞いた方が賢明だと思いますけどね」
「いいわ。聞かせて」部長は椅子に再び腰を下ろした。
「わかりました」千秋は皆から見えやすい位置に移動した。
「前置きはなしで行きましょう。まずは…」千秋は流暢に話し出す。金庫の暗証番号・昨日金庫に現金が入っていたことから犯人は昨日部室にいた文芸部の誰かであることと、犯人が大胆不敵にも職員室から鍵を取り盗みを働いたことを述べる。部長も含め部員たちは静かに探偵の話を聞いていた。
「以上から今集まっている皆さんにも十分犯行は可能であったというわけです」千秋の話が一息つくと部室は再びざわめきだした。
「それで犯人は誰なのかしら」凍てつくような部長の声が場を制した。部室はすっと静まる。
「それはですね」千秋は座っている部員の顔を一人一人見るように周りを見渡す。
「皆さんのカバンの中身を調べればわかりますよ。だって犯人のカバンの中に封筒が入っているんですから」
部員たちは互いに顔を見合わせる。ざわめきは最高潮に達した。
「本気で言ってるの」
「本気です」
「もしこれで誰も持っていなかったら、あなた覚悟はできてるのでしょうね」
「ええ。煮るなり焼くなり好きにしてください」
「大した自信ね」
「みんな、そういうことだから昨日みたいにお互いに持ち物のチェックをして」
一同が立ち上がり棚から各々のカバンやリュックを手元に持ってきて、お互いに交換し合った。テーブルの上に交換したものをのせる。
「早苗さんは私と組みましょ」部長は自身のカバンを私に差し出した。私は丁重に受けとりカバンをテーブルに置き中身をテーブルに広げながら確認する。それらしきものは一切見られなかった。
「確認し終わりました」私が部長に告げると部長は私が広げた荷物を一つ一つ丁寧にしまい始めた。今度は私の番だ、私は入口の壁の近くに置いたカバンをテーブルの上に置く。
「お願いします」部長が荷物をしまい終わったのをみて私はそそくさと述べた。結局私の荷物からも盗まれた現金や封筒らしきものは当たり前だが出てこなかった。問題は部員の誰の荷物からもそれらしきものは発見されなかったことだった。私は心配になりきょろきょろと千秋の姿を探した。
「おい、あいつどこに行った⁉」部員の一人が私の思っていたことを代弁した。千秋は部室から姿を消していたのだ。部室の唯一の扉が大きく開いている。ここから出て行ったのは誰の目から見ても明白だ。気持ちが良いほどの高笑いが響いた。部長が柄にもなく笑っていた。両目には得体のしれない恐ろしい光が宿っていた。
「どうやら逃げ出したようね。あんなにでかいこと言って、明らかな名誉毀損だわ」
トルンッ。私のスマホが空気を読まず鳴った。私は画面を確認する。血の気が引いた。
「彼女からの連絡かしら」顔を上げると部長が私を睨んでした。「ち、違います」
「見せてくれる?」「い、いや。そ、それは」「見せなさい」部長は私の手からスマホをひったくった。
「『小春、ごめん。私の推理、間違ってみたい。10分後にいつもの場所で。ほんとごめんなさい』ですって」部長が勝ち誇ったように皆に聞こえる声で言う。
「あいつ、おれたちをバカにしやがって」「謝るだけじゃすまないわ」「臆病者め」「この落とし前どうつけてくれるんだ」部員たちの怒りは頂点に達しかけていた。「部長、どうします?」
「そうね。彼女にもう一回会う必要があるわ、でもその前に」部長は冷たい笑みを浮かべる。「早苗さん、この『いつもの場所』っていうのはどこかしら」
「わ、分からないです。本当に、彼女とは今日あったばかりですし」
「嘘つけ」「かばうならあんたも同罪よ」「さっさと吐いちまえよ」心無い言葉が部長の背後から聞こえる。
「やめなさい。いいわ、あなたたちの友情に免じて聞かないで上げる。彼女は私たちで探すわ。みんなもそれでいいわよね」部長の言葉に私以外一同皆賛同した。今、文芸部の敵は事件の犯人から探偵・小林千秋に代わっていた。部長が部室を出るとぞろぞろとほかの部員が後に続いた。本気で探すらしい。部長の指示で部長も含め部員たちはそれぞれ違う方向に向かい散り散りになった。部室には私だけが取り留めもなく残された。静寂が部室を支配する。
カチャ、ガラガラガラ。近くの教室で鍵が開けられ引き戸が引かれる音がした。ざっざっざっざっ。足音が大きくなり誰かが近づいてくるのが聞こえる。足音が止まると見知った顔が戸の陰から現れた。
「ちあき!」驚きのあまり想像以上の声が出た。「しー、静かに。早くこっちにきて」千秋は私の手を取り隣の教室に連れ込む。私は手を振りほどくことなくついて行く。隣の教室に入ると千秋は手を放しすぐに鍵をかける。教室は照明が一切ついておらず比較的暗かった。
「静かに、あと廊下から見えないように隠れて」千秋はひそひそ声で指示した。言われた廊下からおよそ通り見えない位置に移動する。千秋も私の隣に来た。幾分気持ちも落ち着いたので私は目の前にいる探偵に説明を要求した。
「どういうことですか。勝手に居なくなって、犯人分かってたんじゃなかったんですか。私の味方でいてくれるんじゃなかったんですか」まずい、少し目が潤んできた。千秋に会えて嬉しいのか怒っているのか、感情がぐちゃぐちゃになる。
「ごめん、勝手に居なくなって。でも私がいつも小春の味方でいるのは変わらないよ。これだけは信じて。今は私にいろいろと言いたいことがあるだろうけどあと少しだけ。あと10分だけでいいから私を信じて。お願い」
「分かりました。その代わり後でしっかり説明してもから。覚悟してください」
「ありがとう、信じてくれて」
サッササッサ。かすかな足音が聞こえてきた。私たちはさっと息を殺す。足音は私たちのいる教室を横切り、部室付近でふと止まったと思うと、2・3秒後に再びかすかに聞こえた。何者かが部室に入ったことを意味していた。千秋は立ち上がり足音を立てずに教室の戸に近づいた。私もそれに倣って近くに寄る。
「部室から出てきたところでここから出るよ」千秋は言う。私は何が起きるのか分からなかったが頷いた。
サッササッサ。足音が大きくなった。先ほど部室に入った人物が部室の外に出ようと戸に近づいているのだ。「行こう」そういうと千秋はザっと戸を教室の戸を思いっきり引き、隣の部室の入り口を封鎖する。私も千秋に追随した。
「どうしたんですか。びっくりしちゃって、犯人さん!」


「なんでそんなに驚いているんですか」
私は千秋の後ろから部室を覗いた。そこには一人の文芸部部員が立っていた。手がわなわなと震えている。
「持ち物、もう一回見せてもらえますか?」
「何の権利があって言ってるんだ。さっき見せたが何もなかったじゃないか」
「ええ。さっきは確かに。でも今はどうでしょうか。調べさせてもらいますね」
千秋はその部員のバッグをテーブルに置くとチャックを開けて中を覗き込んだ。
「これについてどう説明してくれますか」千秋はバッグから封筒を取り出した。あの封筒だ。
「知らない。そんなもの。あんたが入れたんじゃないのか」
「あくまで白を切りとおすつもりならいいですよ」千秋は窓際の机に近づくと、机の上に乱雑に置かれている本の山の陰からスマホをひょいっと取り出した。見覚えがあるスマホ、部長のスマホに似ている。そう思ったのも束の間、どかどかと足音が聞こえる。戸口から部長と部員たちが現れた。
「あなたがさっき封筒を取り出すとこはそのスマホで見させてもらったわ。もう観念なさい」部長は毅然とした声を発した。その声に千秋と相対する部員は肩を落とし、「ちくしょう」と小さく呟いた。


 犯人は現行犯で捕まり自白し、事件は解決した。決定打は部長のスマホで撮影されていた映像だ。犯人が本棚の下段に置いてある本の列の裏から封筒を取り出しているところがばっちりと映っていた。犯行を行った文芸部部員のその後は知らない。千秋は犯人が自白すると部室から出ようと私に告げたので、ついて行くことにした。今回の事件について、千秋にいろいろと聞きたいことがある。私たちは初めて会った空き教室に入った。
「最後まで見届けなくていいんですか?」
「いいの。もう事件は解決したし、後は文芸部の領域だからね。部外者はもうお役御免でしょ」
「いいんですか、あの人たちさっきまで千秋の事、犯人扱いしていたのに。文句の一つや二つ言っても罰(ばち)は当たらないと思いますけど」
「私は別にみんなに推理を自慢したくて捜査したわけじゃないし。もう目的が達成したし、文句はないよ」
「優しいんですね」
「全然そんなんじゃないよ。ただ」ふと、千秋の言葉が止まる。「『ただ』、何ですか?」
「ううん、何でもない。そういえば、小春に謝るの、忘れてた。さっきは勝手に居なくなってごめん。小春には心配させちゃったね」
「もういいですよ。確かにあの時は心細かったですけど。全部計画だったんですよね」
「そう。犯人を油断させておびき出すための罠、いわゆる空城の計ってやつ。あの時私はわざと部員の荷物を調べさせたの」
「わざとですか」
「そう。はなっから荷物に封筒がないのは分かってたけどね。案の定、誰の荷物からも封筒は見つからない。そうなると自然と大見え切った私にみんなの意識が向く、部員たちは私を探して部室には誰もいなくなる。犯人にしてみれば、封筒を外に持ち出す絶好のチャンスが巡ってきたってわけ。犯人はこう思ったはず、『今隠しておいた封筒を回収すれば絶対にバレないはずだ』って。だってそうでしょ。一度調べた荷物の中に封筒があるなんて誰も思わない」
「でもその計画は、封筒が部室に隠されていることが前提ですよね。それに部員たちが千秋を探すのも絶対とはいいがたいことじゃないですか」私の言葉に千秋は目を輝かす。
「さすが小春、ナイス指摘だよ。私もそう思ったもん」はあ、さいですか。「それでまず封筒の隠し場所についてだけど、考えてみて。今回の犯人はかなり慎重なタイプ。犯行も最小限のリスクしかとってない。そんな犯人が封筒をどこに隠すのか。自分のテリトリーのロッカーとかに隠すとは思えない。見つかったら一発で犯人だと分かっちゃうし。だとするとこの学校で不特定多数が出入りする場所のどこか。これじゃさすがに範囲が広すぎるよね。でも掃除の時間に発見されるリスクを考えて、掃除の範囲外に隠したと考えると、範囲はほぼ絞られる。部室、そう。犯人は大胆にも部室に隠すことにした。多分部室の中を探すふりしてそっと隠したんじゃない。みんな探すのに夢中で他人への意識はどっか行っちゃうでしょ。今日私が出て行ったのを誰も気が付かなかったみたいに」確かに、部室に隠すのは一見すると不合理だが、考えれば考えるほど合理的に思える。
「それに人は一度探した場所を探そうとはしない。入念に探せば探すほど猶更ね。ほんとこの犯人は人間心理を分かってる。だからそこを利用して罠にかけたの、昨日と似たシチュエーションにすれば犯人はきっと心理の裏をかこうとするはずだってね。結果として成功した」なるほど、策士策に溺れるという訳か。それよりも犯人の心理を完璧にトレースした千秋には脱帽だ。
「そこまで考えていたんですね。でも部室に誰もいなくなるシチュエーションは偶然ですよね」さすがに人を思い通りに操れるわけがない。だが千秋は首を横に振った。
「私ひとりじゃ無理だったけど、協力者がいたからね」
協力者?
「うちの顧問の足止めをしたって人ですか。部長が言っていた」だがその人がどうやって?
「違うよ。協力者っていうのは、あなたたちの部長のこと」
「ええええええええええー」教室中に声が響き渡る。そんなことあり得るのか。
「そんなに驚かなくても。だってあの中で一番影響力があって、部員を思い通りに動かせる人間は部長だけでしょ。彼女と取引したの、お互いに利害は一致していたし、案外すんなり了承してくれたよ」
「で、でも部長千秋とは初めて会ったって感じでしたけど。それにすごい敵対心むき出しでしたし」
「あれはお互いに演技。だって私たちが顔見知りだったら、犯人は何かあるって疑うかもしれないでしょ。だから初対面のふりをしたってわけ。でも彼女の演技、真に迫ってたなあ。なんだかほんとに敵意むき出しな感じだったし」千秋はのんきに言う。多分部長のそれ、本心ですよ。
「でもまあ、とにかく事件が解決してよかった、よかった。小春もいろいろとお疲れ様。文芸部もこれからいろいろと大変だと思うけど頑張って」千秋は右手を私の前に差し出し握手を求めた。「本当にありがとうございました」私は千秋の手を握り返す。温もりが手を通じて伝わってくる。
「私たち、いいコンビだけど事件も解決したし今日で解散だね、なんだか寂しいなあ。また何か困ったことがあったらいつでも我らが探偵部に。来るものは拒まずは探偵部のモットーの一つだからね」
私たちは空き教室を出て、そこで別れた。

10
「最後に確認よ。本当に文芸部をやめるの、早苗さん」
「はい。残念ですけど、私、文芸部の空気にどうも馴染めなくて。先輩にはいろいろとお世話になりました」
「そう。分かったわ」別れの言葉にしてはひどくあっさりしていたが、想像の範囲内だった。私は事件の翌日に顧問に文芸部を退部する旨を伝えた。いつか退部しようと少し前から思っていたが今回の事件が私の背中を押すきっかけになった。
「部室から荷物はもう全部回収したかしら」
「さっき取りに行きました。私の私物はもうないはずです」
「そう」部長は興味なさげに応える。「他に用がないならもういいかしら」
「質問いいですか」「どうぞ、あまりにもくだらない質問でなければ」
「先輩は探偵と知り合いなんですか?」
「どうしてそう思うのかしら」
「昨日、彼女から聞きました。先輩が実は協力者だったって」
「別に彼女とは目的が一致したから協力したまでよ。まあ、私にしてみればあんな馬鹿げた芝居して犯人を捕まえなくても部費が戻ってくれば犯人なんてどうでもよかったのに」
「でも、封筒がどこにあるかは犯人が罠にかかるまでは分からなかった訳ですよね。それならどのみち犯人を罠にかける必要があるのではないでしょうか」
「あら意外、彼女あなたに言ってなかったのね。あの探偵は昼休みの時点で封筒のありかを見つけてたわよ」
「えええー」
「彼女とは私に部費のありかを教える条件で取引したのよ」
「でも」ならどうして封筒のありかが分かっていながら、昼休みに言わなかったのだろうか? それで万事事件は解決しただろうに。
「彼女がどうして犯人を捕まえることにこだわったのか、そんなの簡単じゃない。あなたを守るためでしょ」私を守るため?
「彼女言ってたわ。目的は、あなたを無実の罪から救うことだから、部費が戻ってくるだけではだめなんだって。犯人を捕まえない限り、あなたへの疑いのまなざしは決して消えない。だから助けてほしいと。彼女懇願してきたわ」
知らなかった。千秋が私のことをそこまで考えてくれていたなんて。私は自分の未熟さに赤面した。
「それにあなたに事件が終わるまで計画の事を言わないでほしいとも言われたわ」
部長の言葉で昨日抱えていた疑問をふと思い出した。どうして千秋は計画を私に教えてくれなかったのだろう。
「なんであなたに打ち明けなかったのか、何も分かってないようね。彼女は打ち明けたくても打ち明けれなかった。だってそうじゃないかしら。打ち明けたらあなたは必ず反対するでしょ。自分のために恥も厭わず、周りからの敵意も一人で引き受けようとする友がいたら誰だって承諾しないものよ」先輩はちらっと腕時計を見た。「もういいかしら」
私は先輩に礼を言い教室を後にした。

11
 文芸部を正式に退部して、ほっとする自分がいる。もう鬱陶しい人間関係に縛られずに済むのだと思うと、清々した。それと同時に随分無駄な時間を過ごした、もう自分をすり減らす人間にかかわるのはこりごりだ。
廊下を歩きながら腕時計を確認する。昼休みが終わるまでまだ20分ほどある。私は廊下に突き当りにある掲示板を確認することにした。掲示板には様々な部活、サークルの勧誘用のポスターが所狭しと貼ってある。バレー部、テニス部、弓道部、茶道サークル、鉄道研究会、ボードゲームサークル、壁新聞部、古典部など多種多様だ。
文芸部では痛い目を見たが、部活動に参加した気持ちは残っていた。今度は他人に流されず自分の意思で決めようと思ってる。加えて既に入部したい部活の一つは決めていた。一昨日見つけた部活、昨日私を助けてくれた恩人がいる部活だ。私はその部活のポスターを見つけた場所に目を向ける。そして愕然とした。そこにあるべき張り紙は無くなっていた。
私は一昨日の記憶を辿る。確かにここら辺に貼ってあったのだ。それは間違いない。
「あれ、小春?」右側から声をかけられた。私は振り返る。千秋だった。手にはA4サイズのプリントを持っている。「どうしたの。こんなところで」彼女は不思議そうに首を傾ける。
「面白そうな部活を探してるんです。新しいこと始めようかなって」
「文芸部との兼部するんだ」千秋の言葉に対し、私は首を横に振る。
「文芸部は退部しました」
「えっ」千秋は急に俯いてもじもじし始めた。顔はみるみるうちに青白くなる。「本当にごめん」私は困惑した。どうして千秋が謝るのか?「それって私のせいだよね」瞳が潤んでいる。
「全然違います。千秋のせいじゃないです。私が勝手に決めたことです」私は退部した理由を話した。もともと文芸部に私の居場所がなかったこと、事件が良いきっかけになったことについて。千秋は深く黙り込む。
「だから私、文芸部やめてすっきりしているんです。千秋には本当に感謝しているんです」
「それならよかった」顔色は元に戻った。私は千秋の思い違いが解けて安堵する。
「それで千秋はどうしたんです?」私は千秋の右手に持っているプリントに目を向けた。
「ああこれ。ここにポスター貼りに来たの。昨日見たら剝がされてたから」剥がされている? どういうことだ? 私は嫌な予感がした。千秋はすぐに言葉を付け加えた。
「別に誰かの嫌がらせじゃないよ。ただ探偵部、部活って言ってるけど非公式だからね。見つかると生徒会とかに剥がされちゃうの」千秋はさらりと言うあたり、このようなことは何度かあったのだろう。千秋は少し笑って話を続けた。
「あと少しで条件を満たせるんだけどね。まあ地道に頑張ってくしかないかな」千秋は画鋲で一昨日と同じ場所に貼りなおす。
「これでよしと。それで小春は、どの部活にするのか決めた? うちの部活なんてどう? 安くしとくよ、お姉さん」
「入ります」「えっ」「探偵部、私入ります」「それホント⁉ 冗談じゃないよね」「本気ですよ」千秋は私の顔をじっと見てくる。瞳は大きくなり頬はみるみるうちに紅潮する。千秋は私の両手を手に取った。
「ありがとう。本当にありがとう。なんか泣きそう」千秋は私の手をぶんぶん振る。
「これからよろしくね」千秋は屈託のない笑顔を見せた。「こちらこそよろしくお願いします」災い転じて福となるというべきか。こうして私は探偵部に入部した。心なしか心地よい風が廊下に吹き込んだ気がした。




あとがき
お読み頂きありがとうございます。まだまだ文章が稚拙かと思いますが、ぼちぼち頑張りますので温かい目で見守っていただけると幸いです。
今回のテーマは、”犯人を断定できない事象において犯人を特定するにはどうすればよいか”です。なかなか難しいテーマだと執筆途中で気づきました。テーマの答えとして、無難すぎると思われるかもしれません(私も見返した時思いました)。もしアイディアがあれば是非教えてください。
本作を書くにあたり考えたのは、もし学校に「探偵部」があるとしたらどのような部活になるのだろうか? という点です。探偵部の目的を考えた時、ただ単に謎を解く集団でいいのだろうか?と思いました。私としては己の快楽のために人の粗探しをしたり、秘密を暴露する集団は健全ではないと言うか、いつか報いを受けるだろうなと。そんな探偵部は書きたくありませんでした。もっと温かみのある部活の方がいいと考え、探偵部は人を助ける部活に決めました。辛い時、人は精神的に弱ります。困難には立ち向かうべきだと言うのは強者の理論と言うか、弱っている人間にはかなりキツイ言葉です。辛い時は頼っていいい、私はそう思い、その頼る場所として探偵部があればいいなと思いました。(絵空事だと思われるかもしれませんが、私は理想論や絵空事が好きなので。)
だらだらと思考を垂れ流してしまいましたが、改めてここまでお読み頂きありがとうございます。第2話以降もまた公開していくつもりです。ありがとうございました。
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登場人物紹介

小林 千秋

探偵部 部長

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