第10談 ネタバレあらすじ&最初の感想
文字数 3,787文字
1955年生まれ、フランス在住のアルジェリア人作家。
母親は遊牧民出身、父親はアルジェリア民族解放軍の士官としてアルジェリア独立のために戦う。
9歳で士官候補生学校に送られ、23歳で陸軍士官学校を卒業、少尉として入隊。特殊部隊の指揮官として、武装イスラム集団(GIA)に対する任務に就いた。
軍による検閲を回避するため、「緑のジャスミンの花」を意味する女性名のペンネームで執筆し、出版契約時も彼の妻が署名していた。
2000年に家族とともにフランスへ亡命し、作家の正体が明らかになった。
【第1章~第5章前半】
この小説の一人称の語り手アミーンはイスラエルに帰化したアラブ人であり、外科医として成功し、パレスチナ出身の妻シヘムと幸せに暮らしていた。ある日、テルアビブのレストランで自爆テロ犯が数十人の客を巻き込んで爆死する事件が起こる。多くの被害者がイキロフ総合病院に運ばれ、アミーンは一日中手術に当たる。
夜遅く帰宅したところ、クファル・カナに住む祖母の家へ行ったはずのシヘムがまだ帰宅しておらず、携帯電話も家に置いたままだった。
深夜、友人の警察官僚ナビードから電話があり、病院に戻って遺体の身元確認をするよう求められる。そこでアミーンは、シヘムの遺体であると確認する。
遺体の状況から、警察はシヘムが自爆テロの実行犯であると断定した。
厳しい事情聴取を受けるが、彼は妻がそのような行為をしたとは全く信じられなかった。
三日三晩にわたる拘束から解放されると、自宅は家宅捜索によって荒らされていた。
大勢の野次馬が自宅前に集まってきて、アミーンは殴る蹴るの暴行を受ける。
同僚の医師キムがアミーンを助け、無料診療所へ連れて行く。リンチを回避するため、彼はキムの家に保護された。
1週間後、歩けるようになるまで回復すると、アミーンは罰金を支払ってシヘムの遺体を引き取り、テルアビブの墓地に埋葬した。
アミーンが自宅に戻ると、シヘムが生前にベツレヘムで投函した手紙が郵便受けに届いていた。
キムは自分の祖父が暮らす海辺の小さな家にアミーンを連れて行く。そこでユダヤ人虐殺の生き証人である老イェフダーの思い出話を聞く。
アミーンはシヘムがどうしてそこまで追いつめられてしまったのか、考え続ける。
生前のシヘムの行動をたどるため、アミーンはベツレヘムへ行く。
十数年ぶりに乳姉弟の間柄であるレイラのもとを訪ね、レイラの夫ヤセルから話を聞き、ベツレヘムでシヘムが英雄扱いされていることを知る。
シヘムの手紙を投函したのは、レイラの孫イサムだった。
シヘムが抵抗運動の指導者マルワン師に会うためにモスクを訪れたという噂を聞き、アミーンもマルワン師に会おうと試みるが、拒絶される。
アミーンは抵抗運動組織の潜伏場所に連れて行かれ、リーダーの一人であるアブー・ムカウムと対話をする。
【第12章~第15章】
再びテルアビブの自宅に戻った彼は、自分が見逃がしてしまった手がかりがないか探す。
そこで、レイラの息子アデルとシヘムが一緒に撮った写真を発見する。
アデルとシヘムの関係に疑いを持ったアミーンは、アデルに会うためにジャニンへ行くことを決意する。
ジャニンではイスラエル軍が侵攻し、無人機による空爆が行われ、イスラミック・ジハードやアル・アクサ旅団の戦闘員が徹底抗戦していた。
アミーンは従兄弟ジャミルの案内でアデルを探すが、シャバク(国家保安局)のスパイであると疑われ、武装した抵抗運動組織に拉致されてしまう。
7日間地下房に監禁された後、抵抗運動組織の司令官らしき若い男とアミーンは対話する。
その後、アミーンはついにアデルと会い、シヘムが抵抗運動組織の一員として活動していたことを知る。
アデルはもともと抵抗運動組織の資金調達の仕事をしており、彼の正体を知ったシヘムがひそかに協力するようになったと言う。
アミーンはシヘムとアデルの不貞を疑うが、アデルはそれを憤って否定した。
大叔父ウマルの孫ウィッサムが、ジャニンまで彼を迎えに来る。
【第16章】
ベドウィン族の農園を訪れたアミーンは、大叔父ウマルや伯母ナジェト、ウマルの孫ファテンたちの歓迎を受ける。
そこで「世捨て人のゼエブ」と呼ばれるシュロミ・ヒルシュと会い、画家であった父ラドワンについて思い出す。
数日後、ジャニンへ戻ったウィッサムがイスラエル軍に対して自爆攻撃を行う。
報復として、イスラエル軍は族長の家と果樹園をブルドーザーで破壊した。そのせいで、ファテンは失踪してしまった。
ウマルの曾孫から、ファテンがジャニンへ行ったという話を聞き、アミーンは彼女を追って再びジャニンを訪れる。
その日、モスクにはマルワン師の説教を聞くため、大勢の男女が集まっていた。
アミーンはモスクの中でファテンの姿を探す。
礼拝の途中、ドローン攻撃が迫っているとの知らせがあり、抵抗運動組織の男たちがマルワン師を車に乗せ、ただちに避難させようとする。
しかし、避難が間に合わず、イスラエル軍によるマルワン師を狙った空爆に巻き込まれ、多くの人々と一緒にアミーンも命を落とす。
アミーンは最期の瞬間、族長の家と果樹園と父親の言葉を思い出したのだった。【完】
![](https://img-novel.daysneo.com/talk/663546c497df29d7099b9d42f94c8635.png)
文章は分かりやすいけど、ぜんぜん心に響かなかった。
ただ、あんなところに壁があって、壁の内側だけ良い暮らしをしているなんて知らなかったから、それは知ることができて良かったと思う。
植民地時代の名誉白人と同じで、イスラエル国籍を取得した外国人は「名誉ユダヤ人」と言えますね。
「名誉ユダヤ人」であるアミーンが、パレスチナの抵抗運動の指導者といくら話しても互いに平行線で、決して分かり合えないのは、ごく自然なことなのだろうと思いました。
自分自身と一番感覚が近いのは、アミーンだと思った。
自分がアミーンの考え方に近いからか、抵抗運動の指導者の主張は腑に落ちなかったな。
ただ、全く想像もつかなかったところから、本書を読むことで、近づくことはできた気がする。
本書は書店組合賞を受賞したほか、ゴンクール賞の最終候補まで残りました。
フランスにもイスラム教徒が多く暮らしているので、フランス社会に馴染んだアラブ系住民たちは、アミーンに共感したのではないでしょうか。踏みとどまって戦えるのは、1%しかいないと言われています。
作家の意欲作だと思いますが、シヘムの内面を描いていないところが失敗作だと思います。
どこをどうなってシヘムがテロリストになったのか、肝心なところが書かれていません。
アミーンとシヘムはすごく愛し合っていた。
しかし、シヘムは生い立ちから、同じ民族の日常で起こっている不幸がずっと頭の中にあったのでしょう。
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