21、『占星術のための議論』を大学で配る

文字数 1,624文字

 ミゲル・セルベートはパリの大学で医学を学ぶ傍ら、気象学、天文学を含む数学という名目で占星術の授業も行っていた。当時教会は占星術を禁止していたが、王侯貴族の侍医になることも多い医者にとっては必要で役に立つ教養であった。だが、教会が禁じる占星術の授業を堂々と行ったとして医学部の学部長と対立し、とうとう裁判になってしまう。この時のいきさつについては、スペインに行った時に購入した『ミゲル・セルベート、ルネサンスの頂点』により詳しく書かれていた。彼はちょうど授業で火星の食がある時に戦争やペストが起こると予言したのだが、その授業を学部長に止められてしまう。頭にきてすぐに『占星術のための議論』という小冊子を作り、大学構内で配った。それを学部長が咎め、双方一歩も引かずに争うことになる。この時の小冊子が残っていて本の巻末に部分的に載っていたので、ここでも紹介したい。

 Veo que mi adversario no conoce la diferencia entre los preceptos universales que el arte y los juicios particulares, de suyo siempre inconsistente. Los preceptos de Hipócrates en el Libro de los pronósticos son consistentes, pero partiendo de ellos juzgarán las cosas dos médicos de manera distinta y aun completamente opuesta entre sí. Partiendo de unas mismas leyes, dos jueces sostendrán diversa opinión sobre el caso y aun completamente opuesta en virtud de diferentes conjeturas, distintos prejuicios, diversas influencias y diferente erudición. ¿Se derribarán por ello las leyes o los preceptos de Hipócrates?¡En absoluto!

 私の反対者は、巧みな技に基づく宇宙の法則といつも根拠のない個人の判断との違いがわからないようである。ヒポクラテスの『予言の書』の法則はゆるぎないものである。だが、それに基づいていても2人の医者が違う方法で判断し、完全に逆の意見を言うことがある。同じ法律に基づいていても、同じ事件に関して、憶測や先入観、異なる影響や学識の違いによって2人の裁判官が全く逆の判決を出すことがある。だがそれで法律やヒポクラテスの法則が覆されることがあるだろうか?そんなことは決してない!

 セルベートは『占星術のための議論』の中で、解釈する人間によっては予言は捻じ曲げられてしまうこともあるが、それでも宇宙の法則は変わらないということを強く主張している。それは医学でも法律でも同じである。彼は個人の解釈ではなく根底となる法則を何よりも大事にしようとしていた。そして占星術に関しても、個人の判断に任せるのではなく、学問としてきちんと体系づけようと考えていたかもしれない。

 占星術をめぐっての裁判は、セルベートが過ちを認めて謝罪し、学部長も広い心で彼を許すという形で判決が出た。おそらく学部長も医学部の学生である彼を死刑にすることまでは望まず、自分の立場や名誉が守られればそれでよかったのだと思われる。だが、ジュネーブでの裁判は違っていた。カルヴァンは自身の説を批判したセルベートを激しく憎み、彼を異端者として処刑することを強く望み、それを実行している。
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