95、ウエスカの修道院とミゲル・セルベート公園

文字数 2,076文字

 10月25日、サラゴサからウエスカへ移動した。アラゴン王国の首都はハカ、ウエスカ、サラゴサと変わっている。サラゴサからウエスカまでは電車で1時間ほどであるが、1日に2,3本しかないローカル線である。午前中の電車に乗ってウエスカに到着した。ホテルに荷物を預け、市内地図をもらって街中に出た。ウエスカでの目的地はサン・ペドロ・エル・ビエホ修道院とミゲル・セルベート公園である。

 ウエスカは主な見どころは歩いてまわれる小さな街である。街中はきれいな建物が並んでいて、おしゃれなカフェや土産物店が並んでいる。そんな街の中心地にサン・ペドロ・エル・ビエホ修道院はあった。『スペイン、レコンキスタ時代の王たち』(西川和子著)を読んで気になっていた修道士王ラミロ2世が生涯の大半を過ごし、アラゴン建国の祖ラミロ1世からラミロ2世までのヒメノ家の5人の王の霊廟がある場所である。修道院の中に入るとそこはもう街中とは全く違う中世の世界であった。薄暗い教会を抜けると中庭を中心にぐるりと柱が並んでいる。そして王家の霊廟があったと思われる場所は石棺が並び(今は遺体は別の場所に保管されている)5人の王それぞれのパネルと王家の家系図が展示されていた。その場所に見物に来る人は誰もいなかった。時々話し声が聞こえ、10人ぐらいのスペイン人グループが柱を見上げてガイドの説明を聞いていた。この修道院は柱の彫刻が古い時代のものが残っていることで有名なため、見物人はみな柱だけ見て帰っていた(それでも1本1本違う彫刻のある柱を見ていけば時間はかなりかかる)私は1人王家の霊廟の場所で長い時間を過ごし、パネルのスペイン語は読めなかったが1人1人の写真を撮り、そこに描かれている王様の絵を眺めていた。それに飽きるとラミロ2世気分で修道院の回廊を歩いて柱の彫刻を眺めた。この時の経験から今たくさんの小説を書きラミロ2世は主人公の1人となっている(本物のラミロ2世は絶対にこういう性格ではないと思う)

 サン・ペドロ・エル・ビエホ修道院から外に出ると光がまぶしかった。そして大聖堂の前に来るとちょうどミサが始まる時間であり、街の人に手招きされて中に入れてもらえた。サラゴサの聖母教会では見物人の立場だったが、ここでは信者の方と同じ場所に座って司祭の話を聞くという貴重な体験ができた。ステンドグラスを通した光が床に鮮やかな色彩を放ち涙が流れた。修道士王ラミロ2世が生きた時代そのままの修道院と現代のスペインのキリスト教信仰を見せてくれた大聖堂、ウエスカでは生涯忘れられない体験をすることができた。

 その後ホテルに戻ってチェックインをし、次の目的地モンソンへの交通手段を聞いた。サラゴサ。ウエスカ、モンソン、リェイダへとまわるバスが1日に5,6本あり、駅にチケット売り場もバス乗り場もあると言われた。駅まではホテルから歩いて行ける距離なのでホテルの部屋に荷物を置いて駅へと向かった。

 ウエスカの駅はサラゴサ駅のように入り口と出口が完全に別になっている一方通行の駅ではなく普通だったので、バスのチケット売り場や長距離バスの乗り場もすぐにわかった。無事にバスのチケットを買い、駅の上にあるカフェで昼食を食べた。前菜とメインとデザートのセットメニューを頼んだが、量も味もちょうどよくておいしく食べることができた。

 その後歩いてミゲル・セルベート公園へと行った。駅のそばにある広い公園である。日本のテーマパークのように入場料を取って様々な施設を置いてあるわけではなく、子供用の遊具がある以外は街の人々がジョギングしたり犬の散歩をする普通の公園であった。この公園でミゲル・セルベートの銅像の写真を撮り、広い公園内をゆっくり歩いた。その時は知らなかったが、スペインで購入した本『ミゲル・セルベート、ルネサンスの頂点』を読むと、その公園も最初は別の人の名前がつけられる予定だったのが、1977年に正式にミゲル・セルベート公園と名前が決まり、同じ年に銅像も置かれた。だがその後公園は市の管理が行き届かない時期もあって、著者や他の研究者がウエスカを訪れた時に公園の掃除が行き届いてなく銅像に落書きまであったことを見つけ、市の職員に掃除と管理をきちんとするよう約束させたというエピソードも書いてあった。私が訪れた時は公園はきちんと管理されていた。

 そして街中に戻り、ウエスカの博物館にも入ろうとしたが、閉館の15分前だからと言われて中に入ることはできなかった。時計を見ると4時45分、5時閉館だから確かに15分前だが、この時期はサマータイムで8時まで明るいので夕方になっていることに全く気付かないでいた。この博物館には後の時代の画家が描いた有名な『ウエスカの鐘』の絵が展示されている。ラミロ2世は修道院や大聖堂の中はちょうどいいタイミングで最高の状態で見せてくれたのに、この絵だけは見せたくなかったのだろうか?そしてこの日は5時ごろホテルに戻った後で急に眠くなって夕食も食べずに寝てしまい、夜中に目が覚めることになる。
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