2、4つの視点から考えるミゲル・セルベート

文字数 1,510文字

 数年後、再びスペイン語教室に通うことになり、前に読むのを挫折したスペイン語で書かれたミゲル・セルベートの伝記をもう1度読むことにした。再び挫折しないように、2つの工夫をした。1つは序文はとばして直接本文から読むことである。私が購入した本は死後450年の追悼式典が行われた直後に出版されたものなので、序文はその式典に関わることが多く書かれていた。知らない人名や地名が次々と出てくるので挫折しやすい。最初に本文から読んで内容を理解した後で、再び序文に戻ればいいと考えた。もう1つの工夫は読んで翻訳した部分をノートだけでなく、パソコンのワードにも入れて記録を残したことである。私の字はお世辞にもうまいとは言えないので、ノートに書いただけでは後から読み返す可能性は低い。だがパソコンに入れておけば、途中でかなり日にちが開いても、すぐに続きから読み直すことができる。そして読んだ内容は友人に話したり、ブログで感想を書いたりもした。人に話したりブログに書くことで読んだ部分を忘れることなく次に進むことができ、またモチベーションも保ちやすい。こうして私はスペイン語で書かれた伝記を少しずつ読み進めることに成功した。

 本文は最初にミゲル・セルベートについて考える上で重要な4つの視点が書かれていた。
1、ヒューマニズムとルネサンス
2、異端審問
3、ミゲル・セルベートの生涯と著作、医学における業績
4、この人物についての個人的な印象
 この中で生涯と著作、印象などはかなり長くなるので、このページではヒューマニズムとルネサンス、宗教裁判についての部分を紹介する。この本はスペイン語の伝記の内容を完全に翻訳して伝えることを目的としていない。私が本を読んで受けた印象とその後実際にスペインに行った時の記録、そしてそこで購入したもう1冊の伝記の内容について詳しく書くつもりなので、ここでは簡単な要約しか書いてない。

1、ヒューマニズムとルネサンス
ルネサンスと呼ばれた時代、中世の教会と聖職者が中心だった時代から人間の価値を認めるヒューマニズムの思想が生まれ、芸術や文化が花開いた。エラスムスの本が多くの人に読まれ、ルターの宗教改革が始まった。ルネサンスを代表する医者のパラケルススは『人間は小宇宙でその中に大宇宙との対応を見出すことができる』と考えた。ルネサンス期の医者や科学者は神と宇宙は人間を通して知ることができるとされていた。またこの時代から解剖が行われるようになり、ミゲル・セルベートは実際に解剖を行って『血液の肺循環』についてウィリアム・ハーヴェイよりも先に唱えていたが、その説を詳しく書いた『キリスト教の復興』はそのほとんどが燃やされて世に知られることはなかった。

2、異端審問
中世に宗教の純粋さを守る目的で作られた異端審問は南フランスでカタリ派に対して大規模な迫害を行った。異端者の没収された財産は裁判官や検事などが受け取ることができるので、それが目的の告発もあり、拷問のやりかたは過酷になっていた。スペインでは異教徒やルター派などへの異端審問がしばしば行われた。マドリッドのマヨール広場で行われた異端審問の様子を描いた絵がある。大勢の見物人の前で聖職者を先頭にした行進が行われ、異端者は生きたまま火あぶりにされる。

 異端審問については他にもいくつもの本を読んで知識として知っていた。でもスペイン語で読んだ時、日本語で読むのとは明らかに違う言葉の響きや鋭さにぞっとしたのを覚えている。ミゲル・セルベートが生きた時代はルネサンスで芸術が花開き、ヒューマニズムで人間の価値が認められながら、最も残酷な拷問や処刑が盛んに行われた時代でもあった。


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