秋の巡礼、または名づけられた秋

文字数 381文字

 いまは秋
 隣家の庭に金木犀が花開く時
 袖の隙間からつめたさがもぐり込む時
 指の関節がパキパキと意固地になる時
 くるおしいほどに秋、めくるめく秋

 秋休みはなぜないか
 と 子どもの頃に放った非難にいま応えるならば
 自然が示す全休符に抗うためだ
 と 口はばったく代弁するだろう
 神の微笑みが黄葉になって顕れる
 子どもは首をかしげている、子どもの顔に冬が訪れる

 この国に秋はない
 ヨーロッパには秋がある
 この国に秋はない
 カシオペア座には秋がある
 この国に秋はない
 秋がある、秋がある、狂い咲きした秋がある

 紅葉を打楽器に喩えたフランスの詩人が
 アジアの片隅を眺める時
 いまは秋
 召命を受けた老婦人が
 車椅子をそっと離れる時
 いまは秋

 たなごころが
 季節の疲労をいたわっている
 祭りの終わった盛り場を儚んでいる
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