ミーへ

文字数 382文字

 猫
 清められた瞳
 鴉と同等に愛されたもの
 背後に首をねじ向けた、記憶の中のあの晴れ姿

 名前のない猫などいない
 しるべなき
 流離い人の行進の
 足跡のひとつにすら
 名前はある

 ボタンをかけ違えた愛のように
 猫の苦手なものはない
 執着は罪だと
 日だまりの境界線から
 ささやき続ける
 その手には遠未来の花束

 猫
 清められた瞳
 ポリタンクの陰で嘲られたもの
 奥処からまかり出る、うじゃじゃけたあの晴れ姿

 猫の視線には輪郭がない
 色彩だけがある
 蒼古たる
 朽ち果てた大聖堂のような
 その瞳

 なじみの手すりのひとつほどにも
 他人の指を愛さない
 九つの魂は
 きっと尾の先にこごっていて
 非情の淵を渡っている
 その手には遠未来の花束

 猫
 おまえは
 触れられない氷のように
 境界の向こう側で溶け去っていく
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