episode 40 どうして知ってるんだ?
文字数 1,025文字
そのとき、テレビに紫と緑の音で速報が入った。
「──あっ、さっきの地震」
緊急地震速報ではなく結果を知らせる通常の速報、目がいい僕は首をひねって画面の文字を読む。震源は福島県沖で、その近くでは「震度5弱」を記録しているが、「震度4」程度に感じたこの街は「震度3」だった。僕は先週の地震にも驚かされたのを思い出し、怖がりの自分が情けなくなる。ちなみに我が家は内陸の台地上にあり、津波を心配することはなかった。
そんな僕とは裏腹に、お父さんの帰郷で半泣きのお母さんが笑えない冗談を言う。
「はっ、わかっだ。パパが地震がない、ドイツから帰っできてがら、日本がびっくりさせたんだわ」
すると、一瞬遅れて眉をひそめるお父さん。
「ドイツ……、そうだ、俺がドイツにいたってどうして知ってるんだ? ミュンヘンではなかったけど」
ああ、その話まだだったか。僕は小さく一つ息をつき、掃き出し窓のやわらかいカーテンに斜めに寄りかかった。雨戸が閉まっていて、リナのいない退屈な夜空はまったく見えない。
「──ええと、小田嶋って人からお父さんにメッセージが……その、会社を辞める相談がしたかったみたいで、それでそこに、ドイツのことが書いてあって、だから」
僕が思い出し思い出し説明すると、お父さんは驚きと後悔をない交ぜにしたような顔つきになり、やがてふーうと長く息を吐いた。
「そうか小田嶋か、そんなとこからばれるとはな。あいつ大丈夫かな」
「わかんない。小田嶋さんにメッセージ返しても、エラーだった」
彼はそれを聞いて渋そうな唇で頭を揺らし、「辞めたんだろうな、会社」と以前僕も考えたことを言い──、
えっ、と二人そろって驚いた。
お母さんがとうとう泣きだしたのだ。
「パパ、小田嶋なんていいがら、ぐす、小田嶋なんていない……」
僕が最初にドイツについて打ち明けたときのように小田嶋さんを否定し、おかしな話を展開する。
「パパずっと帰ってこないのに、ママは帰ってくるって信じてがんばっでたの。ひろくんは毎日きままばりだし、ほんとママ、味方がいなぐで……」
ちょっと、違うってば!
いやその前に「きまま」はつまり〝わがまま〟で、僕は窓を離れてお父さんの前に立ち、お母さんの話はうそで自分はわがままを言われるほうだった──と、主張しようと思った。
でも今は、もっと大切なことがある。僕は一番知りたかった謎について訊かなければならなかった。
「ねえ、お父さん。これまでどうしてドイツにいたの?」
「──あっ、さっきの地震」
緊急地震速報ではなく結果を知らせる通常の速報、目がいい僕は首をひねって画面の文字を読む。震源は福島県沖で、その近くでは「震度5弱」を記録しているが、「震度4」程度に感じたこの街は「震度3」だった。僕は先週の地震にも驚かされたのを思い出し、怖がりの自分が情けなくなる。ちなみに我が家は内陸の台地上にあり、津波を心配することはなかった。
そんな僕とは裏腹に、お父さんの帰郷で半泣きのお母さんが笑えない冗談を言う。
「はっ、わかっだ。パパが地震がない、ドイツから帰っできてがら、日本がびっくりさせたんだわ」
すると、一瞬遅れて眉をひそめるお父さん。
「ドイツ……、そうだ、俺がドイツにいたってどうして知ってるんだ? ミュンヘンではなかったけど」
ああ、その話まだだったか。僕は小さく一つ息をつき、掃き出し窓のやわらかいカーテンに斜めに寄りかかった。雨戸が閉まっていて、リナのいない退屈な夜空はまったく見えない。
「──ええと、小田嶋って人からお父さんにメッセージが……その、会社を辞める相談がしたかったみたいで、それでそこに、ドイツのことが書いてあって、だから」
僕が思い出し思い出し説明すると、お父さんは驚きと後悔をない交ぜにしたような顔つきになり、やがてふーうと長く息を吐いた。
「そうか小田嶋か、そんなとこからばれるとはな。あいつ大丈夫かな」
「わかんない。小田嶋さんにメッセージ返しても、エラーだった」
彼はそれを聞いて渋そうな唇で頭を揺らし、「辞めたんだろうな、会社」と以前僕も考えたことを言い──、
えっ、と二人そろって驚いた。
お母さんがとうとう泣きだしたのだ。
「パパ、小田嶋なんていいがら、ぐす、小田嶋なんていない……」
僕が最初にドイツについて打ち明けたときのように小田嶋さんを否定し、おかしな話を展開する。
「パパずっと帰ってこないのに、ママは帰ってくるって信じてがんばっでたの。ひろくんは毎日きままばりだし、ほんとママ、味方がいなぐで……」
ちょっと、違うってば!
いやその前に「きまま」はつまり〝わがまま〟で、僕は窓を離れてお父さんの前に立ち、お母さんの話はうそで自分はわがままを言われるほうだった──と、主張しようと思った。
でも今は、もっと大切なことがある。僕は一番知りたかった謎について訊かなければならなかった。
「ねえ、お父さん。これまでどうしてドイツにいたの?」