episode 49 リナに会いにいこう
文字数 1,387文字
今夜は雲のない満月──。
といって皆がよく知る黄色いルナではなく、小ぶりで緑色のリナがである。九月末に一度過ぎて早くも一周、近くを回っているのだから当然だが、ルナなら一ヶ月かかるという感覚が理解をじゃまするのだった。
始業式の昨日も晴れていたけれど、担任の先生に手渡すのではなく手渡された通知表のひどさをこっぴどく叱られ、リナに会うことができなった。テストが終わった解放感と短いながらも秋休みで忘れていたのに、初瀬川碩哉の通知表がお母さんを怒らせるのに十分な成績を並べてしまったのだ。
それからルナとの話をお父さんに見つかった件で、より夜の屋上に出づらくなった。
いや、月と話せることまでは知られてないか。話せるなんて考えるわけないし、ルナとの会話もリナの場合と同じで外にもれないはず。そもそも雲に隠れてから時間があった。
ところで、期末テストの結果は実はまだわかっていない。普通なら秋休み前に返されて終業式の日には通知表も渡されるはずが、今年はテスト最終日の二日後が前期の終業式、先生たちにとっては結果を返すどころか採点する時間もなかった。そのため秋休み中に採点して総合的な成績だけ通知表に記し、後期の始業式のあとに生徒に手渡された。
テストの結果には解説が必要なので、後期の授業で行うことになっている。大幅な採点ミスがあったら通知表の成績はどうしてくれるんだと何人か爆発したが、特例で成績の書き直しを認めるという。
ちなみに僕の通知表は、失敗したテストの実感よりやや低い程度で、お母さんを怒らせた理由は残念ながら採点ミスではなさそうだ。
五月の終わり、だった。
長すぎた連休から体育祭、やっと落ち着きを取り戻した職員室に衝撃が走った。校長先生が学校を辞める。突然の宣言に、PTAや教育委員会を巻き込んでもめにもめ、授業すら中止になる始末。校長先生は今も宙ぶらりんだし、夏休みを短縮する多くの先生たちの案が受け入れられず、夏休み前の予定が後ろにずれ込んでしまった。
原因は不仲な義理の弟が来年度の校長になると聞きつけ、先に他の人に継がせたかったかららしいけど、影響を押しつけられた後期はどうなるのだろうか。受験をひかえた僕たち三年生はもう怖くて話題にもできないほど。あの調子が良くて遠慮のない権藤君でさえ、大人たちが〝大人の事情〟でもめるのを見せつけられてうんざりしている。
「権藤君っていったら──」
テスト前に西塚さんと署名集めでけんかになった。署名は彼女と千尋のがんばりがむくわれない哀しい結末を迎えることになりそうだが、けんか以前に彼女は演劇部存続のためにある手段に出ていた。辞めると騒ぎだした校長先生に近づいたのだ。まだ学校の〝長〟ではあるし敵も多いから、味方になれば演劇部を残してくれるかもしれないと考えたようだ。
まさか権藤君、それで怒ったとか?
西塚さんが問題の原因側についたから嫌がらせをしたんじゃ……、
──もっこり木琴さんは怒ると怖いなあ。
彼女をやゆする女の子にはひどすぎるあだ名まで使って。男だって「もっこり」は嫌だけど。
ふと、あのとき西塚さんが言い放った台詞が頭に浮かんできた。裸で肩ぐるまされてる写真? 男女かまわず恥ずかしすぎる。最終的に百人分集められなかった権藤君の裸はばらまかれたのかな。
「さて、と──」
今日こそリナに会いにいこう。
といって皆がよく知る黄色いルナではなく、小ぶりで緑色のリナがである。九月末に一度過ぎて早くも一周、近くを回っているのだから当然だが、ルナなら一ヶ月かかるという感覚が理解をじゃまするのだった。
始業式の昨日も晴れていたけれど、担任の先生に手渡すのではなく手渡された通知表のひどさをこっぴどく叱られ、リナに会うことができなった。テストが終わった解放感と短いながらも秋休みで忘れていたのに、初瀬川碩哉の通知表がお母さんを怒らせるのに十分な成績を並べてしまったのだ。
それからルナとの話をお父さんに見つかった件で、より夜の屋上に出づらくなった。
いや、月と話せることまでは知られてないか。話せるなんて考えるわけないし、ルナとの会話もリナの場合と同じで外にもれないはず。そもそも雲に隠れてから時間があった。
ところで、期末テストの結果は実はまだわかっていない。普通なら秋休み前に返されて終業式の日には通知表も渡されるはずが、今年はテスト最終日の二日後が前期の終業式、先生たちにとっては結果を返すどころか採点する時間もなかった。そのため秋休み中に採点して総合的な成績だけ通知表に記し、後期の始業式のあとに生徒に手渡された。
テストの結果には解説が必要なので、後期の授業で行うことになっている。大幅な採点ミスがあったら通知表の成績はどうしてくれるんだと何人か爆発したが、特例で成績の書き直しを認めるという。
ちなみに僕の通知表は、失敗したテストの実感よりやや低い程度で、お母さんを怒らせた理由は残念ながら採点ミスではなさそうだ。
五月の終わり、だった。
長すぎた連休から体育祭、やっと落ち着きを取り戻した職員室に衝撃が走った。校長先生が学校を辞める。突然の宣言に、PTAや教育委員会を巻き込んでもめにもめ、授業すら中止になる始末。校長先生は今も宙ぶらりんだし、夏休みを短縮する多くの先生たちの案が受け入れられず、夏休み前の予定が後ろにずれ込んでしまった。
原因は不仲な義理の弟が来年度の校長になると聞きつけ、先に他の人に継がせたかったかららしいけど、影響を押しつけられた後期はどうなるのだろうか。受験をひかえた僕たち三年生はもう怖くて話題にもできないほど。あの調子が良くて遠慮のない権藤君でさえ、大人たちが〝大人の事情〟でもめるのを見せつけられてうんざりしている。
「権藤君っていったら──」
テスト前に西塚さんと署名集めでけんかになった。署名は彼女と千尋のがんばりがむくわれない哀しい結末を迎えることになりそうだが、けんか以前に彼女は演劇部存続のためにある手段に出ていた。辞めると騒ぎだした校長先生に近づいたのだ。まだ学校の〝長〟ではあるし敵も多いから、味方になれば演劇部を残してくれるかもしれないと考えたようだ。
まさか権藤君、それで怒ったとか?
西塚さんが問題の原因側についたから嫌がらせをしたんじゃ……、
──もっこり木琴さんは怒ると怖いなあ。
彼女をやゆする女の子にはひどすぎるあだ名まで使って。男だって「もっこり」は嫌だけど。
ふと、あのとき西塚さんが言い放った台詞が頭に浮かんできた。裸で肩ぐるまされてる写真? 男女かまわず恥ずかしすぎる。最終的に百人分集められなかった権藤君の裸はばらまかれたのかな。
「さて、と──」
今日こそリナに会いにいこう。