第5話 シベリアの量子セイウチ狩りツアー

文字数 773文字

スターリンさんさえご存じない、量子的なシベリアの奥地に、ツアー客たちはセイウチを狩りにやってきた。
そこではプランク定数がh=1×10-3という不思議な世界。
量子セイウチ狩りツアーで、プランク定数が大きいってことは、Δ運動量*Δ位置の不確定性が大きいってこと。ハイゼンベルクもびっくりの不確定性である。

セイウチさんに銛を投げようにも、その姿は大群となって、ツアー客の目の前に現れた。



シュレーディンガーがψ(プサイ)の波動関数手裏剣を投げつけるが、思うように当たらない。
彼の三人の愛人も、鋼鉄でできた量子コンパクトやリップスティックを投げてみるがうまくいかない。
パウリは特別にチュクチの人のカヤックを追加料金で出してもらったが、回折現象を起こしているセイウチに銃を撃っても無理である。
「どんどん撃ちなさい!」
とツアーガイドまで引き受けているガモフさんが叫ぶ。
「セイウチの大群に見えますが、実は一頭なんです。きっちり狙わなくていいから、ぐるりをずっと撃ちまくって、ハミルトニアンを引き上げればいいんだ」
二人の物理学者は同様にうなずいた。シュレーディンガーもパウリもハミルトニアンが何かは先刻承知だが、私たちはそうではない。ここでちょっと説明が必要だろう。

ハミルトニアンは、二物体間の量子的相互作用を表す数学的表現である。アイルランドの数学者ハミルトンの名から付けられた。つまり、ガモフさんの言わんとすることは、量子の弾丸をたくさん撃って、あるいは銛をたくさん投げて、武器とセイウチの相互作用の確率を増そうという提案だ。

シュレーディンガーとパウリは、めでたく、大群に見えたセイウチから一頭ずつ仕留めて、チュクチの人々に解体してもらい、ペテルブルクのレストランで料理してもらって食し、大きな牙からは美しい工芸品を作ってもらい、後で空輸してもらうことにした。
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