第1話 パウリの排他原理とは

文字数 2,369文字

20世紀に創始された原子とその中にある電子などの構造を研究する原子物理学の研究の中で、元素の放出するスペクトルの複雑さを説明するためには、ゾンマーフェルト1が導入した三つの量子数2のほかにもう一つ、新しい量子数の導入が必要であることを発見し、ゼーマン効果3の研究から、その量子数が電子に付与されるべきだと結論づけ、原子内電子の定常状態4はこれら四つの量子数により完全に決まり、その一つの定常状態には一個の電子しか入れないと考えた。それにより閉殻5の存在も説明される。これがウォルフガング・パウリの排他原理、または排他律と呼ばれる理論で、1925年に発表された。

1 アルノルト・ヨハネス・ゾンマーフェルト(Arnold Johannes Sommerfeld, 1868年12月5日~1951年4月26日)。ドイツの物理学者。原子物理学や量子力学の開拓的研究を行い、微細構造定数 、軌道磁気量子数、スピン量子数を導入した。金属内の自由電子の量子論などに業績をあげた。1927年に不確定性原理を提唱したハイゼンベルクや、本書の主人公パウリの最初の師であった。
2 量子数(英: quantum number)とは、量子力学において、量子状態を区別するための番号のこと。
3 ゼーマン効果(ゼーマンこうか、Zeeman effect)は原子から放出される電磁波のスペクトルにおいて、磁場が無いときには単一波長であったスペクトル線が、原子を磁場中においた場合には複数のスペクトル線に分裂する現象である。原子を電場中に置いた場合のスペクトル線の分裂はシュタルク効果という。
4 定常状態 量子力学で、系4-1のエネルギーが一定値をもっている状態。
4-1 系 物理学で定義される「系=システム(system)」とは、識別可能な物体または、より小さなシステムの集合体を指す。


5 閉殻 (へいかく、英: closed shell)とは、

のことである。これとは反対に最外殻に最大数の電子が入っていない状態のことを開殻(かいかく、英: open shell)と呼ぶ。また最外殻のすべての軌道が電子で満たされている場合以外にも、特定の方位量子数をもつ副電子殻が電子で満たされている場合についても用いることがある。

パウリの一番やさしい排他原理の定義を引用したら、そこに5つも注が付いてしまった。
それでも上の説明を読んで、私自身何を言っているのか分からなかった。
要するに、量子物理学の量子を区別するためには、最初は三つの量子数でいいと思っていたけれど、実験と一致するには、四つ目の電子の量子数が必要だということを示した。
量子力学は「古典力学」(ニュートン力学など)と対比される「新しい力学」であり、パウリは第四の量子数を電子のもつ「古典的に記述できない二値性」とのみ言ったが、これを電子固有の角運動量として電子のスピン(自転)に結びつけたのは、ユーレンベックとハウトスミットというアメリカに移住したオランダの物理学者たちだった。パウリは最初彼らの考えに反対したが、後に実験との不一致が解消したため、態度を変えた。最終的にスピンは古典力学に対応物のない量子数と理解され、パウリの初めの考えが正しかった。

スピンと排他原理は、ハイゼンベルクが1925年に提唱した量子力学(行列力学)の約半年前に提出され、前期量子論の成果と見なされたが、後にどちらも原子内電子だけに成り立つのではなく、もっと一般的にすべての素粒子の持つ性質であり、すべての素粒子に関係する物理学全体にとって重要な原理であることがわかった。

量子力学のハイゼンベルクの「不確定性原理」とかパウリの「排他原理」とかボーアの「相補性」とか、ほぼほぼ物理学の何かに聞こえない、というのが私の第一印象だった。「位置を特定すると、速度を特定できない。その逆も真」とか、原子内電子の定常状態5はこれら四つの量子数により完全に決まり、その一つの定常状態には一個の電子しか入れないと考えたパウリの「排他原理」にしても、電子などの微小粒子は、位置を確定すると運動量が不確定になり、運動量を確定すると位置が不確定になるという二重の不確定性関係を表わし、物質の粒子性と波動性との二重性格によるもので、この二つの性格を相補的であるという量子力学の解釈を強調するために導入した概念ニールス・ボーアの「相補性」にしても、原理なのに何かの否定だったり、「二重性」と言う性格だったり、物理というより哲学的ですらある。

それもそのはず、ハイゼンベルクもパウリもギムナジウム(ヨーロッパの中等教育機関)でギリシャ語やラテン語を勉強し、おそらくボーアも同様で、ハイゼンベルクはギリシャ哲学の本をよく読んでいて、そこにそれ以上分割できない「アトム」についてのギリシャ人の記述に親しみ、ボーアもその講演や話し方がよく「哲学的」でわかりにくいと言われ、パウリは、精神を病んで心理学者のカール・ユングの精神分析を受けるなかで、哲学のみならず、中世の錬金術や数秘術(カバラ)にまで接した。ハイゼンベルクの自伝は、半分物理学、半分哲学的内容である。20世紀初頭に生まれた知識人として、彼らの頭には物理学だけでなく、哲学や、古代ローマ・ギリシャの書物があった。

ちなみに素粒子物理学とは、こんなことをやっている人たち。


32cmの水素泡箱(bubble chamber)内でのラムダ粒子の崩壊CERNの画像より。
http://cds.cern.ch/record/39474/files/?ln=ja
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