第5話 第15章
文字数 1,667文字
「おおい、真琴。それに誠くん。ちょっと話があるんだ」
二人が初詣の邪魔にならないように寺の裏側で遊んでいるのを見つけて孝は近づいた。
「これからしばらく、真琴は保育園終わったら家に直接帰れって。お母さんがそう言った」
真琴は眉をへの字型にして、
「どうして? それじゃ合気道行けないじゃん。イヤだし」
誰に似たんだか、最近口調が生意気である。
「仕方ないよ、お婆ちゃんもそうしろって言ってんだよ」
「イヤだ。」
「頼むよ、真琴〜 なんでも買ってやるからさあ」
「イヤなものはイヤ。それよりマコと同じ小学校行く話、どうなってんの?」
んっぐ、孝は喉を詰まらせる、餅食ってる訳でもないのに。
「そ、それなんだけど。ちょっと、しばらくの間、誠くんと会うの、やめなさいって、お母さんとお婆ちゃんが」
あくまで人のせいにする孝。それをなんなく察知する二人のマコト。
「どういうことだろ。会っちゃいけないなんて……」
「たぶん、ぼくのおばあちゃんとマコちゃんのおばあちゃんの何かのかくしつだと思う」
「カクシツ? 何それ?」
「ケンカしているじょうたい。それがさらにあっかしているようだね」
孝は誠の聡明さに感心してしまう。
「それって、パパのかいしゃがタワマンたてる話?」
孝はギョッとなる。正確には建てるのではなく立ち退かす、のだが。一体どこから真琴はこの話を嗅ぎつけたのだろう。
「それにタカさんがはんたいしてるって話?」
孝は渋々首を縦に振る。
「でもそんなのアタシら子どもにはかんけいないじゃん! なんでマコとあそんじゃダメなのよ! おかしいじゃん、そんなの!」
正論だ。正に正鵠を得ている。だがな真琴、世の中は正論だけじゃ生きていけないんだわ……
「あは、ロミオとジュリエットみたいになってきたね、ぼくたち」
誠がニヤリと笑いながら孝を睨みつける。怖っ 状況を分かっていながら、それに流されまいとする決然とした眼差し。いい男だなあ、まだ若いけど。
「そんな訳で。当分二人は会えなくなるから。さ、真琴、帰るよ。誠くん、元気でな。」
暴れる真琴の手を引きながら寺を後にする孝であった。
「上等じゃねえか。いよいよ全面戦争ってやつか、コラ!」
マミが異様にハイテンションとなる。戦争って、まさかそんな。誠はそんなことにはならないよ、と母を宥めるのだが。
「そうね。当分真琴ちゃんと会うのはやめなさい。アイツらのことだから、マコちゃんのこと攫うくらいするかも」
マミは真っ青になり、誠は呆れ顔で首を振る。
「そんなことする訳ないよ。そんなことしたらあの会社つぶれちゃうって」
マミが震えながら、
「チゲーよ、そーだよ、誠、お前危ねえわ。ママ、当分誠一人で外出さないで!」
貴子が不審そうにマミを見るとマミは軽く顎を上に動かす。貴子は溜息をつきながら、ベランダでタバコ吸おうっと、と言ってソファーから立ち上がる。
「なんですって! アイツら、若林組動かして、そんなことを?」
貴子は咥えていたタバコをあっさり下に落としてしまった。小さな赤い火がみるみる小さくなり、一階のベランダに落ちた時に一瞬明るくなり、すぐに闇に紛れた。
「カシラは大反対してんだよ、もちろんトラの奴も。でも多勢に無勢ってか、中々上手くいかねえみたい」
娘がちょっとしたことわざを絡めてきたのを驚きながら、
「それじゃあ今組は二つに割れてんだ。道理で最近組の人ちっとも店に顔出さなくなった訳だ。それで、古賀さん、どこまで本気なの?」
「いや、今回はガチで来るよ。下手したら怪我人、いや死人が出るよ、仁義不問のガイジンだからな」
娘が新語を創作するとは。この歳になって変わりゆく娘に目を細めつつ、
「あたし達、どうしたら一番いいのかな?」
マミが低く呟くように、
「兎に角。3月末まで、堪えること。なんなら一時休業して実家帰るとか」
あらまあ、兎に角ですって! 驚きを通り越して感嘆しつつ、
「そうね。みんなに相談してみるわ」
「てかアンタ、さっきから人の話ちゃんと聞いてた?」
貴子はぺろりと舌を出して、もう一本煙草に火を点けた。
二人が初詣の邪魔にならないように寺の裏側で遊んでいるのを見つけて孝は近づいた。
「これからしばらく、真琴は保育園終わったら家に直接帰れって。お母さんがそう言った」
真琴は眉をへの字型にして、
「どうして? それじゃ合気道行けないじゃん。イヤだし」
誰に似たんだか、最近口調が生意気である。
「仕方ないよ、お婆ちゃんもそうしろって言ってんだよ」
「イヤだ。」
「頼むよ、真琴〜 なんでも買ってやるからさあ」
「イヤなものはイヤ。それよりマコと同じ小学校行く話、どうなってんの?」
んっぐ、孝は喉を詰まらせる、餅食ってる訳でもないのに。
「そ、それなんだけど。ちょっと、しばらくの間、誠くんと会うの、やめなさいって、お母さんとお婆ちゃんが」
あくまで人のせいにする孝。それをなんなく察知する二人のマコト。
「どういうことだろ。会っちゃいけないなんて……」
「たぶん、ぼくのおばあちゃんとマコちゃんのおばあちゃんの何かのかくしつだと思う」
「カクシツ? 何それ?」
「ケンカしているじょうたい。それがさらにあっかしているようだね」
孝は誠の聡明さに感心してしまう。
「それって、パパのかいしゃがタワマンたてる話?」
孝はギョッとなる。正確には建てるのではなく立ち退かす、のだが。一体どこから真琴はこの話を嗅ぎつけたのだろう。
「それにタカさんがはんたいしてるって話?」
孝は渋々首を縦に振る。
「でもそんなのアタシら子どもにはかんけいないじゃん! なんでマコとあそんじゃダメなのよ! おかしいじゃん、そんなの!」
正論だ。正に正鵠を得ている。だがな真琴、世の中は正論だけじゃ生きていけないんだわ……
「あは、ロミオとジュリエットみたいになってきたね、ぼくたち」
誠がニヤリと笑いながら孝を睨みつける。怖っ 状況を分かっていながら、それに流されまいとする決然とした眼差し。いい男だなあ、まだ若いけど。
「そんな訳で。当分二人は会えなくなるから。さ、真琴、帰るよ。誠くん、元気でな。」
暴れる真琴の手を引きながら寺を後にする孝であった。
「上等じゃねえか。いよいよ全面戦争ってやつか、コラ!」
マミが異様にハイテンションとなる。戦争って、まさかそんな。誠はそんなことにはならないよ、と母を宥めるのだが。
「そうね。当分真琴ちゃんと会うのはやめなさい。アイツらのことだから、マコちゃんのこと攫うくらいするかも」
マミは真っ青になり、誠は呆れ顔で首を振る。
「そんなことする訳ないよ。そんなことしたらあの会社つぶれちゃうって」
マミが震えながら、
「チゲーよ、そーだよ、誠、お前危ねえわ。ママ、当分誠一人で外出さないで!」
貴子が不審そうにマミを見るとマミは軽く顎を上に動かす。貴子は溜息をつきながら、ベランダでタバコ吸おうっと、と言ってソファーから立ち上がる。
「なんですって! アイツら、若林組動かして、そんなことを?」
貴子は咥えていたタバコをあっさり下に落としてしまった。小さな赤い火がみるみる小さくなり、一階のベランダに落ちた時に一瞬明るくなり、すぐに闇に紛れた。
「カシラは大反対してんだよ、もちろんトラの奴も。でも多勢に無勢ってか、中々上手くいかねえみたい」
娘がちょっとしたことわざを絡めてきたのを驚きながら、
「それじゃあ今組は二つに割れてんだ。道理で最近組の人ちっとも店に顔出さなくなった訳だ。それで、古賀さん、どこまで本気なの?」
「いや、今回はガチで来るよ。下手したら怪我人、いや死人が出るよ、仁義不問のガイジンだからな」
娘が新語を創作するとは。この歳になって変わりゆく娘に目を細めつつ、
「あたし達、どうしたら一番いいのかな?」
マミが低く呟くように、
「兎に角。3月末まで、堪えること。なんなら一時休業して実家帰るとか」
あらまあ、兎に角ですって! 驚きを通り越して感嘆しつつ、
「そうね。みんなに相談してみるわ」
「てかアンタ、さっきから人の話ちゃんと聞いてた?」
貴子はぺろりと舌を出して、もう一本煙草に火を点けた。